降谷零(安室)
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女子高生は、かわいい。
誤解のないように申し上げるが、降谷自身彼女らを恋愛対象として見ることはまず無ければ、どこぞの怪しい中年男のように下びた笑みを浮かべて舐め回すように見ることももちろんない。あってたまるか。
ただ純粋に、かわいらしい、と思う。
それは降谷がそれほどまでに歳を食ってしまったせいなのか、はたまた自分の学生生活のうちで関わったことのない人種と合い間見えているからなのか、判断がつかないところではある。
降谷は小さい頃から大変容姿の整った男であった。自慢しているわけではないが、客観的に見てもそれを事実として受け入れてしまうだけの経験が、己にはある。そのせいか、学生時代を振り返ったときに、同年代の女の子と仲睦まじく談笑した記憶がとんとないのだ。降谷の記憶の中の同級生と言えば、いつも一緒にいた幼馴染や何かと喧嘩を吹っ掛けて喧嘩をしていくうちに気の置けない間柄になったクラスの男子、それを遠巻きに眺めているクラスの女子と、震えた声で己に想いを告げる顔も名前も知らない女子。うん、やっぱり気の置けない女友達なんぞ、居たためしがない。こちらが友達だと思っていても、たいていの場合で相手が同じ温度感であったことがない。
というわけで降谷にとっては、目の前で楽しそうに声をかけてくる女子高生が、懐かしいやらかわいいらしいやら、なんとも言えない穏やかな気持ちにさせてくれるのであった。
……30越えてくるとやたらと子供が欲しくなるとか、そういう話では決してない。と、思いたい。降谷はまだ、ギリギリ、20代である。
「安室さんって、梓ちゃんと付き合ってるんですか」
カウンターに腰かけて、"本日のおすすめ"である抹茶のシフォンケーキを二口ほど味わってから、目の前の、その女子高生は、真剣な表情で降谷にそう尋ねてくる。艶やかな黒髪は肩甲骨のあたりまで伸びて、彼女が小さく震える度にさらりと揺れる。まっすぐにこちらを向く二つの瞳はパチリと開いて、降谷の返事を今か今かと待っている。
ああ、こういうの、なんていうんだっけ、清楚系?
自分の学生時代にもいたなあ、こういう子。
学年に一人くらい、おしとやかで、優しくて、綺麗に微笑む女の子。柄にもなく自分も憧れたものだ。もちろん、関わることなど終ぞなかった存在に変わりはないのだけれど。
好奇心で目を爛々と輝かせるこの子も、ひとたび教室の、窓際の席に腰かければ、たちまち"憧れのあの子"になってしまうのだろうか、と思うと、なんだかおかしくなってしまって、くすり、と息が漏れる。
「ちょっと、こっちは真剣に聞いてるんですけど」
目の前の彼女は不満そうに唇を付き出す。
もう、なんて小さく呟いてから、手元のケーキを一片、口に運ぶ。たちまち眉間の皺が消え、幸せそうな顔をする。
ああ、かわいらしい。
「まさか、梓さんは僕なんかにはもったいない人ですよ」
というか、そもそも今この状況で女なんて作るつもりは毛ほどもない。ましてやいつ消えてなくなるかも分からない"安室透"の状態で。そんな考えなどつゆ知らず、降谷の返事に彼女はわかりやすく安心した様に肩を下す。
「そう、ですよね……」
「僕に恋人がいると、何か不都合でも?」
あまりにもわかりやすいものだから、思わず色を乗せて、そう囁くと、彼女はまたわかりやすく顔を耳まで真っ赤にするので、今度は堪えきれずに大声で笑ってしまった。
「安室さん、案外意地悪なんですね」
悔しそうに彼女がそう言ったとき、テーブルの上に置かれた、彼女のものであろう携帯電話が鳴る。ピンクのケースが、かわいらしい。
「ああ、もしもし?……ああ、うん、わかった。すぐ行く」
電話に出た直後の、彼女の声の変わり様に、おや、と眉の端を上げる。ああ、わかりやすい。わかりやすい。
「お友達ですか?」
彼女が席を立つ準備をしだすので、こちらも会計の準備をしながら、わざとそう問いかけてやる。答えなんて、わかりきっているのに。
「ああ、あの、待ち合わせ、してたんです。」
彼氏と、と。
最後、ほとんど聞き取れないくらいの声で、唇が動いて、レジから逃げるように店を出る彼女の背中を見送る。
「またのご来店をお待ちしてまーす」
女子高生は、かわいくて、たまに卑怯だ。
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