Truth Of Sapphire
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私はそれから正さんからもらったネックレスを毎日肌身離さずつけていた。
正さんからネックレスをもらって一週間が経過しようとしたころ
それは突然に訪れたのだ。
ずいぶんと慣れた朝食の支度を終え、洗濯物を一通り干し終わると、
病院へ向かった。
もう通いなれた道を通り、
見慣れた病室まで行くと、そこに正さんの姿はなかった。
「どういうこと?」
部屋を移動した、というわけでないことは
夫の私物があふれかえったままのこの部屋を見れば一目瞭然だ。
「あの、どうかしたんですか?」
受付にいた女性に尋ねた
すると女性はようやく見つけたとでもいうように
「三条さんのご家族さんですね?」
と軽く確認を取ると、
早足気味のまま、ある部屋に通された。
「ここは……」
集中治療室。
今日の朝方、夫の容態が急激に悪化し、
緊急施術を行ったのだという。
案内してくれた看護師は、
最悪の事態を覚悟しておいた方がよい、とだけ伝えて
私を部屋の中へと案内した。
「旦那さんがお呼びです」
部屋に入ると、
正さんは瞑っていた目をあけ、こちらを向く。
なんの対応もされずに
夫がのんびりとベットに腰かけていた。
もう何をしても手遅れだとでもいうように。
昨日とはまるで顔色の違う愛しい人に声をかける
「正、さん」
「ゆきか、待ってたんだ」
正さんはいつもと変わらない柔らかい笑みのまま続けた。
「俺、もう死ぬみたいだ」
予想はしていた。
彼が入院したあの日から
いつかこんな日が来るのではないか、
そんな恐怖と戦いながらも、毎日笑顔で彼の元へ通った。
今すぐに泣き喚きたい。
でも、一番泣きたいはずの彼が、
笑顔のままいるのだから
私だけが泣くわけにはいかない。
もう残り僅かな逢瀬の時間。
最期くらい、笑顔で見送ってあげたい。
「そう、みたいですね」
精一杯の笑顔でそう言った。
「へたくそ」
彼はすべてを見透かして、困ったようにそう言って笑った。
「正さんこそ」
顔を見合わせれば
二人そろって泣いたように最大の笑顔を見せる。
「ゆきに、言っておきたいことがあって」
「はい、なんですか」
「そのサファイアのことなんだけど」
「はい、素敵な贈り物ありがとうございます」
「それ、魔女の石なんだ」
正さんがぼんやりとした口調のままそう告げた。
「うふふ、そうなんですか?」
こうした彼の話は久々に聞く。
私より物事に詳しい正さんは、
こうしてよく突飛な話をして楽しませてくれたものだ。
「代々伝わる、魔法の石
持ち主の願いを一つだけ叶える、魔女の呪いがかかってる」
「何とも不思議なお話ですね」
のんびりと、彼の言葉に相槌を打つ。
懐かしいな、"ただの友人"のころに戻ったよう。
「信じて、ないだろ」
正さんはため息を付きながらそう言った。
「まさか、素敵な贈り物ありがとうございます。」
「は、呪いの石って言っただろ」
「正さんからの贈り物なら、呪いだって嬉しいです」
「馬鹿だなあ」
「そんな馬鹿な女に惚れたのはどこの誰なんだか」
「ああ、俺だなあ、」
お互いにくすりと笑いながら少しの静寂。
穏やかなその時間に、どうにも泣きそうになる。
「ゆき、その石は、もう君のものだ。
僕のことも、家のことも、全部忘れてくれて構わない
ただ君が幸せでいてくれればそれでいい。
最期の最期で申し訳ないけど、それだけ伝えたかったんだ」
そう、言葉を終えた瞬間だった。
彼の腕がだらんと力が抜けたように下がる。
「正、さん?」
「約束、最後まで守れなくて、ごめんよ」
