stage0.75歓迎会の出会い
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二人の演説が終わると再び会場が賑わい始めたが、例の金髪男が馴れ馴れしく話しかけてきて離れない。そして、自慢だけではあきたらず、自分の事を棚にあげて信也の批評を始めた。
「アイツも運のいい男ですよね。ただ公爵の甥に生まれただけで純粋なブリタニア人でもないのに偉そうに壇上でふんぞり返って演説。半分イレヴンの癖に偉そうに、公爵に巧みに取り入ったのだろうな」
なぜだろうか、このいけ好かない男の言葉が今日は一段と頭に来る。
(運がいい? 半分イレヴン? 偉そう? 踏みつけられてブリタニアの生活を押し付けられてる私達の何がわかるのよ! 日本の名前を本当の名前と名乗った彼があんな言葉を言いたくて言ってるわけないじゃない!)
「所詮は口舌の徒、いずれ廃嫡にーー」
「そう言う言い方は良くないんじゃない?」
延々と続く僻みと勝手な決めつけに私の中で何かがキレた。
「彼だってそれなりに努力したから認められたんじゃないの? それを頭から生まれだけで否定するのはどうかと思うけど!」
さっき少し話しただけの彼を批判されたから、と言っても大して彼の事を知らない私が頭に来るのは間違ってる。わかってる。でも、同じ日本人を、しかも自分と同じ様に日本とブリタニアと言う二つの民族の血を持って生まれ、恐らく自分と同じ様に傷ついている彼の事を、何の不自由もなく育ったこのバカに悪く言われると許せなかった。
「何を怒ってるんだい? あ~、私を心配してくれているのかい? 相手は一応ハプスブルク公爵の子息だからねぇ」
(このナルシスト! 世間知らずのボンボン! 頭に虫がわいてるんじゃないの?)
此方の話しを明後日の方向に解釈してヘラヘラ笑い此方の怒りの炎に薪をくべて煽ってくる。
(家? 場所? 空気? 知った事かそんな事! このバカに言いたい事、全部ぶちまけてやる!)
我慢の限界で色々な物が怒りで消し飛んだ。
「そうじゃない! 何も知らないアンタにーー」
声が怒鳴り付けるようなものに変化した瞬間であった。突然、誰かが私の発言を遮るように肩を少し強い力で叩いた。「誰よ!!」と思いながらかなり乱暴に肩に乗せられた手を払いって振り向くとそこには、
「え? 信也?」
まさかの本人の登場に驚きで先程までの怒りが霧散する。
「覚えていただけていたとは光栄です、カレン嬢」
「あ、いや……その……」
何故ここにいるのだろうかと言う疑問、知り合ったばかりなので断定はできないが彼らしくない発言、この両方に困惑する。
彼は混乱する私を尻目に、先程のような貴族らしい振る舞いで継母の方を向き丁寧に頭を下げて挨拶した。
「シュタットフェルト家の奥方様、お会いできて光栄です。
カレン嬢がシュタットフェルト家の方だと存していれば御挨拶にうかがったものを……私のミスで挨拶が遅くなり、誠に申し訳ございません」
「いえ、そんなうちの娘がご迷惑をかけたようで」
「その様なことはございません。カレン嬢とは奥方様の配慮のお陰で先程楽しい一時を過ごす事ができました。ありがとうございます」
そう言うと彼は丁寧な動作で継母に頭を下げた。
「それから申し遅れましたが、我が養父が御当主である旦那様は本国におられるゆえに何度か御挨拶にうかがっているのですが、奥方様への挨拶が行き届かず申し訳なく思っていると申しておりました」
「いえ! その様なことは! 御気遣い痛み入ります」
丁寧に接しつつ貴族が喜ぶ要点を押さえつつ、それでいて確約は何もしていない。さっきの演説といい、私の継母をたくみに丸め込んだり、彼は案外上手く貴族をこなしてる様な? と首を傾げそうになるがそれを表情には出さなかった。
とりあえず、自分とは違い立場や肩書きを上手く使いこなしていると言う事は理解して感心した。
「お取り込み中でなければ私ではなく我が養父に会いに行っていただけないでしょうか? シュタットフェルト家の奥方様がーーと聞けば我が養父も喜ぶと思います」
「え! 宜しいのですか?」
「はい、我が養父も喜ぶと思います。ファイナー、案内して差し上げろ」
