極彩色のシンデレラ
名前
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鮮烈
それが最初の印象だった
大学内に設置された作品コーナーのそれを一目見て虜にされてしまう。
重苦しくなりがちな油絵で描かれているはずのそれは、画材を疑うほどの軽快さと目をそらすことができないほどの圧倒的な色使い。
「すっげー…」
単純な、そんな言葉しか出なかった。
彼女、宮下佳奈は学内でも圧倒的な才能を持つ、
いわば天才である。すでにおなじみとなりつつあるコンクール最優秀賞を受賞した彼女の作品が、こうして燦然ときらびやかな額に入れられて、飾られている。
学内でも有名人である彼女だが、その栄光とは裏腹に彼女は友達が少ない。
いや、この場合少ない、という言葉は正しくないのかもしれない。彼女の姿を見かけることは、頻繁にあったが、彼女が友人という存在と一緒にいるところを、自分__三好一成は見たことがない。顔をすっぽりと隠してしまうような長い前髪。
おそらく学内で彼女の顔を見たことがある人の方が少ないのではないだろうか。というかいるのか。重苦しい油絵を軽快に使いこなす彼女の作風が、暗くて重い印象の彼女の髪と被って見えて、なるほど、なんて一人よく分からない納得をしてしまう。
「っと、」
どのくらいその場に立ち尽くしていたのだろうか、時間も忘れてしまうほど魅入っていたオレは、まるで急かすような携帯の着信でようやく我に返った。今日は団員全員でミーティングをするからできるだけ早く帰るように、なんて言われていたことを思い出す。自分が急いで帰ったところで果たしてあのサラリーマンが早く帰宅することなんてあるのだろうかとは思いつつ、だからといってのんびり帰ってしまえばお説教を食らってしまうことは目に見えているので、作品鑑賞もそこそこにして、家路に着くことにした。
「シンデレラをすることになりました」
結局、オレが寮に戻ったとき、集まっていたのは数人程度のもので全員がそろってミーティングが開始できたのはそれから数時間後のことであった。カントクちゃんがゴホンと咳払いをしてから、ただ一言、そう言った。
「おいおい、こんな男だらけの劇団で誰がやるんだよそんな役」
セッツァーの指摘はもっともだった。MANKAIカンパニーの劇団員は全員男だ。まだ体の小さな学生組の中には、何人か女装をして舞台に上がった者もいなくはないが…
「さすがにシンデレラはきついでしょ」
唯一、なんとかなりそうなゆっきーがため息を付きながらそう言った。衣装なら面白そうだけど、という彼の目は輝いている。誰かに着せる気は満々らしい。
「そのことなんだけどね…」
カントクちゃんの話はこうだった。
MANKAIカンパニーの企画として、一般の女の子の中からシンデレラ役を一人選んで簡単なお芝居をしてもらおうという、いわばお祭りのような企画らしい。どうやらこの中から女装の被害者が現れるわけではないらしい。それならよかった。
「監督ちゃんがやればいいじゃん」
セッツァーがのんきにそう言った。
フルーチェさんがすごい剣幕でにらんでいるのもお構いなしなあたりさすが秋組だと思う。
「私がお芝居できないのはみんな知ってるでしょ」
そもそもそんな歳でもないし、なんてカントクちゃんは言うが、年齢と容姿に関してはカントクちゃんは全く問題ないと思う。
まあ肝心の芝居があれなので判断は賢明としか言いようがないが。
「そこで、幸くんと一成くんには、シンデレラ選考を手伝ってほしいの」
カントクちゃんの提案にオレとゆっきーは驚いたように目を見合わせる
「オレたち?」
「うん、今回は二人のセンスでぴったりな子を選んでほしいなと思って」
もちろんお芝居とかは私も見るけどね、とカントクちゃんは言った。なるほど、初めてちゃんとしたオーディションが行われるからこそデザイン担当として見てほしい、ということだろうか。
「オレは構わないよん!」
「俺も、気に入った人に衣装来てほしいし」
拒否する理由も特になかったのであっさりと了承する。シンデレラのイメージといわれてもピンと来ない気はするが、まあ好みで選べばいいのかななんてのんきに思う。
こうして、MANKAIカンパニー初の試みであるシンデレラオーディションが開催されたのであった。
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