もう一度
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「お!でたな、怪盗キッド!」
いつの間にか俺と真純はテレビに夢中になっていた
「ねえ秀にい、あれってどうやったの?」
「ふむ、現場に行ってみないと確かなことは言えんが…
おそらくレプリカだろうな」
「でも、ショーケースから宝石がなくなってるよ!?」
「あの台にでも仕掛けがあるんだろう」
「なるほど……」
久しぶりの妹との推理合戦にも花が咲いてきた、そのときだった。
佐倉を映していた画面が、ぐらりと揺れる
地震か、とも考えたが
同じ都内でもここは全く揺れていないことを考えると
何か別の要因であると推測できる。
「"爆弾魔がこのビルにたてこんでます!
屋上に避難してください!"」
テレビの中からそう聞こえた声に、
俺は目を見開く
爆弾魔?日本の、こんな東京のど真ん中でか?
そんなことがありえるのか、と思わず眉間にしわを寄せる
しばらくして、屋上へ移動したようで、
そこにいた爆弾魔と思わしき人物がテレビに映った。
「…ふむ、」
この男、どこかで見たような気がするのは気のせいだろうか。
闇夜のアーティストと名乗るその男は、
佐倉の胸元にある宝石を確認すると
「"おい女、こっちにこい"」
と、彼女を人質に指名した
きっと、あの宝石を逃走資金に、とでも考えているのだろう
そんな全国放送で盗まれたことが分かっている宝石を
どこの一般人が買い取ってくれると思っているのか
なぜ、彼女なのか、そんな理由も頭では冷静に考えているはずなのに
「ちょっと秀にい!どこいくの!?」
「ちょっと知り合いにあってくる」
犯人の男が佐倉の腰を引き寄せたのを見た瞬間、
俺と同じように一か月休暇をとる予定だった相棒を担ぐと
もといた部屋を飛び出した。
「"おい!これで警察の奴らも見てるんだろ!
一時間だけ待ってやる!!逃走用のヘリを用意しろ!!
この女は人質に連れていく!"」
片耳のイヤホンで、テレビの情報を得たまま
俺は場所も分かっていないビルを探しまわる
あそこまで月が綺麗に見えるということは
ある程度高さのあるビルということになる。
テレビの背景からは、月の陰りになるようなものは映らなかった
「このあたりで、独立している高層ビル……」
数年前まで、この地で生活し、
散々狙撃スポットを探し回っていたおかげで、
「あそこしかない、か」
すぐに目的の場所のめぼしを付けることが出来た。
「"女、不運だったな
お前たしかあの高校生探偵の工藤新一の女だったか?
あんな男と付き合ったりするからこんな危険な目に巻き込まれるんだよ
恨むなら自分のダンナを恨みな"」
ホテルの駐車場から車に飛び乗り、
車のキーを差し込みアクセルを思い切り踏み込んだころ、
スマホから男の声は、そんなことを尋ねていた
危険な目、か
他人事とは思えないその問いに無意識にどきりとしている
自分に思わず笑ってしまう
自分から離れていった以上、
俺には彼女の言葉を待つ権利すらないはずなのに
と、いうか、
付き合って、いたのか
「"新一を彼氏にした覚えはないけど、
まあ一万歩譲ってそうだったとしても
アイツを恨んだりはしないよ
自分の危機を乗り越えられないのは自分の責任。
彼に非はないでしょ。まああいつが仕掛けてるっていうなら
今度こそ本当にぶっころすけど"」
「"まあ、たしかにあいつは事件ほいほいで
そろそろお祓いしてもらうべきだとは思うけど
そんな短所も含めてアイツなわけだからさ、
それを含めて好きだって言ってくれる人が
きっと現れるんじゃないかな"」
そう続けた彼女の声音はとてつもなく優しくて
自分でも許してもらえるのではないか、と錯覚してしまうほどだった。
「おれも大概だな」
もう一度自嘲するように笑ってから、夜の街を猛スピードで駆け抜けた。