「承知いたしました」
「任せるが大丈夫か?」
信也がちらっと付き人にアイコンタクトしたのを見て、「大丈夫か?」の意味を察した。おそらく先程の発言はウソなのだろう。どの程度が嘘なのかはさすがにわからなかったけど。
「問題ありません、シュタットフェルトの奥方様。少々お時間を戴くことになりますが」
「構いません! 是非お会いします」
「承知しました。では此方へ」
継母は嬉々として行ってしまった。こうもあっさりとあの継母を撃退するなんて、公爵様が信也を養子にした理由の片鱗を見たような気がした。
「では、カレン嬢、行きましょうか」
「え? あ! はい」
唖然としていた私は信也の言葉で気を取り直し、エスコートされながらその場を去ろうとするが、
「ちょっと待て!」
納得がいかないのは金髪の馬鹿。呼び出した継母は公爵様の方へ行ってしまい、用意された相手である私を信也に取られては納得いかないのは理解できるし、面目が丸つぶれとなったので腹を立てるのも理解はできる、私はコイツが嫌いだけど。
ただ、この馬鹿が大声を上げ、私達に注目が集まったのは迷惑であり同情の余地もない。
信也も不快だったのか、或いはそうみせる為か、先程の継母に対して向けたものとは異なる冷たい視線を金髪へ向けた。
「なんだ? 私に用か?」
「見て分からないのか、私が先にーー」
「先約は私だが、不満か? 後から出てきてヌケヌケと。はぁ~。貴卿は順番すら守れないのか?」
「なんだとッ!!」
そんな約束は当然なかったのだが、『自分が先だった!』と言ってのけた上で逆に相手をなじると言うなかなかに理不尽な事を平然と押し通そうとしている。その上で彼は鼻で笑って更に挑発を続ける。
「それとも何か? 貴公は自信がないのか?」
「どう言う意味だ?!」
「カレン嬢が私と共に過ごそうがそれは主賓の子息へ気を使っただけと考えるであろう。貴公に自信があるのであれば気にもならないのでは?」
おそらくみせつける為だろう。信也はわざわざ膝を突いてからエスコートすべく私の手を取った。
「そ、それは!!」
「その上で尋ねるが、私とカレン嬢が一緒に居る事に何か問題でもあるのか?」
つまり信也と私が一緒にいる事を邪魔をすれば、金髪君は自分に自信がないから取られてしまう事を恐れて邪魔をしたと認める事となる。当然だが、貴族として周りにちやほやされて育った金髪君にはそんな屈辱を認める事はできない。まあ、最初から私が金髪君のものになった事実はないのだがーー、考えるのも面倒なので止めた。
とりあえず、金髪君は論破され、ぐうの音も出なくなったのか、頭に血が上ったのか、癇癪を起したのか、金髪君は暴言を吐いた。
「このイレヴンの猿が! 盗人猛々しいとはこの事だ! ヌケヌケと」
私は内心であっ乗っちゃったと思ったが何も言わずに信也の方を見ると、一瞬だが彼の口元が少し緩んだのが見えた。やはり計算通りだった様だ。
「盗人? はて、カレン嬢」
「はい」
「こちらの方とは親しい関係なのですか?」
そう言いながら彼は意味深な視線を私に向けて送って来たので「あ~…そう言うことね」と納得して私も乗る事にした。
「いいえ! 継母が親しくなさっている方と言うだけで、私は親しいとかは特にないです♪」
「なっ!?」
「そうでしたか。それにしても、この様な所に放置して我が養父に会いに行きましたし、特別な方とは思えないのですが……」
「はい。少なくとも私とっては信也さんの方が格段に特別な方です」
自分でも信じられないぐらい可愛らしい声でそう答えた。私の言葉に金髪君は鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしている。正直、「へっ!ざまあみろ」と思った。
「では問題ないですね。それでは私はカレン嬢と二人で積もる話もあるので、これにて失礼する」
信也がそう言ってこの話は終わりだと丁寧に通達すると、二人で丁寧にお辞儀をした上でその場を去ろうと歩み出すが、数歩進んだ所で信也は今更気づいたように立ち止まった。私は内心でやはりなと思いつつ付き合う。
