仮面の内側
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そのあと、料理が運ばれてきて
気まずかった空気も、おいしい食事のおかげで
少しずつ和らいでいった。
出された料理はどれもこれも私には理解できない
おしゃれすぎるメニューばかりで
皿が運ばれるたびに昴さんに尋ねていた
昴さんは笑いを堪えつつも一つ一つ丁寧に教えてくれた。
いや、あんまり笑いはこらえきれてはいなかった。
コースが一通り終わって、
残りがデザートだけになったころ、
昴さんは胸ポケットから
小さな箱を取り出して、
「お誕生日、おめでとうございます」
と言って、イヤリングを差し出してきた。
「どうして、知ってるんですか」
「企業秘密です」
「まあ、ありがとうございます」
昴さんの謎についてはそのうち話してくれると信じるとして、
「かわいい……」
目の前にあるのは、
控えめで上品なピンクパールのイヤリング
昴さんがこれを一人で選んだんだと思うと
なんだか笑えてしまう。
「気に入っていただけたようでなによりです」
「本当にありがとうございます」
昴さんからもらった箱を、大切に鞄にしまうと
見計らっていたようなタイミングでデザートが運ばれてくる
さすが一流レストランだなあ、なんて変なところに関心してしまう
運ばれてきたのはシンプルなイチゴのムース
かわいらしい見た目に思わずテンションが上がる。
ムースを一口食べたあたりで
今度は世間話のようなトーンで昴さんが話しかけてくる。
耳だけ昴さんのほうへ意識を向けているが
正直私は今デザートに夢中である。
このムースの舌触りが最高だ、今度新一に買って来てもらおう。
「今日は、お別れを言いに来たんですよ」
「え」
昴さんの言葉に思わずデザートから顔を上げる。
どういうこと、
そう小さくつぶやいた私に昴さんは優しい笑顔で続けた。
「もう一つ、君に謝らなければいけないことがあるんです」
「なんでしょう」
昴さんの言葉の続きを促す。
「実は、沖矢昴なんて人間は、この世に存在しないんですよ」
「は?」
この人は、今、なんて言った?
「君も、新一くんからある程度話を聞いていますよね?」
「え?何がですか?」
「え?」
なんてことないように、話を進めようとする昴さん。
待ってほしい。それはあれだ、なぜか腹立たしいことに
私にだけあえて教えてくれなかった類の話だと思う。
私だけ置いていかれてるやつだ。
そんな意味も込めて
「私は何も聞かされてません」
とだけ言うと、昴さんは心底驚いたように目を見開いてから
はああ、と大きなため息をついた。
なんなんだどいつもこいつも。
ため息つきたいのこっちなんだけど。
「あの…?」
ため息をついたまま難しい顔をしている昴さんに
ためらいながらも声をかけた。
「新一くんが言ってないのであれば
僕がどこまで言っていいのか、判断ができませんが…」
昴さんは自分の左手を口元に持っていくと、
そのままそらしていた視線をふと、私の方へ向けた。
「ドライブに、いきませんか?」
「は?」
この人は本当に、私と話をする気があるのだろうか。