その言葉が聞きたくて
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屋上に寒い風が吹き荒れる
きっとこの闇夜のアーティスト(笑)さんのせいだろうとは思うけれど
ここは知らないフリをしておこう。
妙な沈黙もつかの間に、爆弾魔は私の胸元に一瞬目線をやると
にやりと笑ってから
「おい女、こっちにこい」
と私を呼び寄せた。
全くもっていきたくはないが、
起爆スイッチを目の前にチラつかされてしまえば
いうことを聞くしかないだろう。
言われたとおりに私がそばへ行くと、
一目散に私の胸元に手を伸ばした。
びくり、として思わず目をつむってしまうが、
チャリ、という金属音に違和感を感じて目を開いた。
「あれ、なんで」
男が手にしていたのは
さっきまで私が警護していた宝石のついたネックレス
怪盗キッドが持っていたはずなのに、
さっきの騒動にまぎれてか、私の首にかけなおしていたらしい。
私がきょとんとしていると、
爆弾魔は私の腰をグイ、と引き寄せたあと、
撮影クルーに向かって威圧感丸出しに叫んだ。
「おい!これで警察の奴らも見てるんだろ!
一時間だけ待ってやる!!
逃走用のヘリを用意しろ!!
この女は人質に連れていく!」
男の言葉に体がピシリと固まって動けなくなる。
今、何て言った?
人質に、連れていく?私を?どこに、
先ほどまでなぜか感じていなかった恐怖が
思い出したように湧き上がってくる。
___怖い
「人質になら私がなります!
彼女を解放してください!」
キッドが切羽詰まったようにそう叫んでいるのがかすかに聞こえた
あの怪盗、意外に紳士だよな、なんて考える。
「ダメだ、お前は何をするかわかったもんじゃないからな」
一瞬見えた希望も打ち消されて、
私はこの爆弾魔と共に
どこか知らない土地に誘拐されることが決定してしまった。
絶望に打ちひしがれていると、男が愉快そうに話しかけてきた。
「女、不運だったな
お前たしかあの高校生探偵の工藤新一の女だったか?
あんな男と付き合ったりするからこんな危険な目に巻き込まれるんだよ
恨むなら自分のダンナを恨みな」
男はニタリと笑った
何か新一に恨みでもある人なんだろうか。
たしかにあいつは人の恨みを買いまくっている気がする。
「新一を彼氏にした覚えはないけど、
まあ一万歩譲ってそうだったとしても
アイツを恨んだりはしないよ
自分の危機を乗り越えられないのは自分の責任。
彼に非はないでしょ。まああいつが仕掛けてるっていうなら
今度こそ本当にぶっころすけど」
冗談のように笑ってそう言って見せればなぜかキッドが青い顔をする。
「まあ、たしかにあいつは事件ほいほいで
そろそろお祓いしてもらうべきだとは思うけど
そんな短所も含めてアイツなわけだからさ、
それを含めて好きだって言ってくれる人が
きっと現れるんじゃないかな」
私は絶対にごめんだけど。
そう付け足せば、爆弾魔は一瞬きょとんとしてから、
また楽しそうにがはははと笑いだした。
なんだこの人、挙動不審にもほどがある。
私の答えがよほど愉快だったのかなにやら上機嫌になった男は
酔っぱらいのおじさんのような絡み方でキッドに声をかけた。
「おいアンタ!
月下の奇術師なんだろ?暇つぶしに見せてくれよ!」
キッドが思わず
「はぁ~~~?」
という声をあげた
本当に、さっきからこの人は
怪盗紳士というよりは、
どこぞの生意気な幼馴染にそっくりである。
二人が少しの間見つめ合う
なんだかよく分からない緊張感に場が包まれたと思ったら
キッドは
「しかたねえな」
とため息を付いてからがさごそと懐を漁り出した。
すると私の腰を抱いていた男が目の前のイスに腰を掛ける。
「怖がらせてごめんなさいね、
もうここで見てくれればいいから」
「えっ、」
私の耳元でそう囁いた声は
明らかにさっきまでの下品な男の声とは違っていた。
品のある、女性の声。
この人の本当の声なのだろうか、にしてもこの声、どこかで聞いたことがある気がする。どこだっただろう。
私の思考も束の間で、
目の前の男は愉快そうに野次を飛ばしていた。
さっきのは何かの聞き間違いなのだろうか。
ぼんやりと考えながら、キッドのマジックを眺めていた。
「…いつまでやらせる気ですか」
マジックを眺めること数十分
もうネタが切れたのか、
キッドは少し疲れたような声音で男にそう尋ねた。
「ま、このくらいで勘弁してやるか」
男はそう言うと
もう一度私を引き寄せて、
「そろそろヘリも来たみたいだしな!」
とまた楽しそうに笑った。
というかこの人アーティストなのに逃げるんだ、
まあこれ以上爆発されても困るから言わないけど
ヘリを発見した男が、
おーい、と手を振ろうとした瞬間だった
目の前の男の肩を、何かが貫いた
「え、」
男が持っていた起爆装置がカランと音を立てて床に転がった。
それをキッドが見逃さずに、すぐさま拾い上げて回収する。
上空を飛んでいたヘリが屋上に近付き、
たいそうに武装した集団がゾロゾロとやってくる。
武装集団は、肩を負傷した男を捕まえると
そのままビルを後にしていった。
「え、?」
いまだに状況が理解できない私に
キッドが説明をしてくれた
「威嚇狙撃ですよ、ほとんど掠めただけのようですけど」
まったく、どこから撃ったんだか、と
苦笑いをしながら周囲を見渡すキッド
「そ、げき……?」
銃?この日本で?なんだか最近は一生分くらい銃に関わっている気がする。
たしかに、私は狙撃に詳しいわけではないが、
このビルの周辺には同じくらいの高さの建物は存在しない。
「なんだったんだろう、」
何にしても、誰かが助けてくれたってこと、なのかな?