Encounter Of Sapphire
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話は数か月前に遡る。
赤井秀一という人間を殺してからしばらく経ち
赤井さんから連絡があった。
「だから、あんまり赤井秀一が親しくしてた人には
会わないほうがいいと思うんだけど」
このFBI捜査官はなにを言いだすのかと思えば
ゆきさんに会いたい、というのだ。
どう考えても不安要素しかないその提案を俺は何度も否定したのだが
聞き分けのない子供のように何度もそう言われては、
もうこっちが折れるしかないだろう。
「もう、仕方ないなあ」
どうしても会いたい人がいる気持ちは分かってしまうからダメだ。
くれぐれも、初対面だからね
と何度も言いながら、サファイアの前までやってくる。
だが、そこにはウェルカムボードも出されていなければ
店の奥に店主がいる様子もない。
「っかしいな、いつもならとっくに店開けてる時間なのに」
体調でも悪いのだろうか、少し心配なってきたとき、
昴さんが何かを指さしながら「これか」とつぶやいた。
"事情でしばらく店を閉めます
いつ頃戻れるかは未定です
ご迷惑をおかけして申し訳ありません
サファイア店主 ゆき"
ゾクリとした。
黒の組織と激闘の直後、
赤井さんの生前、最も親しかった人物といえば__
「あか、昴さんっ」
焦ったように呼びかけると、
昴さんは大したことではないというふうに
「あの人は予想できないほど交友関係が広いですからね
きっとどこかの知り合いにでも会いに行っているのでしょう」
そのうち帰ってきますよ、そう言って昴さんは踵を返した。
確かに、温泉旅行に誘われたときも急だった。
いきなり会いに来い、と言われることが日常茶飯事なのだろうか。
昴さんがそうだと言うならそれ以上何も言う必要はないだろう。
そう思って俺も昴さんの後を追った。
"いつ頃戻れるかは未定です"
その一文に少しの不安を覚えながら。
「さすがにおかしい」
俺の家に居候することになった昴さん、
いやまだ正確には赤井さんが眉間のしわをこれでもかというほど
深くしながらそう言ったのは、サファイアの張り紙を発見してから
もう一か月が経とうとしていたころだ。
あの日から昴さんは、毎日サファイアの様子を見に行っている。
ほんとに怪しく思われるからやめろって言ってるのに
この人は聞く耳さえ持っちゃくれない。
「そんなに気になるなら電話してみれば?」
「できるわけないだろう」
「はは、だよね…」
沖矢昴が急に連絡するわけにもいかないし
かといって赤井秀一が連絡すれば死者からのメッセージになってしまう。
どうしたものかと考えていたとき、ふと
「あ、」
「僕が電話すればいいんだね?」
どうしてもっと早く気づかなかったんだろうか。
「………」
プルルプルル
すぐに電話をかけてみるが一向に出る気配がない。
そろそろ本当にゆきさんの身の安全が危うくなってきてる。
「出ない、ね……」
赤井さんの眉間のしわがさらに深くなる。
もう視線だけで人を殺せそうだ。
すると急に顔の力を抜いて赤井さんははあ、とため息をつく
「これが一般人なら、権限でもなんでも使って探し出すんだがな」
このFBI本気で言ってるのか
「なにぶん、あの人の行動範囲は俺でも予想できないほど広すぎてね」
気長に待つしかないさ、赤井さんはあきらめたようにそう言った。
「でも、もし組織の連中にさらわれでもしてたら…!」
気長に待つと言っても、ここまで来たら帰ってくるかどうかが怪しいのだ。
一番心配してるくせに諦めたように笑う赤井さんにそう言う。
「まあ、その可能性は否定できんが……
なんだかあの人なら、奴らとでも仲良く茶でもしてる気がしてな」
「なにを能天気なことを」
そういう人なんだよ、と言われてしまえば
もうそれ以上何も言えなくなってしまう。
代わりに、この一か月でひしひしと感じた疑問をぶつけてみる。
「そういえばさ」
「ん?なんだ」
「赤井さんとゆきさんって、昔からの知り合い…なんだよね?」
「そうなるな」
「どういう関係なの?」
まあ赤井さんが一方的に想いを寄せていることは
火を見るより明らかというか
「推理してみるか?」
「まあ、赤井さんがゆきさんの事
好きなんだなっていうのはわかるよ」
「ばれていたのか」
驚いたようにそう言う。
なんで隠せると思ってたんだこの人は。
「ばればれだよ」
くくく、と笑って赤井さんは煙草に火を付ける。
「少し、長くなるが…
まあ暇つぶしだと思って聞いてくれるか?」
これは、今よりもう少し昔の話だ、
と赤井さんは今までにないくらい優しい目をしながら語り始めた。