scene01:血の味
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ゼロが居なくなった黒の騎士団はあまりにも脆かった。どう考えても戦線が崩壊するのは時間の問題だ。
後方の部隊を指揮していた信也は藤堂にのみ通信を繋いだ。
「藤堂将軍、完全に敗勢になる前に撤退する事を進言します」
『しかし、それでは!』
藤堂程の指揮官である。全体が把握出来ていなくても戦線が崩壊しつつある事はわかっているだろう。だから政庁のすぐ側まで攻め寄せた事に執着しているわけではない。
藤堂が撤退に否定的な考えなのは……
『ここで退いても戦線が崩壊するのではないか?』
そう、ここで撤退命令など出せば、それこそ、その命令をきっかけに戦線が一気に崩壊してしまう事は明らかだ。
「ゼロが欠けたと民兵に広まっています。このままでは戦線があっと言う間に崩壊する可能性があります」
『だがそれは今から退いたとて同じ事!』
だが、逆にこのまま戦い続けたからと言って状況が好転する事はまずない。
ゼロが戻り奇策でも用いない限りは……
おそらくだが、藤堂は指揮官であるゼロが戻るのではないかと考えている様だ。指揮官が指揮を投げ出すなど藤堂からすれば有り得ない事だ。故に無策の撤退に反対なのだが、信也はゼロと言うよりも、ルルーシュが策もなく戦線を離脱した事実に気付いている。そして、理由にも気付いている。ならば、被害を少なくする為には撤退すべきだと判断したのだ。
「わかってます! しかし、完全に崩壊しては主力部隊が祖界内で孤立してしまいます! そうなっては退却等不可能! 今度こそ日本は終わりです!」
敗走ならともかく、ここで大敗すれば黒の騎士団だけでなくキョウトも終わる。
そうなれば事実上、日本の二度目の敗戦となり、独立が更に遠退くだけでなく今まで以上の圧政が敷かれる事となる。それは今までの全ての犠牲をムダにすると言う事でもある。
『しかし、ゼロが……』
(藤堂までゼロ頼みか、だが、ゼロの正体や失踪の理由を言うわけにはいかないし……)
余裕など無い信也は苛立ちを覚えたが、しばらく考えた後、その苛立ちのままに藤堂を怒鳴り付ける事にした。
「藤堂! お前はここで全員揃って玉砕すれば満足なのか!」
『なにっ!?』
信也の言葉に藤堂はカッとなったようだ。
「こんな所で無駄死にするぐらいならココから逃げて最期の最期まで抗うべきだ! こんな自軍のトップが何処に居るかもわからない状態でこれ以上死人を出すべきではない!!」
『っ!?』
「今ココで死んでどうなる? どうせ戦って死ぬならココから逃げて、後ろ指をさされようとも、最後の最期まで可能性のある方法で抗い続けるべきだ! ゼロなど関係ない! 日本人として抗うべきだ!」
沈黙した藤堂に畳み掛ける様に信也は言葉を続ける。
「お前は何の為に巨大なブリタニアに抗っていたんだ? 自己満足か? それとも憎しみ? 気まぐれ? ゼロが言ったからか? ただ死にたいからか?」
『………』
「違うだろ! 何かを守りたいから! 取り戻したいから! 変えたいから! 今まで戦って来たんだろうが!! 死ぬ為でもゼロの為でもない!」
信也の言葉に藤堂は瞑目するように考えた後に搾り出す様にして言った。
『わかった。撤退しよう』
ブリタニアをここまで追い詰めておきながらーーと言う無念の想いが篭った声音だった。
そこから先は順調に話が進んだ。
「『ゼロの命令での撤退』として通達しましょう」
『見え透いているが妥当な判断だな』
「前線の指揮をお願いしても?」
『承知した。全体は君が?』
「いいえ、半分正解ですが、半分外れです」
『それはどう言う意味かな?』
「その点に関しては此方にお任せください」
ここで信也は通信を一度切り振り返る。
「神楽耶様、藤堂を説得致しました」
「わかりました。では」
神楽耶は立ち上がりオペレーターが頷いたのを確認し、全軍に通達する。
「黒の騎士団並びにそれに与する解放軍にゼロの命令を御伝え致します」
ここで全軍にゼロの命令だと認識させる為に少し間を開けた。そして、通達した。
「ただ今より退却を開始! 全軍指示に従いトウキョウ租界外まで退け!!」
命令を通達するだけでなく、神楽耶は続ける。むしろこっちが本題である。
