赤井秀一(沖矢)
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「香水なんて作ってどうするつもりだ」
ぐちぐち文句を言い続ける上司の赤井さんを無視して、
私は香水の都、グラースを訪れている。
ここで自分だけのマイ香水を作るのが、
私の小さい頃からの夢だったりする。
隣にいる赤井さんは全くもってこれっぽっちも乗り気ではないが、パリでの仕事のあとにわざわざここまでついてきてくれるんだから本当に優しい上司だと思う。遠慮とかしないけど。
「ねえねえ!赤井さんはこれとこれならどっちが好きですか!?」
まずはベースのオイルを選んで下さい、
なんて言われて部屋の隅っこで眺めている赤井さんに声をかける。なんていっても彼は訓練されたFBI捜査官だ。(私もだけど)
きっと最適なにおいをかぎ分けてくれるに違いない。
「鼻が利かなくなるから近づけるな」
赤井さんは思ったより冷たかった。
いや、本当のことを言えば彼が正しい。
FBIの捜査官がこんなところで遊んで、鼻が利かなくなってなにかあったら本当に責任問題である。だからこんなに冷たい態度をとっていたとしても、私の夢をかなえるために黙って何も言わずに待ってくれている赤井さんは本当に優しい上司なのだ。気とか使わないけど。
「鼻が利かなくなるって、犬かよ」
「はやくしろ」
どう考えても赤井さんが正しいんだけど、思わず声に出てしまった。こんなこと言われてもため息ついて待っててくれる。
しばらくして、私だけのマイ香水が完成した。
甘い香りの奥にはムスクと少しのスモーキーな香りがなんとも色っぽい。名前は何にしますか、と聞かれて思わず「赤井さんで」と即答してしまった。これにはずっと黙っていた上司も
「おい」
と文句を言ってきた。だがそんなことを気にする私ではない。
"赤井さん"と名付けられた香水は、この工房のレシピとして保管されるらしい。
"赤井さん"というレシピが並ぶのだから面白いことこの上ない。
「グラースに名前を刻むなんてさすがですね」
茶化すようにそう言えば、相当不快だったのか赤井さんはどこかに行ってしまった。珍しく怒ったのか、と少し反省していると、すぐに赤井さんは戻ってきたと思えばなぜか香水作りを開始してしまった。
「なにやってるんですか」
「お前の名もこの地に刻んでやる」
「はあ?」
そんなことのために鼻をダメにするつもりなのかこの上司は。
その程度なら一緒にやってくれればよくなかった?
私はこの人の考えていることがたまに分からなくなってしまう。
いい歳した大人がなにを張り合っているのかは分からないが、赤井さんは淡々と香水を作り上げてしまった。
にしても、赤井さんが小さな小瓶を見比べながら香水作ってるのめちゃくちゃ面白くない?
サイズ感バグりすぎててじわじわ来る。
そうして"佳奈"と名付けられた香水が赤井さんの手元にやってきた。
「………あの、赤井さん」
「なんだ」
「それ、どうするんですか……」
私は赤井さんの手の中に収められている"佳奈"をちらりと見ながらそう尋ねた。
「そうだな、せっかくだし愛用することにするか」
赤井さんはお前の心などお見通しだという風に意地の悪い笑みを浮かべながらそう言った。
「あの……よかったらこれと交換しませんか」
私は自分の手元にある"赤井さん"を赤井さんに差し出した。自分でもちょっとこんがらがってくる。
「ほう?なんでだ?」
赤井さんは意地の悪い笑顔をさらに深めてそう尋ねた。
この人絶対全部分かってて言ってる。
「冷静に考えたらすっごい恥ずかしいなって…思って…」
「と、いうと?」
「あの……赤井さんが"佳奈"の匂いを纏ってるのが…って何言わせるんですか」
赤井さんは私の顔を見て、何やら楽しそうに笑っていた。この人全部分かっててからかってただけだ。くそう。不機嫌なところからすでに作戦だったに違いない。
その後、なんとかして交換することに成功した"佳奈"の香りは、うっとりするくらい色っぽい匂いだった。
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