夕焼けを刻む時 Ⅰ
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小学校を卒業して、中学生になっても私の気持ちは変わらないままだった。同じ中学に進学した天馬。何を考えているのか、それとも何も考えていないのか天馬は毎朝私の家まで迎えに来ては、行きも帰りも一緒に歩いてくれる。歩幅もスピードも私に合わせて。
「あのさ、天馬」
「んだよ」
「別に、毎日迎えに来なくてもいいんだよ?」
「ついでだよついで」
何度言ってもそうはぐらかす天馬。ついで、なんてへたくそな嘘ついて。天馬の家と学校までの行き道に私の家がないことくらい知らないとでも思っているのだろうか。毎朝わざわざ私の家に迎えに来てくれる天馬に気付かないフリをして、私はそっか、とだけ返した。
彼なりに私との時間を大切にしてくれてるのなら、なんてささやかな期待をする自分が滑稽でため息を付く。そんなわけがない。仮にあるとしても、仕事でなかなか学校にも行けず有名人のくせに友人が少ないこの男は、私のことをなんでも話せて唯一心が置けない友人。それだけの話だ、勘違いしてはいけない。何度もそう言い聞かせているのに、ずっと期待を捨てられないでいる。本当に馬鹿な話だ。
「あのさ」
「なに」
私の先ほどの言葉を繰り返すように、今度は天馬がそう言った。
「俺、今度ドラマ決まった」
「おめでとう」
天馬がドラマに出演することなど、もう珍しくもなんともない。それでもこの男はこうして私に毎回報告してくる上に、毎回毎回私を楽屋に連れていく。別にできることもないのに。意味もなく「皇天馬様」と書かれた楽屋の隅で体育座りをする。
「私、いる意味ある?」
今日も今日とて連れてこられたその部屋で、私は目の前の男にぽつりと愚痴を漏らす。
「っせーな」
黙ってろ、なんてヘアメイク中の為おとなしく椅子に座っている天馬が、視線だけこちらによこしてそういった。なんだこの俺様。天馬の意図が全く分からない上にこの態度。私はご機嫌ななめのまま隣の畳に寝ころんだ。
「あっそ、」
なんて短く返事をすると、ヘアメイクのお姉さんがくすくすと笑いだしてしまった。
「何笑ってんだよ、佐野さん」
「いえ?あの皇天馬も人の子なんだなって思って」
そう言うと、ヘアメイクの佐野さんは、私には聞こえないような小さな声で、何かを天馬に耳打ちする。すると天馬はわかりやすく慌てふためいてこちらを勢いよく振り返った。何なんだ急に。
「ちょっと、天馬くん顔動かさないで」
そう言って注意する佐野さんはまだ面白そうに笑っている。私だけ蚊帳の外のようで、さらに不機嫌になるのを感じる。
「帰る」
そもそもいる意味ないし、そう言って立ち上がると天馬と佐野さんの後ろをカツカツと大股で通り過ぎる。ちょっと待てよ、なんてどこかの俳優のものまねみたいな天馬の静止なんて聞こえない。
「お前、今日ウチの車で来てること忘れてるだろ」
「あ、」
ドアノブに手をかけたとき、天馬からの一言に私は私の意思で帰ることもできないことに気付く。ああもう、なんだっていうんだ。
「お前さ、役者になったりしねーの」
「少なくともドラマ撮影に憧れはないかな」
私がそう返すと、天馬はふい、と顔をそらしてそうかよ、とつぶやいた。もちろん顔を動かしたので佐野さんに怒られてる。
「天馬くんね、」
「ちょっと佐野さん」
少しの沈黙の後、耐えきれないとばかりにため息を付いた佐野さんが、何かをしゃべろうとした瞬間、また天馬が許さないとでも言うようにに静止とかける。だが、そんな天馬など知ったこっちゃないといった態度で、佐野さんは続けた。
「あなたと、また共演したいんだって
だから興味持ってほしくて、毎回現場に連れてくるのよ。結構監督には怒られてるのに、懲りずに何度も」
青春ね、なんて佐野さんがうっとりしながらそう言った。ちょうどヘアメイクが終わったようで、無理やり私の方を向いて立たされた天馬は、顔が真っ赤で今にも湯気が出そうだ。