「尚、総司令ゼロが指揮を執れず扇副司令が負傷している非常時に、藤堂将軍並びにディートハルト参謀が前線におり全体状況が把握できない状態にあります。故に、戦時の暫定的な処置として今よりはこのG-1ベースを本陣とし退却戦の指示を出したいと思います。副司令、将軍、参謀、御了承いただけますか」
『お願い、します』
『承知した』
『承知しました』
「三幹部の了承を得られました。よってこれよりはこのG-1ベースを本陣とし、キョウト六家の盟主皇神楽耶の名の下にここより命を下す事とします!! 以降は此方からの指示に従っていただきます!!」
『承知!!』
返事が返ってくると、神楽耶はオープンにした回線を切らせてから信也の方を向いた。
「信也」
「承知致しました」
信也は一礼をしながらそう返事をした。顔を上げた後に二人は視線を合わせて頷いた。神楽耶は信也のバカに付き合って依頼通りに動いてくれた。
バカこと悪足掻きとは『この戦は日本の二度目の完全なる敗戦』だと理解した上で、この戦場から撤退し、無謀にも再起を謀ると言うものだ。神楽耶は駄目元でこの場は##NAME1##のバカに最後まで付き合う事にしてくれたのだ。
「最大の問題は藤堂率いる主力部隊をどうやって撤退させるか……ですね」
「やはり“繰り引き”で租界外縁部まで徐々に退かせるしかないかと」
「勿論、信也に全軍の指揮を執ってもらいますが、言い出したのは貴方ですから問題ありませんよね?」
「……簡単に言ってくれるよなぁ。まあ、出来る出来ない以前に、他に誰もいないんだけどね」
信也は優れない顔色で引き攣った笑みを浮かべてみせた。
ゼロがいなくなり、扇は負傷して動けない。藤堂は前線に居て全体を把握できていないし、参謀のディートハルトは膠着状態とは言え戦闘エリアに居る。
そうなると自然と後方で全軍の動きを把握出来る位置に居る神楽耶が率いるG-1ベースを本陣として全体の采配を受け持つ事になるのだが……当然ながら神楽耶を大将に据えキョウトの名の下に全軍を統括する。だが神楽耶に軍事の采配等できるはずがないのでそこで彼女を全面に出しつつG-1ベースで彼女を補佐する為に残っていた信也が采配を振るい、本陣のG-1ベースからの命令と言う形を取る。
完全な消去法での選択ではあるが、現状では最も現実的な指揮系統だ。
「ではお任せします」
「承知しました。ディートハルトとラクシャータをこちらに下げても構いませんか?」
「その必要性があり戦線が混乱しないのならばどうぞ」
「ではそのように。それにしても初めて万を越える軍勢を采配するのがこの情勢下……フッ、最悪過ぎて笑っちゃうな」
ちょっと暗い笑みを浮かべたが、直ぐに元の表情に戻った。
「神楽耶」
「はい」
「俺さぁ、特区で撃たれた後、誰かに呼ばれた気がして目が覚めたんだ」
「?」
「最初はカレンに呼ばれたんだと思ったんだけど、色々と知る内にゼロじゃないかとも思ったんだが、どうやら違ったみたいだな」
「では誰から呼ばれて起こされたんですか?」
「お前じゃないかなって。当時のお前じゃなくて、今のお前に」
「こんな状態でなかなか面白い事を言いますね。こんな状態でも冷静で冗談を言って場を和ませようとしておられるのか、緊張のあまり頭がおかしくなられたのか、特区で頭でもぶつけたのか」
「かも知れないな。だけど、俺が誰かに起こされたのはこの場にいる為だったんだと思う」
「随分と変な自信ですね。一体誰が導いたのでしょうね」
「そうだなぁ『天』とか?」
「フフ……では貴方は天に導かれた者ですか?」
「ええ、きっとそうです」
二人で場違いな笑みを浮かべる。
「では本当に天の導きかどうか試してみましょうか」
「ええ」
「私の騎士……」
そう言いかけてから神楽耶は首を横に振る。
「いえ、貴方は騎士などと言う器ではありませんね」
「まあ、確かに」
「騎士と言うよりは……」
「?」
神楽耶が何かを言いかけてやめたので信也は一瞬疑問に感じた。
「では天命を問うとしましょうか、黒き衣を身に纏った我が宰相殿」
「承知しました。我が身命に変えても必ずや」
信也は珍しく最敬礼で忠節を誓う主君に対して返事をした。普段は絶対言わないような言葉を真面目な口調で口にした。
「え?」
「――何でもない。少しふざけただけです」
驚いた神楽耶に例の爽やかな笑みを浮かべながらおどけた事を言った。内に秘めた想いや決意を覆い隠すようにして。
絶望的な敗勢の中、撤退戦が開始された。
