初夏の訪れ
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制服のシャツがじんわりと汗ばんで、妙に肌に張り付く初夏のはじめ。
幼馴染の工藤新一が復学を果たした。
一年ほど休学していたはずのその男はなぜか留年することもなく、
私たちと同じように進級していた。
「急に高校三年生だけど大丈夫?着いてこれる?」
「うっせ」
私の隣の席に腰かける新一に声をかけるものの、短く返されてしまう。
そう、何を隠そうこの男
つい先日まで小学一年生だったのだ。
ある日突然姿を消したかと思うと、なぜか小さくなって蘭の家に居候していた幼馴染。
江戸川コナンと名乗る少年。
なぜか蘭は気づいていないようだったけど、
明らかに昔の新一だった。そっくり、とかそういうレベルですらない。
いや、本人でしょ。
"コナンくん"に対面した瞬間にそう言った。
何が?なんて蘭はきょとんとして返してきたけれど、
その隣であわあわとしている"コナンくん"の反応こそ
私の言葉が正しかったということを如実に物語っていた。
その後の新一から自分の正体はバラさないでほしい、と念を押されて蘭や園子にも何も言うこともなく一年間過ごして来たというわけだ。
「よかったね、やっとイチャイチャできるじゃん」
「はあ?」
窓の外を目を輝かして見つめる新一に声をかけると、
なんかすごい変な顔をされた。
「いや、蘭」
「蘭がなんだよ」
「付き合ったんでしょ?」
「はあ?」
「え、違うの」
そう言うと新一ははああ、と大きなため息を付いた。
なんだこいつさっきから。
「違う」
「何怒ってんの」
新一はむすっとした顔でまた窓の外を眺める。
「やっぱり急に高校生になって情緒が定まらないの?」
「……もういい」
新一はそれ以上私の言葉に答えることもなく、
窓の外を眺め続けていた。
新一が復学したその日の昼休み。
私はいつものように蘭と園子と真純ちゃんと一緒に昼食を取っていた。
「わあ、蘭のお弁当おいしそう!」
「コナンくんが両親に引き取られちゃったんだけど、
なんだか寂しくなって無駄に凝っちゃった」
蘭はそう言って少し恥ずかしそうに笑った。
かわいい。蘭は昔から本当にかわいいと思う。
新一が好きになっちゃうのもわかるなあ。
「ところで優、アンタどうすんの」
「え、なにが」
お弁当の卵焼きをもぐもぐしていると、
急に園子がずい、と身を乗り出して私に尋ねてくる。
「なにって、工藤君のことに決まってるでしょ!?」
「園子、声大きいよ」
しかもこんな耳元で。
「新一?なんかあったっけ」
もしかして"コナン君"のこと、とかかな。
まだ蘭や園子には話してないって言ってた気がするけど。
そう思って私が首を傾げると、
今度は蘭と園子が口をそろえてはああ、とため息を付いた。
「何その反応」
「いや、なんでもない」
蘭が分かりやすく視線を逸らす。
「まあ、いいけど」
今日は皆して何だというのだろう。
少し考えてみつつ、
私は最後の唐揚げを口に運んで咀嚼する。
うん、おいしい。
開いた教室の窓から、涼やかな風が入り込む。
ああ、夏がもうすぐやってくる。
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