その言葉が聞きたくて
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
そのままもう少し時間は流れて、私たちは大学生になっていた。
(もちろん留年した新一はまだ高校生をやっている)
進路はかなり迷ったが昔から植物が好きなので、
その分野をもっと学べる大学を選んだ。
大きくなってきた桃の木の下で
新一にそう話した時は
「おまえらしいな」
なんて笑ってくれたのを覚えている。
(もちろん新一は今、進路に悩んでいる)
結局あの事件の後から、一度も姿を見ていない昴さんは
新一が帰ってきたのと同じ時期くらいに
海外留学に行ったのだと少年探偵団の子たちから聞いた。
そんな大切な話すらしてもらえないなんて
私は本格的に嫌われてしまっているのか
あのときの昴さんの視線を思い出しながら
そんなことを考えて少し落ち込んでしまった。
に、してもだ
「お金が、ない!」
久しぶりにポアロで世良ちゃんとランチを楽しんでいた私は
あまりの金欠っぷりに、おもわずそう嘆いてしまった。
大学生がこんなにお金が必要だとは思っていなかった。
大学生ってこんなに頻繁に食事会に誘われるもんなの?
先輩の誘いを断るわけにもいかず、
毎週のように遊びに行ってしまっているため
今回もせっかくポアロに来たというのに
私はコーヒーを一杯頼むのが精いっぱい。
世良ちゃんが気をつかって「奢るよ」なんて言ってくれる始末で
本当に情けないったらない。
「それなら、ウチで働きませんか?」
世良ちゃんとの久しぶりの再会でお互いの近況を話し合っていたとき、
背後にいた安室さんが、突然そう言ってきた。
「え、」
「いろいろあって、僕もここのバイトをやめなきゃいけないんですけど、
なんだか人が足りてないみたいで
マスターにお願いだから新しい子が入って慣れるまでは
やめないでくれって言われちゃいまして」
困ったように笑う安室さん
「もう安室さんのハムサンド食べれなくなっちゃうんですか!?」
それはすごく残念だ。
安室さんのハムサンドが楽しみで毎回ポアロに来てるのに
今日は金欠で頼めないけど。
心の底からそう言うと
今度はにっこりと笑った安室さんが
「ええ、なので薫さんが
僕の代わりに作れるようになってもらえるとありがたいんですけど」
私はすぐさま頷いた。
あんなおいしいハムサンドをなくすなんて、
ポアロの常連さん皆が悲しんでしまう
それはもう使命感だった。
安室さんの提案に乗った私は
その一週間後から、ポアロでアルバイトを始めた
アルバイトをするのは初めてだったので
何かと戸惑うことばかりだったが、
梓さんも安室さんも、私に優しく教えてくれたので
半年も続ければ、なんとか一人前に見えるようになってきた
安室さんは、ハムサンドはもちろん
コーヒーや紅茶の淹れ方まで丁寧に教えてくれる。
ちょっとマスターは何をやっているのか、と
感じてしまうこともあったが、安室さんがそれだけこの店に
なくてはならない存在なんだな、と改めて実感すると
確実に訪れる安室さんとのお別れがちょっぴり寂しくなってしまう
それからさらに一か月ほど過ぎて、
安室さんの送別会が開かれることになった。
彼は本当にポアロのアルバイトをやめてしまうのだ
私と梓さんの二人で、頑張って用意した料理を
彼は幸せそうに残らず平らげてくれた。
そのときの笑顔が、なんだかいつもより自然で
安室さんの新しい一面を見ることが出来た気がして
なんだか心がほっこりとしてしまう。
「薫さん」
送別会もお開きになり、
片づけを終わらせて解散になったあと、
着替えるのが遅く、最後に店を出て
戸締りをして急いで家に帰ろうとしたときだった。
「安室、さん…?」
安室さんは先ほどまでとは違ってスーツを身に纏っていた。
いつものラフな格好ではなく、かっちりとしたその姿に目を奪われる
この人は本当に何をしても様になってしまう
今さっきで着替えたのかと思うとちょっとおもしろいけど
「薫さん、好きです
僕と付き合ってもらえませんか?」
「は、」
安室さんのその言葉に
私はそう発するのがやっとだった