夕焼けを刻む時 Ⅰ
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「お前、こんなところで何してんだ?」
それが、私とアイツの初めての出会いだった。初夏の心地よい風が通り抜ける病院の屋上でぼうっと空を眺めていた私に、アイツ_皇天馬はそう声をかけた。
「べつに、空を見てるだけ」
「そうか」
そう言ってソイツは私の隣に腰かけて、同じように天を仰いだ。
「何してんの」
「いや、俺もみようかなと思って」
そう言ってソイツは空を見上げたまま黙ってしまった。見知らぬ人間に自分の憩いの時間を邪魔された私は、すくりと立ち上がって屋上と病院内をつなぐ扉へと向かう。後ろからアイツの声が聞こえる。
「おい、どこいくんだよ」
「どこでもいいでしょ」
暗についてくるなと、そう言ったはずなのに、ソイツは
「じゃあ、おれも」
なんて言って立ち上がると私の後ろをついて歩いてきた。なんだこいつ。新手のストーカーか?と不審に思いながら、どうやったらこいつを撒けるのかを考える。ここの館内図は頭の中に叩き込まれている。小さい頃からよく脱出を企てたりしたものだ。見たところ、この少年は足を怪我して入院したのだろう。右足にギブスが巻かされいる。これなら簡単だ。
「あ、」
私はそう言うと、一瞬窓の外を見て立ち止まる。
「どうした?」
なんて言いながらソイツも私の隣で窓の外を覗き込むように眺めた。
今だ。
その瞬間に、私はそばにあった階段を駆け下りる。このまま下に降りればロビーだ。この時間はいつも診察の人で込み合っている。そこにまぎれてしまえば見つけるのは困難だろう。私はロビーにたどり着くと、余裕たっぷりに、待合の人用に置かれている雑誌を一つ手に取ると、そのままソファに座ってそれを読み始める。これで、もう見つけられないだろう。ふふん。
「急にどっか行くなよな、びっくりするから」
その声に、心臓が飛び出るかと思った。声を出さなかっただけほめてほしい。そこにはさっき撒いたはずの、あの少年の姿があった。ソイツはなんてこともなさげに
「お前足早いんだな」
なんて話しかけてくる。いや、待て。なんでこいつこの足で私がここにいることが分かったんだ。さてはこのギブスは飾りなのか?目の前のソイツはお前の考えなどお見通しだ、とでもいうように
「ホントに折れてるよ」
と笑った。
「じゃあ、なんで」
思わず尋ねてしまう。その瞬間、ソイツがにしし、と笑った。
「やっと、話をしてくれるんだな」
「なんの用」
私はソイツがここまでして私のことを構ってくる理由が検討も付かずに、ぴしりと遮るような声音でそう言った。
「俺と、友達になってくれ」
そう言ったソイツの瞳に映る私の顔は、それはもう間抜け顔だっただろうと、今振り返ってもそう思う。