Have a nice day?
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「何を伝えたいか、かあ」
天馬に言われたことを反芻しながらベットでくつろいでいると、
中野監督から着信があった。
「はい」
「"もしもし境くんかな"」
「はい、どうしたんですか急に」
「"いや、君に頼みたいことがあって"」
「はい、なんでしょう」
「"今度、一時間の特番ドラマを撮ることが決まったんだけどね
君さえよければ脚本を書いてみないか?"」
「え?」
「"難しいこと考えずに、思いついたら教えれくれればいいから"」
「え、いやちょっとまってください」
「"じゃ、連絡待ってるから"」
中野監督との電話はそのまま切られてしまった。
「そんな急な話ある?」
プロの世界にいきなり監督のコネだけで入り込むなんてできる気がしないんだけど?
というか私の脚本なんかでいいのかどうかも分からないし……
「あーもう!」
アレコレ考えていったってきっと中野監督の前では無駄なんだろう。
最近あの人の事がなんとなくわかるようになってきた。
本人も難しく考えなくていいって言ってたし
「やりたいようにやってみるかなあ」
以前ならあり得ない前向きさ、
きっと天馬が背中を押してくれたからだろうな。
「とりあえず、私の伝えたいことを考えるところからだよね……」
何を伝えればいいんだろう。
さっきからずっと考えてるのにいい案が浮かばない。
「頭痛くなってきた」
最近、中野監督と一緒に色んな現場に行ってたからな
今週一週間で、天馬とは比べ物にならないくらいの数の現場を見ている気がする。
そのせいの気疲れっていうか、なんていうか。
とりあえず今日はもう寝てしまおうかな、
ベットの上で目を瞑ろうとしたその時だった。
「うっ、」
鈍い胸の痛み。
喉はヒューヒューと鳴るばかりでまともに呼吸が出来ない。
額からジワリと汗が滲み出る。
ああ、やばい。
「ああ、ぐ、う……」
段々と激しくなる頭痛に、襲い掛かってくる眩暈。
嫌な予感がする。
思わず枕元にあった携帯を手に取る。
「てん、ま」
こんな時にまで頭に浮かぶのはあいつの顔で、
心配かけたくないと思いながらも、声が聞きたくなって電話をかけそうになる。だめ、だめ。
私の声を不審に思った母親が部屋の扉を開けた。
「はやみ!!」
母親の驚いた顔を最後に、私は激しい眩暈に身を委ねて目を閉じた。
_____________________________
「よう、起きたか」
白い天井に鼻につく薬品の香り。
目を開けると見慣れたいつもの景色が広がっていた。
「てんま」
見覚えのある声に体を起こすと、
そこには幼馴染の姿があった。
「お前、また倒れたんだってよ」
天馬は私が目を覚ましたことを確認すると、
慣れたようにナースコールを押した。
「あー、何日ねてた?」
「三日」
「わりと短かったじゃん」
「ふざけんな心配かけやがって」
慣れたように天馬にそう言うと、軽く頭を叩かれてしまう。
おいおいこちとら病人だぞ。
そう、急に意識がなくなって病院のお世話になることも少なくはない。
こうして倒れる度に見舞いに来てくれるのだから、
この幼馴染には本当に頭が上がらない。
「いつ目覚めるかわからないお前をまつこっちの身にもなれっての」
そう、最長で2週間ほど眠っていたこともあったらしい。
自分としては自覚がないからなるほど、なんて他人事だけど、
見守る側からすればそうも言ってられないだろう。
ほんっとうに申し訳ないけど私でよかったと思う。
自分の大切な人が寝たきりになってしまったら私はきっと頭がおかしくなってしまう自信がある。
「はやみも目覚めたし、俺はもう帰るな」
「え、帰っちゃうの」
天馬の言葉に、思わずそう言ってしまう。
だめ、これ以上迷惑かけるわけにはいかない。
私の気持ちを知ってか知らずか、天馬はため息を付いてから、
「俺だってもうちょっとみててやりたいけど、
すぐに先生もくるだろうし、お前も疲れたろ」
そう言って天馬は担当医の先生と入れ替わりで病室を後にした。
なんだかんだ忙しくてもこういうすぐに駆けつけてくれる天馬。
嬉しい気持ちはありつつも、彼の邪魔になってやしないかといつも考えてしまう。
というか、なってるかなってないかでいうときっとなってしまっているんだろう。
今日も仕事を切り上げて来てくれたらしいことは、
彼の服装を見れば明らかだった。
「はやみさんおはようございます」
「おはようございます。天野先生」
先生に声をかけられる。
天野先生。
私の担当医で、こうやって急に倒れる度にお世話になっている。
入退院を繰り替えす私に嫌な顔せず対応してくれる笑顔の素敵な優しいお医者さんだ。
「はやみちゃん、また無理したでしょ」
「別にしてません」
小さい時から非常に体力のない私は、
ちょっとした疲労が貯まるだけで、こうして倒れてしまうのだ。
特に明確に心臓が悪い、とか癌があって、とかそう言うものではない。
生まれつきの体質だし、一生付き合っていくもので、直すこともできない。
「まあ、中学校に入ってちょっと落ち着いてたみたいだけど、
油断しないようにね、そろそろお母さんの方が過労で倒れちゃうよ」
冗談めかして天野先生は言うけど、それも冗談には聞こえない。
「はいはいわかってますよ」
わかってるけど、そうやって私が落ち込む姿を見るのが
お母さんは一番嫌いってよく分かってるから、
天野先生も私も、できるだけ重たい空気にしないように心掛ける。
「じゃあ、来週まで検査入院で、状況見て退院ね」
軽く検査を終えてから、天野先生はそう言い残して去っていく。
両親もひとまず安心だとわかると胸を撫で下ろして家に帰っていった。
一人ぼっちの病室で考える。
いつ目覚めなくなってもおかしくない体。
私はそんな爆弾を抱えて生きているのだ。
これでは将来なりたい仕事ができるかどうかわからないし、
家庭を持てるかもわからない。
そもそも、好きな人に好きだと伝えることすら、
今の私には自信がない。
いつ消えるか分からない自分に、気持ちを寄せてくれる人がいたとして、果たしてそれは幸せなのだろうかといつも考えてしまうのだ。
私にとっての幸せってなんなんだろう。
毎日お母さんのおいしいごはん食べて学校行って、
うん、幸せ。幸せなんだけど。
「私にとってのハッピーエンドって、なんなんだろう」
3/3ページ