それは純粋で単純な
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ガラガラと大きな音を立てて、彼女が集中治療室に運ばれる。
幸いにもここは銃社会アメリカだ。
日本の医師よりは鉛の弾に慣れている。
脇腹に一発当たっただけ、ただそれだけのことだ。
自分がいつも置かれている状況から考えれば、幾分も安全な状態のである。
「薫…クソッ」
目の前の坊やの反応を見つめる。
彼は人並み以上に優しい。
自分がもっと彼女のことをよく見ていれば
巻き込まずにすんだのに、もちろんそれは俺も感じている。
それどころか、結局あのあと自分で自分の命を絶ってしまった
犯人すらも、救えなかったことを嘆いているのだ。
それは平和を生きてきた彼らしい優しさだった。
「あの程度のケガで大げさだろう」
彼の心の負担が少しでも減らすことができれば、
そう思っての言葉だった。俺のその言葉に、坊やは
一瞬目を見開いて何かを言いたそうにしてからそれをのみ込むと
赤井さんはいつも冷静なんだね、と
俺を横目でちらりと見た。
君のような優しさを、持っていた時期が俺にもあったのだろうか。
しばらくたって、手術室のランプが消えて、
執刀医が俺たちの元へと歩み寄ってくる
「無事に成功しました。今は眠っています」
意思のその言葉に、よかった、と心底安心したように
床へペタリと座り込んでしまう坊や。
どうやら腰が抜けてしまったらしい。
申し訳なさそうに俺を呼ぶ坊やを腕に抱えながら
案内された彼女の病室へと向かった。
部屋にいた彼女は、綺麗な顔をして眠っていた。
一応、心電図が通されているが、もう問題はないのだろう。
「君はいつも何度倒れれば気が済むんだ」
からかうように笑いながら、彼女の頬に手を添える。
眠っているはずなのに、小さく唸りながら俺の手に顔を摺り寄せた。
穏やかに微笑む彼女を見た瞬間、
急に今までの罪悪感がどっと押し寄せてきた。
この笑顔を、守りたいと思ったのは誰だ
それを守れなかったのは、誰だ
その上で俺は、何を思った?
"あの程度のケガで大げさな"
脇腹に一発。
たしかに大きなケガではない。
だがそれは、日々危険と隣合わせな自分からすれば、だ。
日本で平和に生きてきた、しかも女子高生__まだまだ子供だ。
そんな彼女が、一生消えない傷を背負ったというのに、
俺は、何を、考えた?
「らしくないことは、するもんじゃないな」
しばらくの間、ぐるぐると考えてから
ハッ、と自嘲気味に笑った。
俺は、対等になったつもりだったのだろうか。
沖矢昴という一般人の仮面を被ったというだけで
綺麗で穢れのないあの少女と、同じ立場に立っていると、
本気で思っていたのか。
____呆れる
ただの人殺しのくせに
こんな血で汚れた手で彼女を救って_いや、
肝心なところでは救えもしなかった。
そんな自分が彼女の隣にいるなんて、最初から許されるはずがなかったのだ。