AKAIside

何度もごめんなさいとつぶやいては、ゆきさんは大粒の涙を流した

そんな彼女の初めて見る表情に、俺は純粋に綺麗だと思った。
彼女の瞳から流れ落ちる雫が、俺の手元で光り輝いている宝石のようで

ずっと美しい憧れの女性だった彼女が
どこか子供のように泣きじゃくる姿が、なんとも愛おしくて

俺は考えるよりも先に、ゆきさんを優しく抱きしめた。

「ゆきさん」

「なあに、」

ゆきさんは怯えたように俺の方を見る
ああ、ようやくわかった気がした
花のような笑顔で笑う彼女が
なんとなく儚げで、いつも放っておけなかったその理由が

きっと彼女は俺の何倍も大人で何倍も子供なのだ。

「結婚してください」

「だから、」

「運命だとか前世だとか生まれ変わりだとか
そんな非科学的で論理的ではないものは信じません
俺はあなたと一緒にいたい、それだけです」

彼女の瞳から、また涙がぼろぼろと零れ落ちる。

俺は彼女の頬に伝う雫を優しく指で拭いながら尋ねる。

「運命とかそんなことはどうでもいいんです
ただゆきさんはどうしたいのか、教えてくれませんか」

俺のことは、嫌いですか

とさっきと同じ言葉を愛の言葉のように紡いだ。

ゆきさんは俯くと、俺の胸に頭を押し付けながらぽつりとつぶやいた

「私、秀ちゃんが思ってるほど大人じゃないわよ」

「それも魅力的だって今気づきました」

「私、すぐどっかいくわよ」

「知ってます」

「私、年に一回石油王のところに行くわよ」

「来年からは俺も行きます」

「私の、一番はずっと正さんよ」

「これからの人生で、追い抜きます」

「ほんとに、私でいいの…？
私、幸せになってもいいの？」

迷子になった子供のように不安そうな顔でそう尋ねるゆきさん

俺は彼女の頭を優しくなでながら

「あなたじゃなきゃ、だめなんです」

と答えると

ゆきさんは「ううっ」と唸って、少し考えるような素振りを見せてから、
遠慮がちに俺の背中に腕を伸ばして

「よろしくおねがいします」

とうっとりするようなきれいな笑顔でそう言った。