「あ~、そうそう、先程の貴卿は私の事を猿呼ばわりしたが、これはハプスブルク家に対する冒涜と受け取って構わないかな?」
「え?」
「私個人への誹謗中傷であるならいざ知らず。私の様な者を養子として下さった養父やそれを認めたハプスブルク家に対する侮辱とあらば聞き捨てならないが、どうなんだ?」
「イヤ、自分はそう言うつもりでは……」
周りの注目が自分達に集まっている事や公爵のハプスブルク家に喧嘩を売る事がまずいと判断したのか、先ほどまでの勢いは何処へやら自信なさげである。誘導した信也とその事にすら気づけていない金髪君では勝負にすらならない。
「では聞こう! どういうつもりだ」
「そ、それは……」
「もういい! 貴公如きでは話にならん! 家名を名乗れ! そちらに確認する!!」
「か、確認してどうするどうするつもりだ!!」
「そちらの家には何もしない。だが、貴公のような者が一門では、家の恥となる事を伝えておく」
「なんだと!! 家の名を盾に偉そうにペラペラと……」
(いや、アンタがそれを言うのかよ)
話が拗れそうなので、そのツッコミは心の中だけに留めた。
「で? だからどうした? 家名はなんだ?」
「……」
「なんだ? 名すら名乗れないのか? それとも気づいたか? 貴様がやっている事は、家の名をひけらかし、相手が断れない優しい方だと言うのを良い事に、好き勝手つきまとい、あまつさえ勝手な独り善がりで相手の女性を私物化しているという浅ましい行為だ、と言うことに」
(うわ~……完膚なきまでに叩く潰すつもりなのね。てか、信也って毒舌なのかな?)
やり過ぎな気がしないではないが、後々の報復を警戒するならばこれぐらい叩いておく方が良いのかも、とボンヤリとも思った。それよりも今は、金髪君の大声に加えて信也が怒鳴り声を上げた為に更に注目が集まっているのが煩わしいと思った。これはこれで公開処刑(?)かもしれない。
「まあいい、後で調べれば分かることだ」
そんなことを言う信也に味方(?)ながら返事ができない事も想定済みだったくせによく言うと思った。
信也は金髪君への話は終わったとばかりに話を切り上げて会場全体を見渡す。
「皆様、お騒がせして誠に申し訳ありません。どうぞ我々のことは気になさらず、引き続きお楽しみください」
そう言って全体に向かって頭を下げた。ちょっと不本意だったが、隣にいる私も周信也に合わせて頭を下げた。そして、顔を上げた後に信也は私に向かって微笑みかけてきた。
「ではカレン嬢、参りましょうか」
「はい」
私は彼にエスコートされながら会場をあとにした。
「アイツも運のいい男ですよね。ただ公爵の甥に生まれただけで純粋なブリタニア人でもないのに偉そうに壇上でふんぞり返って演説。半分イレヴンの癖に偉そうに、公爵に巧みに取り入ったのだろうな」
なぜだろうか、このいけ好かない男の言葉が今日は一段と頭に来る。
(運がいい? 半分イレヴン? 偉そう? 踏みつけられてブリタニアの生活を押し付けられてる私達の何がわかるのよ! 日本の名前を本当の名前と名乗った彼があんな言葉を言いたくて言ってるわけないじゃない!)
「所詮は口舌の徒、いずれ廃嫡にーー」
「そう言う言い方は良くないんじゃない?」
延々と続く僻みと勝手な決めつけに私の中で何かがキレた。
「彼だってそれなりに努力したから認められたんじゃないの? それを頭から生まれだけで否定するのはどうかと思うけど!」
さっき少し話しただけの彼を批判されたから、と言っても大して彼の事を知らない私が頭に来るのは間違ってる。わかってる。でも、同じ日本人を、しかも自分と同じ様に日本とブリタニアと言う二つの民族の血を持って生まれ、恐らく自分と同じ様に傷ついている彼の事を、何の不自由もなく育ったこのバカに悪く言われると許せなかった。
「何を怒ってるんだい? あ~、私を心配してくれているのかい? 相手は一応ハプスブルク公爵の子息だからねぇ」
(このナルシスト! 世間知らずのボンボン! 頭に虫がわいてるんじゃないの?)
此方の話しを明後日の方向に解釈してヘラヘラ笑い此方の怒りの炎に薪をくべて煽ってくる。
(家? 場所? 空気? 知った事かそんな事! このバカに言いたい事、全部ぶちまけてやる!)
