仮面の内側
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目の前に昴さんがいる
その事実があまりに衝撃的で受け入れられずにいる私は
さっきまで穏やかだったはずの心臓が激しく脈打つのを感じながら
正面のイスに腰かける。
「どうして…?」
ようやく口から出たのは、そんな単純な言葉だった。
どうして、今ここにいるのか
どうして、あれから姿を見せなかったのか
どうして、そんなに素敵な笑顔で笑っているのか
どうして、どうして、どうして
私の頭の中でその一言がぐるぐると回り続ける。
「まず、すみませんでした」
私の言葉が聞こえていなかったのか、それともわざとなのか
昴さんは私の問いには答えずに
軽く頭を下げながら、先ほどまでの緩んだ表情からは
想像もできないほど、真剣な声だけが伝わってきた。
「それは、何に対しての謝罪ですか」
心臓の音が鳴りやまないそれでも私の口から出た言葉は、
頭で思っている何十倍も淡泊な声だった。
「あの日、重症の君の前から逃げるように去ってしまったことです」
「それだけですか?」
「と、いいますと?」
「…私、怒ってます」
簡潔に、そう告げると一瞬だけ
昴さんの肩がびくりと震えた気がした。
この人も、そんな反応するんだろうか。
「はい、分かってます
あなたはに一生消えない傷を作ってしまったのに、
僕はあなたの前から逃げてしまった」
「だから」
私の言葉に昴さんは先ほどと同じような言葉を繰り返す。
耐えきれなくなった私は、思わず昴さんの言葉を遮ってしまう
「私は、脇腹の傷なんかどうでもいいんですよ」
「え、?」
昴さんの目が大きく見開かれる。
結構気にしていたのだろうか、これでも一応女の子なわけだし
「その後、何も言わずに留学に行って、
何年も連絡がないと思ったら急に現れるしっ、」
一体私をどうしたいんですか、
なんて言ってしまえば、
今まで蓋をしていた気持ちがあふれかえってくる。
もう忘れようと決めていたはずなのに
ずっとそばで支えてくれると誓ってくれた
あの人と一緒になろう、
やっとそう思い始めることができていたのに
「どうして、今になってそんなこと言うんですか」
止まらない感情が雫となって頬を伝う。
「もう、遅いんですよ。遅すぎます」
それでも昴さんを責める言葉を止めることができなかった。
私の視界は涙で歪んでしまっていて
「すみません」
昴さんはもう一度だけ、そう口にすると少しずつ言葉を紡ぎ始めた
まるで私の涙を拭うように、
決して触れないと誓っているかのように
彼は言葉で私の涙を拭おうとした。
「怖いと、思ったんです僕が君のそばにいれば、
君は何度でも危険な目に会うかもしれない
それが耐えられなかった
僕のそばにさえいなければ、君を事件に巻き込むこともない」
「昴さんも、そんなに事件ホイホイなんですか?」
どこぞの幼馴染みたいなことを言いだす昴さんに
涙を流すのも忘れて、間抜け顔で質問してしまう。
「その件については、もう少し後でいいですか」
昴さんは困ったように笑ってから
右手の人差し指を唇に近付けた。
さっきまでこの人のせいで泣いていたのに
思わず魅入ってしまう色気に今回ばかりはイラっとする。
「でも、君は言ってくれた
そんな短所も含めて自分なのだと」
「……」
昴さんの言葉に一瞬首を傾げるも、
それがこの前のテレビの話だと気づく
まって、この人あの放送見てたの
「こんなことを言うのは、
都合のいいことだって分かっています
でも、今夜だけでいい、
僕との食事を楽しんでもらえませんか?」
昴さんは、眉を下げたまま首をコテン、とかしげて
私にそう尋ねる
その姿がどこかの彼氏様を重なって、
自分はつくづくこの表情に弱いなあ、と思う