One step Of Sapphire
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「あらあら、ご丁寧にどうもゆきと申します。
ところで一体ここはどこなのかしら?」
ネックレスを人前で突然外すこともできずに、
青年に返事を返す。
「新一にいちゃんの家だよ!」
「新一、にいちゃん?」
聞きなれない名前だ。
というか、そろそろ頭も回らなくなってきた。
「まあ立ち話はそのへんにして、
続きは食べながらにしましょうか」
読心術でも習得してるのかというほど
ちょうどいいタイミングで昴さんは
肉じゃがをテーブルの上に置いた。
「おいしそう」
あまりの空腹に言葉が口から洩れる。
「あまり味に自信はありませんが…
よろしければ召し上がってください」
昴さんの言葉を聞いて、すぐさまテーブルの上の御馳走に箸を伸ばす。
「うん、おいしい」
じゃがいもはホクホクでよく味が染みている。
懐かしさを感じるおふくろの味だ。
「それはよかった」
昴さんが嬉しそうに視線を向けるのを感じながら
無我夢中で白米を食べた。ああ、お米おいしい。
急いで日本に来た甲斐があった。
「あ、そういえば」
思い出したように口を開く
「どうしてその、新一さん、の家に?
私、自宅の前にたどり着いたところまでは覚えてるんですけど……」
私の家に寝かせておいてくれればよかったのに、
なんてさんざんご飯を食べておきながらそんなことを思う。
「ああ、あなたが意識を失う前に鍵を持っていたので
拝借して一度あなたの部屋には上がらせてもらったんです」
「なら、」
そのまま寝かせてくれればよかったのに、そう言いかける私に
でも、と昴さんは続けた。
「コナンくんから聞きました。
結構長期間留守にされてたんですよね?
疲労と栄養失調なのは顔を見れば分かりましたし、
あの部屋にすぐに食べれそうなものは何もなかったので
失礼とは思いつつ、今僕が居候させてもらってる家に運ばせてもらいました」
「なるほど……」
たしかに、しばらく帰ってくれないのはわかってたから
冷蔵庫の電源は抜いていった気がする。
別にそこまで節約しなきゃいけないほど
お金に困っているわけではないのだが、
なんというか、もうこれは昔からのクセである。
「それで?ゆきさん?」
それはご丁寧にどうもありがとうございます
いえいえ、なんて
昴さんとのんびりしたやりとりをしていると、
コナンくんはにっこりとした笑顔で私に尋ねた。
「この、3か月以上、
何の連絡もなく、ご飯も食べる暇もないほど、
どこで、なに、してたの?」
怒っていらっしゃる。
ただの小学生のはずの彼の背後から、ドス黒いオーラが見える。
「えっと……知り合いに、呼ばれて……」
「それだけで電話に出れなくなるの?」
「え、電話?」
コナンくんの言葉にびっくりして、私は自分の携帯を見る。
電源を入れても電気がつかない。
電池切れだろう。
最後に充電したのがいつだったのかも思い出せない。
「電池切れね」
「あーもう!」
呑気に笑っていると、コナンくんが大声で叫んだ。
「コナンくん?どうしちゃったの?」
「どうしちゃったのじゃないでしょ!?
ずっごい心配したんだよ?」
まだ怒りが冷めないどころか、油を注いでしまったらしく
コナンはさらに大きな声でそう言った。
「うふふ、ごめんなさいね」
「何笑ってるの!」
「心配してくれたのが、なんだか嬉しくって。うふふっ」
ずっとふわふわと放浪を続けていたせいか
こうやって戻ってこないことに心配されることが久しぶりで
怒られているのに、なんだか心があったかくなった。
するとコナンくんも、そんな私を見て呆れたように
「ほんとに、無事でよかった」
と目を細めて笑ってくれた。
「だから言ったでしょう。
その人にそんな心配するだけムダだって」
昴さんのその言葉に首をかしげる。
「あれ、昴さんとは初対面、ですよね?」
「「あ」」
コナンくんと昴さんの"やってしまった"という声が重なる。
二人の顔を見比べてから、もう一度胸元を確認して、
私はようやく合点がいき、
心の中で小さく「なるほど」とつぶやいた。
「ふふふ、どこかでお会いしたことがあるのかしら
不思議なこともあるものねえ」