初夏の訪れ
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さっそくやって参りました。みんな大好き玉入れのお時間です!
って、なるか。
救護テントで涼んでいるのも束の間、
私の唯一の出場競技である玉入れの招集がかかり、
たった今競技開始のピストルが鳴らされた。
いや、そりゃ私も楽しもうと思ったよ、思ったけどさ。
「いや、こんな入らないことある?」
地面に落ちてる玉を拾って頭上の籠に入れる。
ただそれだけの簡単なお仕事のはずなのに。
私が投げた玉は飛距離が全く届かずに、籠に触れることもなく落ちてしまう。
なんならさっきから籠を支えてくれている佐藤くんの頭にばかり落下してしまっている気がする。
ごめん。ごめんよ佐藤くん。
「はい、優」
さっきから半笑いの園子が、私にばかり玉を手渡してくる。
「絶対自分で投げた方が入るって」
「優が投げるから面白いんじゃん」
そういってまた吹き出す園子。
園子も別に運動神経は悪くないけど、蘭や新一をはじめとするウチのクラスの規格外体育会系オバケから比較すると、できない方になってしまうようで、こうやって私と一緒に玉入れに参加している。
「佐藤への命中率は高いのにねー」
なんて、園子が楽しそうに言ってくる。
「やめてよ、気にしてるんだから」
「大丈夫大丈夫、佐藤も楽しそうだし」
「えっ」
絶対怒ってるだろうと思って佐藤くん直視できずにいたのだが、
園子の言葉に思わず佐藤くんの方を見る。
と、ふいに目が合った佐藤くんが私の方へふわふわと片手を振ってくれた。
「優しさの権化?」
「何言ってんの」
私が佐藤くんの優しさ全開仏スマイルに心を奪われそうになったときだった。
ごおおお、と大きな音と共に、
強烈な風がグラウンドを吹き抜けた。
私に気遣って片手を離していた佐藤くんが支えていた籠付きの棒がぐらつく。
佐藤くんは急いで両手に持ち直して踏ん張るが、
そもそも相当な重さのある棒だ。
強烈な風に押し負けてしまう。
ぐらりとよろけた棒が、私の方へと振ってきた。
「え、」
避けなければ、頭では分かっていても咄嗟に体は動かない。
これで動くような運動神経であれば私はもっとこの体育祭を楽しめているに違いない。
がしゃん、と大きな音を立てて棒が倒れる。
風の力で横殴りに降りかかってくるその棒は、
私の首を真横から勢いよく薙ぎ払った。日本刀でやったらあっという間に生首が完成するやつだ。
「ちょっと優!?大丈夫!?」
園子が血相を変えて駆け寄ってくる。
ああ、頭がぐわんぐわんして、視界が定まらない。
「全員動くな!」
私の元へ、周囲のクラスメイトが一斉に駆け寄り始めてきたとき、
玉入れに参加していないはずの新一がなぜかそこにいた。
「優、声は聞こえるか?」
「しんいち、なにしてんの?」
「無理に体起こそうとすんな、じっとしてろよ」
「え、ちょっとま、ぅわ、」
ぼんやりとした頭のまま、近付く新一を見つめていると
急に体が浮き上がって、新一の顔が真横に迫ってきた。
「保健室で様子見ます」
新一は早足で校舎に向かう途中に先生にそれだけ告げた。
え、まって、私今新一に抱きかかえられてる?
ぼんやりしていた頭が少しずつ覚醒してくる。
「ちょっと、新一大丈夫だから」
「脊髄強打して眩暈起こした人間が大丈夫なわけねーだろ
揺らさないように運ぶけど、お前もちゃんと捕まってろよ」
「えぇ……」
反論を許さないとばかりに一蹴されてしまう。
新一にいわゆるお姫様だっこ状態で運ばれている私。
この状態でどこに捕まれというのだ。
既に相当密着しているし、新一の顔が真横にあるのは流石に気恥ずかしい。
とは言っても、早くどこかに腕を回さないとこの幼馴染はまた怒ってくるので、仕方なく新一の首筋にそろりと両腕を回す。
「っ、」
「アンタが捕まってろって言ったんでしょ」
新一が驚いて顔を背けた。
もう、こっちだって恥ずかしいのに、お前がそういう反応するなよ。余計に恥ずかしくなるじゃん。
いつの間にか、
えらくたくましくなった幼馴染に運ばれながら、
私はそのまま保健室に向かった。