その言葉が聞きたくて
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「はあああ」
大きなため息を付きながらベットに顔をうずめる
あの日、安室さんに告白されたあの日、
驚いて声も出せない私に安室さんはふわりと笑うと
「返事は今すぐじゃなくたって構いません」
とだけ言うと
その日は何事もなかったかのように家まで送ってくれた。
そのとき、なぜだかこっそりと連絡先を交換されていたようで
私の携帯のアドレス帳には安室さんの名前がある。
「別に直接言ってくれればいいのに」
とは思いつつ、安室さんは安室さんで気まずかったのかな
なんて勝手に納得して、もう一度携帯を見つめる。
あの日からもう一週間が経つ。
ポアロをやめた安室さんと顔を合わせるはずもなく
なあなあにしたままこんなに時間がたってしまった。
どうにか返事をしようとおもって意気込んでみるも、なかなか勇気が出ない。
「どうしよう」
いっそのこと新一に電話しようかな、なんて考えていたそのとき、
自分の携帯が着信を告げる。
「誰からだろ…えっ、安室さん!?」
思いがけない着信相手に戸惑うことしかできなかった。
だが、ここまで来たらもう覚悟を決めるしかない、
ふう、と深呼吸を一つしてから、通話ボタンを押した。
「もしもし、」
「"もしもし、薫さんです、よね?"」
「はい」
耳元で聞こえる安室さんの声に不覚にもドキドキしてしまう。
「あの、安室さん、」
「"ちょっと待って、"」
意を決して私が話を切り出すと、安室さんはすぐに私の話を遮った。
「え、」
「"そんな話、電話越しに聞きたくない"」
「え、」
「"ごめんなさい、今薫さんの家の前にいるんです"」
「え!?」
ちょっとストーカーじみた安室さんの発言に窓の外を見る。
見覚えのある車が家の前に止まっていた。
「"会いに来て、くれませんか?"」
その言い方はずるい。
私は肯定することしかできずに、安室さんの待つ玄関へと向かった。
「こんばんは」
「こんばんは」
安室さんは今日もスーツだった。
見慣れない格好に戸惑ってしまう。
私の表情があからさまだったのか
安室さんはいつものように困ったように笑うと
「ちょっと、ドライブに付き合ってくれませんか」
と言って、私を夜の街に連れ出した。
海沿いを走る車
きらびやかな夜景に、あの日のことを思い出してしまう。
昴さんの車に、二人きりで乗ったの日のこと
やっぱり、私は安室さんとは付き合えない。
「ごめんなさい」
「それは何に対して?」
「ずっと待っててくれたのに、こんな返事しかできなくて」
私の言葉に、安室さんはまた困ったように笑う。
横顔だけでもわかる、その下がった眉に胸を締め付けられる。
「謝るのは僕の方なんです」
「え」
「あなたの心に別の男の人がいるのは分かっていました」
「えっ!?」
安室さんの言葉に顔が真っ赤になる。
気づかれていたなんて、私はそんなにあからさまだったかな、
と恥ずかしくなってきて安室さんから目をそらしてしまう。
「それでも、君に気持ちを告げずにはいられなかった」
「……」
「構わないんです、君の心に誰がいようと
僕を踏み台にしてくれて構わない。
それで君のそばにいられる言い訳になるのなら」
「それは、できません」
安室さんが何を言っているのかは分かっているつもりだ
そこまで私を思ってくれているのは本当にうれしい。
でも、それはあまりにも
「残酷、ですか?」
「っ、」
心を見透かされてしまったようで肩を震わせる。
「構わないんですよ。それでも
それが分かっていてなお僕を拒絶する君の方が、
よっぽど残酷だと思いますけどね」
「そんなことっ!」
信号が赤になって、車が急停止する。
思わず振り返って見た安室さんと目が合う
本当に、すべてがあの日と重なってしまう。
「…分かってるんです。
きっと私は嫌われている。だからあの人を想っていても
仕方がないのは分かっているんです。
でも、どうしても心から消えてくれなくてっ」
拳銃で撃たれても、流れることのなかった涙が、初めて流れた。
安室さんは少し驚いたような顔をしてから
ハンカチで優しく私の頬を拭ってくれた。
「もう一度、言いますね」
「…?」
信号が青に変わる。
安室さんは車のアクセルを踏みながら。
まっすぐ前を見て、力強く告げた
「沖矢昴の代わりで構わない
君がボクのことを異性として見ていないことも分かっている
それでもいいから、僕は君のそばに立っていたいと思う
だから、ボクの彼女になってくれませんか」
いつものように困った笑顔で言われてしまえば
私はもう頷くことしかできなかった。