我慢の限界で色々な物が怒りで消し飛んだ。
「そうじゃない! 何も知らないアンタにーー」
声が怒鳴り付けるようなものに変化した瞬間であった。突然、誰かが私の発言を遮るように肩を少し強い力で叩いた。「誰よ!!」と思いながらかなり乱暴に肩に乗せられた手を払いって振り向くとそこには、
「え? 信也?」
まさかの本人の登場に驚きで先程までの怒りが霧散する。
「覚えていただけていたとは光栄です、カレン嬢」
「あ、いや……その……」
何故ここにいるのだろうかと言う疑問、知り合ったばかりなので断定はできないが彼らしくない発言、この両方に困惑する。
彼は混乱する私を尻目に、先程のような貴族らしい振る舞いで継母の方を向き丁寧に頭を下げて挨拶した。
「シュタットフェルト家の奥方様、お会いできて光栄です。
カレン嬢がシュタットフェルト家の方だと存していれば御挨拶にうかがったものを……私のミスで挨拶が遅くなり、誠に申し訳ございません」
「いえ、そんなうちの娘がご迷惑をかけたようで」
「その様なことはございません。カレン嬢とは奥方様の配慮のお陰で先程楽しい一時を過ごす事ができました。ありがとうございます」
そう言うと彼は丁寧な動作で継母に頭を下げた。
「それから申し遅れましたが、我が養父が御当主である旦那様は本国におられるゆえに何度か御挨拶にうかがっているのですが、奥方様への挨拶が行き届かず申し訳なく思っていると申しておりました」
「いえ! その様なことは! 御気遣い痛み入ります」
丁寧に接しつつ貴族が喜ぶ要点を押さえつつ、それでいて確約は何もしていない。さっきの演説といい、私の継母をたくみに丸め込んだり、彼は案外上手く貴族をこなしてる様な? と首を傾げそうになるがそれを表情には出さなかった。
とりあえず、自分とは違い立場や肩書きを上手く使いこなしていると言う事は理解して感心した。
「お取り込み中でなければ私ではなく我が養父に会いに行っていただけないでしょうか? シュタットフェルト家の奥方様がーーと聞けば我が養父も喜ぶと思います」
「え! 宜しいのですか?」
「はい、我が養父も喜ぶと思います。ファイナー、案内して差し上げろ」
「承知いたしました」
「任せるが大丈夫か?」
信也がちらっと付き人にアイコンタクトしたのを見て、「大丈夫か?」の意味を察した。おそらく先程の発言はウソなのだろう。どの程度が嘘なのかはさすがにわからなかったけど。
「問題ありません、シュタットフェルトの奥方様。少々お時間を戴くことになりますが」
「構いません! 是非お会いします」
「承知しました。では此方へ」
継母は嬉々として行ってしまった。こうもあっさりとあの継母を撃退するなんて、公爵様が信也を養子にした理由の片鱗を見たような気がした。
「では、カレン嬢、行きましょうか」
「え? あ! はい」
唖然としていた私は信也の言葉で気を取り直し、エスコートされながらその場を去ろうとするが、
「ちょっと待て!」
納得がいかないのは金髪の馬鹿。呼び出した継母は公爵様の方へ行ってしまい、用意された相手である私を信也に取られては納得いかないのは理解できるし、面目が丸つぶれとなったので腹を立てるのも理解はできる、私はコイツが嫌いだけど。
ただ、この馬鹿が大声を上げ、私達に注目が集まったのは迷惑であり同情の余地もない。
信也も不快だったのか、或いはそうみせる為か、先程の継母に対して向けたものとは異なる冷たい視線を金髪へ向けた。
「なんだ? 私に用か?」
「見て分からないのか、私が先にーー」
「先約は私だが、不満か? 後から出てきてヌケヌケと。はぁ~。貴卿は順番すら守れないのか?」
「なんだとッ!!」
そんな約束は当然なかったのだが、『自分が先だった!』と言ってのけた上で逆に相手をなじると言うなかなかに理不尽な事を平然と押し通そうとしている。その上で彼は鼻で笑って更に挑発を続ける。
「それとも何か? 貴公は自信がないのか?」
「どう言う意味だ?!」
「カレン嬢が私と共に過ごそうがそれは主賓の子息へ気を使っただけと考えるであろう。貴公に自信があるのであれば気にもならないのでは?」
おそらくみせつける為だろう。信也はわざわざ膝を突いてからエスコートすべく私の手を取った。
「そ、それは!!」
「その上で尋ねるが、私とカレン嬢が一緒に居る事に何か問題でもあるのか?」
