Reunion of sapphire
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「それで?どうしたの?」
もう夏もそこまで迫ってきているというのに、
黒づくめに身を包み、頭にはニット帽までかぶっている
体温調節ができない病気か何かなのかと思わせる季節感皆無な男にそう尋ねた。
この前偶然店先で出会ってからひと月程度、
3日前に急にメールが送られてきた。
「会って話がしたいのですが時間はありますか」と。
「……」
目の前の男は言いづらそうに目線をそらす。
珍しい。素直にそう思った。
いつもは人を視線だけで人を射抜き殺すんじゃないか
と思うほどに強い眼力を向けられるはずなのに。
「めずらしいわね、秀ちゃんがそこまで言いづらそうにするなんて」
あまりにも別人のような姿に、思わず笑ってしまった。
私が笑いをこぼしてしまった事が不満だったのか、
男は不満そうな顔をしつつ、吹っ切れたのか意外な言葉を口にした。
「この前、坊やに浴衣を贈ったそうですね」
「え、ええ、それが何か?」
坊や、というのはコナンくんのことだろう。
何度かそう呼んでいるのを聞いたことがある。
この前、急に知り合いの女将に
「日本にいるなら顔を見せろ」と言われ、
温泉旅行に行くことになったのだが、一人で行くのも味気ないと思い、
コナンくんと、そのお友達の少年探偵団をご招待したのだ。
急な誘いにも関わらず快く了承してくれた彼らに、
ささやかなお礼として、浴衣をプレゼントしただけの話であった。
「……」
なんでもないことのように聞き返すと、
また黙ってしまった。
本当に、いったいなんだと言うのだ。
「なあに、どうしたの?」
そんなに言いづらいのか、できるだけ優しく続きを促してみる。
「あの、ですね……」
「はい、なあに?」
「浴衣、」
「ゆかた?」
「俺にも、作ってくれませんか?」
「え、」
「あの、浴衣を」
「それ、だけ?」
「…わるいですか」
あっけにとられた私が尋ねると、
彼は気まずそうにまた目線をそらした。
驚いた。
何を言いだすのかと思えば
浴衣を、作ってほしい?
つまりあれなのか、この人を殺したような目つきをした、
いい年した成人男性が、不満そうな顔をしていたのは__
「や、やきもち……?」
「悪いですか」
もう一度、今度はこちらに視線を向けながら、
そう尋ねてくる。
ああ、もう本当にかわいいなあ。この子は
「うふふふっ、ご注文でよろしいですか?」
ちょっと、イジワルしたくなってしまう。
「あー……ええ、はい。」
わざわざ注文しに来たかったわけでもないだろうに、
プロとしての私を尊重してくれているのか、
彼はそれ以上不満そうな顔をする事はなかった。
「あぁ、それなら」
少し考えるような素振りそ見せた後、
にやりと笑いながら彼はこう続けた。
「もう一着、女性用の浴衣もお願いできますか?
色素の薄い髪に青い瞳、そんな女性に似合うような浴衣を」
「あら、ガールフレンドへの贈り物?素敵ね」
私の言葉に彼は今度こそ深いため息をついた。
「ゆきさん、わかってて言ってるでしょう」
「なにが?」
「デートの、お誘いです」
今度は耳まで真っ赤にしながらそう言ってきた。
もう、この子は本当に。
これでちゃんと仕事ができているのかが心配になってきた。
しかし、これ以上からかうのもかわいそうなので、
素直に答えてあげることにする。
「浴衣が完成したら、ね」
「日本は、花火が綺麗なんです」
「そうね、花火なんてもうしばらく見てないわ」
「綺麗に見える場所、探しておきますから」
「ふふっ、それは楽しみね」
「では、また夏が近づいたら、連絡しますね」
「ええ、素敵なお誘いありがとう」
彼はそれだけ告げると、さっさと店を出ていってしまった。
FBIって実は暇なんじゃないか、とかちょっと考えてしまう。
楽しみな予定が一つ増えた。
そう、思っていた矢先のことだった。
赤井秀一が死んだという話を聞いたのは___