後に信也本人がこの時の事を邂逅して述べている。「最低最悪なタイミングでの指揮官への就任だった」と。
後方の部隊を指揮していた信也は藤堂にのみ通信を繋いだ。
「藤堂将軍、完全に敗勢になる前に撤退する事を進言します」
『しかし、それでは!』
藤堂程の指揮官である。全体が把握出来ていなくても戦線が崩壊しつつある事はわかっているだろう。だから政庁のすぐ側まで攻め寄せた事に執着しているわけではない。
藤堂が撤退に否定的な考えなのは……
『ここで退いても戦線が崩壊するのではないか?』
そう、ここで撤退命令など出せば、それこそ、その命令をきっかけに戦線が一気に崩壊してしまう事は明らかだ。
「ゼロが欠けたと民兵に広まっています。このままでは戦線があっと言う間に崩壊する可能性があります」
『だがそれは今から退いたとて同じ事!』
だが、逆にこのまま戦い続けたからと言って状況が好転する事はまずない。
ゼロが戻り奇策でも用いない限りは……
おそらくだが、藤堂は指揮官であるゼロが戻るのではないかと考えている様だ。指揮官が指揮を投げ出すなど藤堂からすれば有り得ない事だ。故に無策の撤退に反対なのだが、信也はゼロと言うよりも、ルルーシュが策もなく戦線を離脱した事実に気付いている。そして、理由にも気付いている。ならば、被害を少なくする為には撤退すべきだと判断したのだ。
「わかってます! しかし、完全に崩壊しては主力部隊が祖界内で孤立してしまいます! そうなっては退却等不可能! 今度こそ日本は終わりです!」
敗走ならともかく、ここで大敗すれば黒の騎士団だけでなくキョウトも終わる。
そうなれば事実上、日本の二度目の敗戦となり、独立が更に遠退くだけでなく今まで以上の圧政が敷かれる事となる。それは今までの全ての犠牲をムダにすると言う事でもある。
『しかし、ゼロが……』
(藤堂までゼロ頼みか、だが、ゼロの正体や失踪の理由を言うわけにはいかないし……)
余裕など無い信也は苛立ちを覚えたが、しばらく考えた後、その苛立ちのままに藤堂を怒鳴り付ける事にした。
「藤堂! お前はここで全員揃って玉砕すれば満足なのか!」
『なにっ!?』
信也の言葉に藤堂はカッとなったようだ。
「こんな所で無駄死にするぐらいならココから逃げて最期の最期まで抗うべきだ! こんな自軍のトップが何処に居るかもわからない状態でこれ以上死人を出すべきではない!!」
『っ!?』
「今ココで死んでどうなる? どうせ戦って死ぬならココから逃げて、後ろ指をさされようとも、最後の最期まで可能性のある方法で抗い続けるべきだ! ゼロなど関係ない! 日本人として抗うべきだ!」
沈黙した藤堂に畳み掛ける様に信也は言葉を続ける。
「お前は何の為に巨大なブリタニアに抗っていたんだ? 自己満足か? それとも憎しみ? 気まぐれ? ゼロが言ったからか? ただ死にたいからか?」
『………』
「違うだろ! 何かを守りたいから! 取り戻したいから! 変えたいから! 今まで戦って来たんだろうが!! 死ぬ為でもゼロの為でもない!」
信也の言葉に藤堂は瞑目するように考えた後に搾り出す様にして言った。
『わかった。撤退しよう』
ブリタニアをここまで追い詰めておきながらーーと言う無念の想いが篭った声音だった。
そこから先は順調に話が進んだ。
「『ゼロの命令での撤退』として通達しましょう」
『見え透いているが妥当な判断だな』
「前線の指揮をお願いしても?」
『承知した。全体は君が?』
「いいえ、半分正解ですが、半分外れです」
『それはどう言う意味かな?』
「その点に関しては此方にお任せください」
ここで信也は通信を一度切り振り返る。
「神楽耶様、藤堂を説得致しました」
「わかりました。では」
神楽耶は立ち上がりオペレーターが頷いたのを確認し、全軍に通達する。
「黒の騎士団並びにそれに与する解放軍にゼロの命令を御伝え致します」
ここで全軍にゼロの命令だと認識させる為に少し間を開けた。そして、通達した。
「ただ今より退却を開始! 全軍指示に従いトウキョウ租界外まで退け!!」
命令を通達するだけでなく、神楽耶は続ける。むしろこっちが本題である。
「尚、総司令ゼロが指揮を執れず扇副司令が負傷している非常時に、藤堂将軍並びにディートハルト参謀が前線におり全体状況が把握できない状態にあります。故に、戦時の暫定的な処置として今よりはこのG-1ベースを本陣とし退却戦の指示を出したいと思います。副司令、将軍、参謀、御了承いただけますか」