彼はそうして力なく笑った。
その瞬間、
胸元の大きな石が、
眩しいくらいの瞬きを放ちながら砕け散ったのだった。
正さんからネックレスをもらって一週間が経過しようとしたころ
それは突然に訪れたのだ。
ずいぶんと慣れた朝食の支度を終え、洗濯物を一通り干し終わると、
病院へ向かった。
もう通いなれた道を通り、
見慣れた病室まで行くと、そこに正さんの姿はなかった。
「どういうこと?」
部屋を移動した、というわけでないことは
夫の私物があふれかえったままのこの部屋を見れば一目瞭然だ。
「あの、どうかしたんですか?」
受付にいた女性に尋ねた
すると女性はようやく見つけたとでもいうように
「三条さんのご家族さんですね?」
と軽く確認を取ると、
早足気味のまま、ある部屋に通された。
「ここは……」
集中治療室。
今日の朝方、夫の容態が急激に悪化し、
緊急施術を行ったのだという。
案内してくれた看護師は、
最悪の事態を覚悟しておいた方がよい、とだけ伝えて
私を部屋の中へと案内した。
「旦那さんがお呼びです」
部屋に入ると、
正さんは瞑っていた目をあけ、こちらを向く。
なんの対応もされずに
夫がのんびりとベットに腰かけていた。
もう何をしても手遅れだとでもいうように。
昨日とはまるで顔色の違う愛しい人に声をかける
「正、さん」
「ゆきか、待ってたんだ」
正さんはいつもと変わらない柔らかい笑みのまま続けた。
「俺、もう死ぬみたいだ」
予想はしていた。
彼が入院したあの日から
いつかこんな日が来るのではないか、
そんな恐怖と戦いながらも、毎日笑顔で彼の元へ通った。
今すぐに泣き喚きたい。
でも、一番泣きたいはずの彼が、
笑顔のままいるのだから
私だけが泣くわけにはいかない。
もう残り僅かな逢瀬の時間。
最期くらい、笑顔で見送ってあげたい。
「そう、みたいですね」
精一杯の笑顔でそう言った。
「へたくそ」
彼はすべてを見透かして、困ったようにそう言って笑った。
「正さんこそ」
顔を見合わせれば
二人そろって泣いたように最大の笑顔を見せる。
「ゆきに、言っておきたいことがあって」
「はい、なんですか」
「そのサファイアのことなんだけど」
「はい、素敵な贈り物ありがとうございます」
「それ、魔女の石なんだ」
正さんがぼんやりとした口調のままそう告げた。
「うふふ、そうなんですか?」
こうした彼の話は久々に聞く。
私より物事に詳しい正さんは、
こうしてよく突飛な話をして楽しませてくれたものだ。
「代々伝わる、魔法の石
持ち主の願いを一つだけ叶える、魔女の呪いがかかってる」
「何とも不思議なお話ですね」
のんびりと、彼の言葉に相槌を打つ。
懐かしいな、"ただの友人"のころに戻ったよう。
「信じて、ないだろ」
正さんはため息を付きながらそう言った。
「まさか、素敵な贈り物ありがとうございます。」
「は、呪いの石って言っただろ」
「正さんからの贈り物なら、呪いだって嬉しいです」
「馬鹿だなあ」
「そんな馬鹿な女に惚れたのはどこの誰なんだか」
「ああ、俺だなあ、」
お互いにくすりと笑いながら少しの静寂。
穏やかなその時間に、どうにも泣きそうになる。
「ゆき、その石は、もう君のものだ。
僕のことも、家のことも、全部忘れてくれて構わない
ただ君が幸せでいてくれればそれでいい。
最期の最期で申し訳ないけど、それだけ伝えたかったんだ」
そう、言葉を終えた瞬間だった。
彼の腕がだらんと力が抜けたように下がる。
「正、さん?」
「約束、最後まで守れなくて、ごめんよ」
彼はそうして力なく笑った。
その瞬間、
胸元の大きな石が、
眩しいくらいの瞬きを放ちながら砕け散ったのだった。