極彩色のシンデレラ
名前
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「じゃあ、一緒に稽古頑張ろうね」
あれから、なぜか。そう本当によくわからないがなぜか大絶賛された私は、当初の約束通りヒロインに決定し、本日初稽古を迎えている。
わーいおめでとうわくわくじゃん、てなるか。
「ああ、よろしくお願いします」
そう言って差し出された手を握る。
にこやかに笑っているのは茅ヶ崎至さん。
明るくて柔らかな髪に、何より柔和に微笑む端正な顔。
これが王子様役だというなら、相当ハマり役だろう。
私が演劇初心者ということもあり、初日は簡単な体感トレーニングがストレッチがメインになっていた。
何度かエチュードもやらされたが、なんというか稽古というよりはお遊びに近い雰囲気。
馬鹿でもわかる。みんな私に付き合ってくれている。
いや、劇団員さんを捕まえて本当に申し訳ない限りだ。
「じゃあ、最後に一回だけ読んでみようか」
途中から席を外していた監督さんが何冊かの冊子を抱えてそう言った。
稽古場にいた全員に配られたのは、私が出演する舞台の台本だった。
「目を通すついでくらいの気持ちでいいからね」
そう言って監督さんは優しく笑った。
笑顔の似合う素敵な人。団員皆に好かれているのもよく分かるなあ。
監督さんの指示に従って渡された台本を皆で読み進める。
が。なるほど。私が選ばれた理由がなんとなくわかってきたぞ。
ヒロインは童話でよく知られるシンデレラ、それは聞いていた通りなのだが。このシンデレラがよく言う"お姫様"だけのキャラクターではなかったのだ。
義理の母の元で貧しい暮らしをする寡黙で従順な少女。
だがその腹の内は真っ黒で、いじわるをしてくる継母や義理の姉たちになんとか復讐しようと常に企んでいて、
舞踏会に向かうために早撃ち対決をするシーンなんかはもう意味が分からなさ過ぎて笑えてしまう。
「"は、ない頭を振り絞ってもその程度なわけ?笑える"」
「"この、性悪女が……っ"」
台本を読み続ける。
なんというか。
これではどちらが悪役かわかったものではない。
ファン感謝祭、というかお祭り企画のようなものと聞いていたのだけれど、こんなに感情移入しずらい女の子がヒロインでいいんだろうか。
「よし、そこまで!」
一時間ほどだろうか。
台本を読み終えたところで監督さんの声が聞こえる。
「今日はこのくらいにしておこうか。
佳奈さん、よかったら一緒に晩御飯でもどうかな」
「大丈夫です。今日この後予定あるので」
「そっか、じゃあまた明日ね」
「はい、よろしくお願いします」
公演まで時間が無いようで、これから平日は毎日稽古なんだとか。
まあ大学もだいぶ余裕出てきたといえば出てきたけど。
とりあえずさっさと帰ってシャワー浴びたい。
久々に丸一日体を動かしたから汗でベトベトだ。
「一成くん、駅まで送ってあげて」
「はいよー!」
監督さんに玄関まで見送られて、帰ろうとしていた時、
どこからともなく三好さんが現れた。
「いや、一人で大丈夫ですよ」
「いやいや、もう暗いし女の子一人で歩かせるわけには行かないでしょー!」
「大丈夫ですって」
「ほらはやくはやくー!」
私の抗議などお構いなしに三好さんは私の手を引いて玄関を飛び出してしまう。
絶対汗臭いから近寄ってほしくないんだけど!
「ねえ監督さん、あの子大丈夫そう?」
「うん、初めてにしては上手ですね!」
「ヒールがハマりすぎてちょっと気になったんだけど」
「最初にしては上出来だと思いましたけど……
至さん、そんなに気になりましたか?」
「ううん、監督さんがそう言うなら気にしすぎかも」
「劇団員じゃない人とお芝居するのもきっとまた楽しいですよ!」
「…うん、そうだね」
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