『お願い、します』
『承知した』
『承知しました』
「三幹部の了承を得られました。よってこれよりはこのG-1ベースを本陣とし、キョウト六家の盟主皇神楽耶の名の下にここより命を下す事とします!! 以降は此方からの指示に従っていただきます!!」
『承知!!』
返事が返ってくると、神楽耶はオープンにした回線を切らせてから信也の方を向いた。
「信也」
「承知致しました」
信也は一礼をしながらそう返事をした。顔を上げた後に二人は視線を合わせて頷いた。神楽耶は信也のバカに付き合って依頼通りに動いてくれた。
バカこと悪足掻きとは『この戦は日本の二度目の完全なる敗戦』だと理解した上で、この戦場から撤退し、無謀にも再起を謀ると言うものだ。神楽耶は駄目元でこの場は##NAME1##のバカに最後まで付き合う事にしてくれたのだ。
「最大の問題は藤堂率いる主力部隊をどうやって撤退させるか……ですね」
「やはり“繰り引き”で租界外縁部まで徐々に退かせるしかないかと」
「勿論、信也に全軍の指揮を執ってもらいますが、言い出したのは貴方ですから問題ありませんよね?」
「……簡単に言ってくれるよなぁ。まあ、出来る出来ない以前に、他に誰もいないんだけどね」
信也は優れない顔色で引き攣った笑みを浮かべてみせた。
ゼロがいなくなり、扇は負傷して動けない。藤堂は前線に居て全体を把握できていないし、参謀のディートハルトは膠着状態とは言え戦闘エリアに居る。
そうなると自然と後方で全軍の動きを把握出来る位置に居る神楽耶が率いるG-1ベースを本陣として全体の采配を受け持つ事になるのだが……当然ながら神楽耶を大将に据えキョウトの名の下に全軍を統括する。だが神楽耶に軍事の采配等できるはずがないのでそこで彼女を全面に出しつつG-1ベースで彼女を補佐する為に残っていた信也が采配を振るい、本陣のG-1ベースからの命令と言う形を取る。
完全な消去法での選択ではあるが、現状では最も現実的な指揮系統だ。
「ではお任せします」
「承知しました。ディートハルトとラクシャータをこちらに下げても構いませんか?」
「その必要性があり戦線が混乱しないのならばどうぞ」
「ではそのように。それにしても初めて万を越える軍勢を采配するのがこの情勢下……フッ、最悪過ぎて笑っちゃうな」
ちょっと暗い笑みを浮かべたが、直ぐに元の表情に戻った。
「神楽耶」
「はい」
「俺さぁ、特区で撃たれた後、誰かに呼ばれた気がして目が覚めたんだ」
「?」
「最初はカレンに呼ばれたんだと思ったんだけど、色々と知る内にゼロじゃないかとも思ったんだが、どうやら違ったみたいだな」
「では誰から呼ばれて起こされたんですか?」
「お前じゃないかなって。当時のお前じゃなくて、今のお前に」
「こんな状態でなかなか面白い事を言いますね。こんな状態でも冷静で冗談を言って場を和ませようとしておられるのか、緊張のあまり頭がおかしくなられたのか、特区で頭でもぶつけたのか」
「かも知れないな。だけど、俺が誰かに起こされたのはこの場にいる為だったんだと思う」
「随分と変な自信ですね。一体誰が導いたのでしょうね」
「そうだなぁ『天』とか?」
「フフ……では貴方は天に導かれた者ですか?」
「ええ、きっとそうです」
二人で場違いな笑みを浮かべる。
「では本当に天の導きかどうか試してみましょうか」
「ええ」
「私の騎士……」
そう言いかけてから神楽耶は首を横に振る。
「いえ、貴方は騎士などと言う器ではありませんね」
「まあ、確かに」
「騎士と言うよりは……」
「?」
神楽耶が何かを言いかけてやめたので信也は一瞬疑問に感じた。
「では天命を問うとしましょうか、黒き衣を身に纏った我が宰相殿」
「承知しました。我が身命に変えても必ずや」
信也は珍しく最敬礼で忠節を誓う主君に対して返事をした。普段は絶対言わないような言葉を真面目な口調で口にした。
「え?」
「――何でもない。少しふざけただけです」
驚いた神楽耶に例の爽やかな笑みを浮かべながらおどけた事を言った。内に秘めた想いや決意を覆い隠すようにして。
絶望的な敗勢の中、撤退戦が開始された。
後に信也本人がこの時の事を邂逅して述べている。「最低最悪なタイミングでの指揮官への就任だった」と。
1/16ページ