それは純粋で単純な
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夏さえも軽々と超えてしまう熱気
それに相反してしん、と静まっている会場
全体が、独特の緊張感に包まれる。
「はじめ!」
その合図と共に大きな声援が飛び交い
激しい打ち合いが始まったと思うと
一瞬で審判の全員が白旗を挙げた。
「ほう、」
俺は今、初めて薙刀の大会というものを見ている。
ここのところ、料理を教えてもらったり
家庭菜園まで手伝ってもらったりと
なんだかんだ気にかけてくれていることは感じていた。
たしかに彼女は俺に好意があるままなのだろう。
だが彼女は、こんな27歳の男の生活を
下心なしで純粋に心配してくれている
邪な思いなど一切ないことくらいは
彼女の笑顔を見ていれば簡単にわかることだ。
日頃のお礼もかねて、食事でもと思い
深く考えずにメールを送信した数日後
突然坊やが現れたかと思うと
「薫姉ちゃんの大会、応援しにいこう!」
と言いだしたかと思うと、俺の返事も聞かずに
そのまま都内の体育館に連れてこられた。
「薫姉ちゃんは本当に強いんだよ」
「そのようだな」
自分のことのように誇らしげに隣に座っている坊やがそう言った。
彼女が圧倒的なことは、詳しいルールを知らなくてもわかった。
試合開始の合図と共に相手の懐に入り込み、
軽く打ち合ったかと思えばすぐに旗が上がる。
瞬殺、とでも言うべきだろうか
「ねえ、もうちょっと前行こうよ」
今日の試合は次で最後、
つまりは都大会の決勝戦
この盛り上がりならどこにいても目立たない、
そんな坊やの提案により、
俺たち二人は最前席で試合を見ることになった。
先ほどまでよりしっかりと見える彼女の姿
面をかぶる前の、試合準備をしている彼女の姿を見つめていると
ふと、顔を上げて何かを探すように周りを見渡し始めた。
「薫姉ちゃん!頑張って!」
坊やが隣でそう叫ぶと、こちらを見た彼女と目が合う。
「っ、」
一瞬驚いたように目を見開いてから
彼女は、今までの印象とはまるで違う不敵な笑みを見せた。
僅かな緊張感と、絶対に勝つという自信に満ち溢れたその口元に
心臓がわし掴みにされたように一瞬呼吸ができなくなった。
ああ、いつも朗らかに笑う彼女にこんな一面があったとは。
「昴さん?どうしたの?」
「…いや、なんでもないですよ」
坊やの問いかけに、
俺はいつものようになんでもないように笑ってから
向かい合って礼をする選手を眺めた。