極彩色のシンデレラ
名前
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「この子が宮下佳奈ちゃんでーす!」
半ば脅しのような形で連れてこられた劇団。
MANKAIカンパニーというらしいその劇団の、劇場の舞台になぜか私は今立っている。
「は、はじめまして……」
客席の最前部に座って何やら考え込んでいる女性と、
三好さんの隣で何やら耳打ちしている女の子?と
団員と思われる男性何人かに囲まれていた。
「えっと、可愛らしい子、だね?」
客席の中心に腰かけていた髪の長い女性が、少し困ったように三好さんに声をかけた。
監督と呼ばれているその女性の表情。
私は演劇の経験もないし、詳しくないけどそれでもわかる。
この人、困ってる。
いや、私も充分すぎるほど困っているんだけど。
私の記憶が確かなら、【君しかいないんだー!】ばりのテンションで結構無理やり連れてこられたよね?
うん。そう。そのはずだった。
じゃあ、なんだ、なんでこの人は首を傾げてるんだ。
"ちょっとイメージ違うかもなあ"って言ったの聞こえたけど。
あまりにいたたまれなくて、
助けを求めるように三好さんの方を見れば彼もなんだか困ったようにあれー?って言って笑っていた。
いや、能天気か。
「え、っと……何かの間違い?だったみたいなので私は失礼しますね」
何が楽しくてこれ以上こんな羞恥プレイを受けなきゃならんのだ。
私はそう思って、舞台から降りようとした。
「あー!待って待って待って!」
場の空気を察したのか、三好さんが私を引き留めた。
「ほら、芝居なんて実際にやってみなきゃわかんないじゃん?」
三好さんがパチリとウィンクをしてそう言った。
綺麗なウィンク。じゃ、なくて。
「いや別に、私一言もやりたいとか言ってないですし
他に候補がいるならぜひその方にお願いしてください」
「ねえごめんってお願いちょっと待って!」
舞台から降りようとする私をなんとか引き留めようとする三好さん。そりゃ、連れてきた手前この人も面目丸つぶれなのはわかるけど。私は気にしないので、なんて言ってもそうじゃないの一点張りだ。
「一成くんがそこまで言うなら、ちょっとお願いしてもいい?」
見かねた監督さんが声をかけてくる。
「エチュード?」
「一成くん、手伝ってあげて」
「りょうかーい!」
私を置いてけぼりにして何やら話が進んでいる。
いやいやいやいや、
「なんで私がテストなんて受けなきゃいけないんですか」
「うっ、まあちょっとしたゲームだと思ってさ!
俺に合わせてくれればいいから!」
まあまあまあまあ、と三好さんは私を窘めてくる。
何度も言うけど、私舞台に立ちたいだなんて一言も言ってないんだけど。無理やりに連れてこられてこの扱い。誠に遺憾である。
「好きに演じてもらっていいけど、
何にもないのもやりづらいだろうから……
兄妹って設定にしておこうか!」
勝手に話が進んでいく。これはもう諦めてしまった方が楽な気がしてきた。
とはいえ、ここまで馬鹿にされるのも心外だ。
いっそのこと「全然イメージと違いました」って言わせよう。
そうだ。そしてさっさと帰って課題やろ。
たしか題材はシンデレラ、なんだよね。それなら……
「よし、じゃあはじめ!」
監督さんの合図が聞こえる。
「ふぁ~~アニキ、おはよ~~」
主人公は勤勉で心優しいシンデレラ。
ならその逆を演じればいい。それなら、わりと得意だ。
「……おう、いつまで寝てたんだ?お前。もう昼だぞ」
三好さんは驚いたように一瞬だけ固まったが、
すぐに芝居に戻った。さすが、劇団員ってところだろうか。
「"休みの日くらい好きにさせてくんない?
アニキは真面目すぎなんだってー"」
「"お前、来年受験だろ?だらけて痛い目見るのは自分だぞ"」
「"はー!アニキが言うと説得力あるねー!
二浪にオニーサマはいうことがちげえや!"」
「"お前なあ……"」
「"ハイハイ、勉強も気が向いたらやりますよー!
あ、アイスあんじゃん"」
「"おい、それ俺のアイスだぞ!"」
「"おお、優しい優しいオニーサマ、
賢い賢い二浪のオニーサマ!
可愛いあなたの妹に慈悲の心を!"」
「"かわいくねーから却下"」
「はい、そこまで!」
監督さんの声で三好さんがピタリと止まった。ので、私も芝居をやめる。なんだろう、心なしかにやにやしてる気がする。
え、なんで。
周りを見渡してみるも、他の劇団員さんもポカンとしてる。
イメージ、外れすぎちゃったかな。
まあ、それは願ったりかなったりか。
そう思って舞台から降りて、客席に放り投げた荷物を手に取る。
「佳奈さん!ぜひ、ヒロイン役をお願いできるかな!!?」
「え、」