その言葉が聞きたくて
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あのビルの事件から数日後、
危険な目に合わせたお詫び、ということで
鈴木相談役からディナーのペアチケットを頂いてしまった。
キットの警護もなかなか危険だとは思うんだけど
まあ桁が違うってことなのかな
レストランはさすが鈴木財閥だけあって
高層ビルの展望レストラン
たしかミュシュランの星も獲得しているほどの名店だ
なぜだかもう予約をされてしまっているらしく、
日付と時間が決まっていた。
せっかくだし、わが彼氏様を誘おうと思ったのだが
「すいません、その日は探偵の仕事があって」
こんな高級レストランを断るなんて、
よっぽど大事な仕事なんだな、と思いつつ
蘭に連絡を入れると
「ごめんね、その日は園子と約束があって!」
と断られてしまう
じゃあもう仕方ねえな、と半ばヤケクソで新一に連絡すると
「悪ぃな!その日は楽しみにしてた推理小説の発売日でよ!」
なんて相変わらず腹立つ理由で断られてしまった。
その後も、何人かの知り合いに声をかけてみたものの全滅
そんなに皆忙しいのか、なんだか悲しくなってきた。
ディナー当日
相手がいないとはいっても、
行かないというのはもったいなさすぎる高級レストラン。
寂しさ全開だけど仕方ない、一人で行くか。
そう思って、適当なワンピースを来て
一人、高層ビルに向かおうとした、のだが_______
「薫さん!?
まさかそんな恰好でいくつもりなんですか!?」
ポアロの前を掃除していた透さんに声をかけられる。
おいまて、お前探偵の仕事は
「そうですけど、それより透さ「ちょっと来てください!」」
透さんは私の言葉を遮ると
どこに止めてあったのか、どこからか車を出して来ては
猛スピードでどこかへと向かった。
え、誘拐?
「ああ、もしもし?
やっぱり君の予想通りだった、うん、今すぐ向かう」
片手でハンドルを切りながらどこかへ電話をする透さん。
お前、絶対暇なんだろ。私ちょっとおこだからな。
キィィィ!!
そう大きな音を鳴らして止まったのは工藤邸
車のドアを開けてエスコートしてくれる。
透さんについていくと、
そこには怖い顔をした新一と有紀子さんの姿があった。
「まあ!ほんとにやる気ない格好ね!」
「お前それ普通にドレスコード引っかかるだろ」
新一が呆れたようにそう言ってくる。
まて、お前も絶対ひまだっただろ。
なんなんだお前ら、そんなに私と行くの嫌だったのか、泣くぞ。
そう思って涙目になってくる私にもお構いなしに
有紀子さんはあれやこれやと奥からドレスを引っ張って来ては
安室さんとああでもないこうでもないとなにやら言い合っている。
「いや、やっぱり赤だろ」
新一もぼんやり眺めているようで口を挟むし、
なんなんだ一体さっきから
結局赤のドレスに着替えさせられて
有紀子さんと安室さんの二人がかりで
ヘアからメイク、ネイルまで完璧に施されてしまった。
こんなにおしゃれしてどうしろっていうんだ。
私の支度を終わらせると、
なぜだか透さんもスーツに着替えていた。
なあんだ、なんだかんだ言って透さんが一緒に行ってくれるわけね
謎のサプライズに合点が言った私は
透さんに
「ツンデレですね」
とだけ言うと、
安室さんはいやあ、となんだか分かりやすくはぐらかすだけだった。
「薫さん」
「はい」
と、不意に私の名前を呼んだ
急に呼ばばれてどきりとしてしまう
透さんは少し悲しそうな顔をして
「もし、貴方が心から共にいたいと思える人に出会えたなら、
そのときは僕のことなんて気にしなくていいですからね」
そういって笑った
その透さんの顔は、今まで見た中で一番綺麗で、
そしてちょっとだけ泣きそうな顔をしていた。
「そんな人、現れませんよ」
透さんのことを忘れてでも側にいたい人なんて、
もうどこにもいない。
「薫さん、」
「はい、なんですか」
「……いえ、なんでもないです」
そう言うと、安室さんは久しぶりに困ったように眉を下げてもう一度笑った。
その安室さんの表情に首を傾げつつ
安室さんとオシャレなディナーは初めてなのでちょっと緊張してしまう
少し日が沈んできたころ、
目的のビルに到着し
安室さんにエスコートされるまま、
目的のレストランへと向かう。
「ここ、ですね」
安室さんが立ち止まった。
"goddess"
女神、という意味らしいそのレストランは
どこか懐かしさを感じさせる雰囲気だった。
ああ、ここまで来て、あの人のことを思い出してしまうのか
透さんに申し訳なさでいっぱいになる
彼はここまで私のことを想ってくれているのに
私は結局変われていない。
そう思うと、透さんの手を取っている私がひどく滑稽に思えた。
私の心が伝わったのか、その瞬間に
透さんの左手が、私の右手からそっと離された。
「え、?」
驚いて透さんの顔を見上げる。
彼は、いたずらが成功したときの子供のような笑顔をしていた。
「ここから先は、一人で行ってください」
「なんで」
「いいから、」
それだけ言うと、透さんは踵を返して去ってしまって行った。
やっぱり私、愛想付かされちゃったのかな、
そう思いながらとぼとぼとレストランに入る。
こうなったら思いっきり食べてやろう!
そう意気込んで、ボーイに案内された席を見て、私は言葉を失った。
「久しぶり、ですね」
高層階の、夜景の綺麗なレストラン
数年前に訪れた、異国のあのときと同じ。
そして目の前には
「昴、さん……?」
恥ずかしそうにはにかむ昴さんの姿があった。