「それで、返事は聞かせてもらえますか？」

感動の再会からしばらくして、
サファイアのソファーに腰かけた秀ちゃんは思い出したようにそう言った。

返事、か
そういえばそんな話をしていたっけ
なんて忘れているわけもないのにわざとらしく考える。
そんなことは考えるまでもなく決まっている。
ずっと考えていたこと、
この時がくるのを長い間待っていたのだろう。
この日が来るのが待ち遠しくて、そしてとても恐ろしかった。

私は秀ちゃんの向かいのソファに腰を掛けると
彼の目をじっと見つめてから、いつもと変わらない笑みで

「ごめんなさい」

と言い放った。

秀ちゃんは一瞬大きく目を見開いてから
少し悲しそうに眉の端を下げて、
それでも瞳の奥の情熱を隠す気もなく

「ワケを、きいても？」

と返してきた。

「っ、」

いけない

咄嗟に秀ちゃんと目を合わせていられなくて
ぷい、と顔を背けてしまった。
これまで生きてきた中で感じたことのない熱い視線
ひき込まれるわけには、いかない。

「だって」

いつものように、いつものように

「私に秀ちゃんは、＿＿

もったいないわ、

そう、言おうとしたはずだったのに、
言葉が出なかった
否、”言葉がでない”という表現は少し違うかもしれない

言葉を紡ごうとした私の唇は
目の前の彼によって塞がれていた
強引にねじ込まれる舌に驚いて彼を見上げると
そこには先ほどよりもさらに熱い、
怒気を孕んだギラギラした獣のような視線と混ざり合う。

また咄嗟に目をそらそうとするが
今度は彼の大きな手が私の顔を固定して離さない。

「んっ」

あまりの距離の近さと、激しい口づけに
思わず声が漏れてしまう。

そのかすかな声を耳にした目の前の男は
目線を私に合わせたまま、にやりと口の端を上げた。

その姿がなんとも色っぽくて
このままでは本当に飲まれてしまう。
私は出せる限りの力で彼を突き飛ばした。

「なに、するの」

ようやく離れた彼を必死でにらみつけながら
乱れた息を直す暇もなくそう言った。

すると彼は悪びれる様子もなく
前髪をかき上げながら

「してほしそうな顔をしていたので」

とくらりとしそうな色気をそのままにそう言った。