初夏の訪れ
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新一がクッキーをあっという間に平らげてしまったので、
再度勉強を始めて数十分ほど経過したころだった。
「飽きた」
「はあ?」
再度お伝えするが、
この工藤新一という男は稀に類を見ない集中力の塊のような男だ。
集中力が意図せず途切れるところなど見たことがないし、
なにより勉強に集中していないのは最初からだったはずだ。
上の空のまま、聞いているふりをしていたと思っていたのだが
ついに目の前の男はそんなことを言いだした。
「……新一のためにやってるんだけど」
「俺にもお前にも必要ない。お前もわかってんだろ?」
にしし、と笑って新一はそう言った。
「新一が言いだしたんじゃん」
そう。
この男の頭脳なら一年のブランク程度問題ないとわ私も思っていた。いたのに、自分から勉強を教えてくれと言いだしてきたはずだ。
「ほら、俺賢いから」
「帰る」
なんだこの茶番は。
すっごく時間を無駄にした。
「え、ちょ、待てって」
新一の制止を無視してリビングを出て玄関へ向かう。
今更こいつに対してこの程度で本気で怒ることはないんだけども。
ちょっとくらい反省しやがれ、という気持ちを込めて玄関を開けると
ザアアアアアァァァァァ
バケツをひっくり返したかのような大粒の雨に、
どっしりと覆う雲の奥の方からは雷の音まで聞こえる。
「……午前中はあんなに晴れてたのに」
「映画でも見るか?」
玄関で呆然と立ち尽くす私に、廊下から新一が声をかける。
「……そうさせてもらう」
「悪かったよ、さっきは」
気まずい沈黙を破るように新一がそう言った。
さっきの事はあんまり気にしてないんだけど、あんなに騒いでおいて結局戻ってきている自分が恥ずかしいくらいで。
「別にいいよ、慣れてるし」
「なんだよそれ」
「新一の構っては今に始まったことじゃないでしょってこと」
「…………悪かったな」
「え、」
揶揄うように言った私の言葉に、新一は小さな声で返事をした。
私は驚いて思わず声を上げてしまう。
「なに、ほんとに構ってほしかったの……?」
「っせーな!久々に学生っぽいことしたかったんだよ!」
新一が顔を真っ赤にして怒鳴り出した。
どんなに大声を出されてもその顔じゃあ全く怖くない。
「っぷ、あはははは」
「笑うなって」
「いや、新一もかわいいとこあるんだなって」
「っせー」
照れ隠しなのか、新一はソファに置いてあったクッションを私の方に投げつけてくる。
痛くはないし、私が取れる程度に加減されていることがわかる。
「いいよ、かわいいかわいい新一くんと映画鑑賞でもしよっか~」
「その話はもういいだろ!」
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