つまり信也と私が一緒にいる事を邪魔をすれば、金髪君は自分に自信がないから取られてしまう事を恐れて邪魔をしたと認める事となる。当然だが、貴族として周りにちやほやされて育った金髪君にはそんな屈辱を認める事はできない。まあ、最初から私が金髪君のものになった事実はないのだがーー、考えるのも面倒なので止めた。
とりあえず、金髪君は論破され、ぐうの音も出なくなったのか、頭に血が上ったのか、癇癪を起したのか、金髪君は暴言を吐いた。
「このイレヴンの猿が! 盗人猛々しいとはこの事だ! ヌケヌケと」
私は内心であっ乗っちゃったと思ったが何も言わずに信也の方を見ると、一瞬だが彼の口元が少し緩んだのが見えた。やはり計算通りだった様だ。
「盗人? はて、カレン嬢」
「はい」
「こちらの方とは親しい関係なのですか?」
そう言いながら彼は意味深な視線を私に向けて送って来たので「あ~…そう言うことね」と納得して私も乗る事にした。
「いいえ! 継母が親しくなさっている方と言うだけで、私は親しいとかは特にないです♪」
「なっ!?」
「そうでしたか。それにしても、この様な所に放置して我が養父に会いに行きましたし、特別な方とは思えないのですが……」
「はい。少なくとも私とっては信也さんの方が格段に特別な方です」
自分でも信じられないぐらい可愛らしい声でそう答えた。私の言葉に金髪君は鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしている。正直、「へっ!ざまあみろ」と思った。
「では問題ないですね。それでは私はカレン嬢と二人で積もる話もあるので、これにて失礼する」
信也がそう言ってこの話は終わりだと丁寧に通達すると、二人で丁寧にお辞儀をした上でその場を去ろうと歩み出すが、数歩進んだ所で信也は今更気づいたように立ち止まった。私は内心でやはりなと思いつつ付き合う。
「あ~、そうそう、先程の貴卿は私の事を猿呼ばわりしたが、これはハプスブルク家に対する冒涜と受け取って構わないかな?」
「え?」
「私個人への誹謗中傷であるならいざ知らず。私の様な者を養子として下さった養父やそれを認めたハプスブルク家に対する侮辱とあらば聞き捨てならないが、どうなんだ?」
「イヤ、自分はそう言うつもりでは……」
周りの注目が自分達に集まっている事や公爵のハプスブルク家に喧嘩を売る事がまずいと判断したのか、先ほどまでの勢いは何処へやら自信なさげである。誘導した信也とその事にすら気づけていない金髪君では勝負にすらならない。
「では聞こう! どういうつもりだ」
「そ、それは……」
「もういい! 貴公如きでは話にならん! 家名を名乗れ! そちらに確認する!!」
「か、確認してどうするどうするつもりだ!!」
「そちらの家には何もしない。だが、貴公のような者が一門では、家の恥となる事を伝えておく」
「なんだと!! 家の名を盾に偉そうにペラペラと……」
(いや、アンタがそれを言うのかよ)
話が拗れそうなので、そのツッコミは心の中だけに留めた。
「で? だからどうした? 家名はなんだ?」
「……」
「なんだ? 名すら名乗れないのか? それとも気づいたか? 貴様がやっている事は、家の名をひけらかし、相手が断れない優しい方だと言うのを良い事に、好き勝手つきまとい、あまつさえ勝手な独り善がりで相手の女性を私物化しているという浅ましい行為だ、と言うことに」
(うわ~……完膚なきまでに叩く潰すつもりなのね。てか、信也って毒舌なのかな?)
やり過ぎな気がしないではないが、後々の報復を警戒するならばこれぐらい叩いておく方が良いのかも、とボンヤリとも思った。それよりも今は、金髪君の大声に加えて信也が怒鳴り声を上げた為に更に注目が集まっているのが煩わしいと思った。これはこれで公開処刑(?)かもしれない。
「まあいい、後で調べれば分かることだ」
そんなことを言う信也に味方(?)ながら返事ができない事も想定済みだったくせによく言うと思った。
信也は金髪君への話は終わったとばかりに話を切り上げて会場全体を見渡す。
「皆様、お騒がせして誠に申し訳ありません。どうぞ我々のことは気になさらず、引き続きお楽しみください」
そう言って全体に向かって頭を下げた。ちょっと不本意だったが、隣にいる私も周信也に合わせて頭を下げた。そして、顔を上げた後に信也は私に向かって微笑みかけてきた。
「ではカレン嬢、参りましょうか」
「はい」
私は彼にエスコートされながら会場をあとにした。