scene01:血の味
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「雷光は次弾発射準備! 無頼はチャフスモークを再度散布! 一ヶ所に留まるな狙われるぞ!」
『んな事したら此方も敵が見えないだろうが!!』
「黙れ! 射撃は俺が指示する!!」
ぎゃあぎゃあうるさい玉城を黙らせて、ディートハルトの方を向く。
「主力部隊が租界外縁部に到達するには後どれくらいかかる」
「敵の追撃もあります。ここのままのペースでは45分と言ったところでしょう」
「クソッ!!」
藤堂達主力部隊は未だに租界内部にあり、まだまだ取り残されるポイントである。
『真田!!』
「どうかしましたか、杉山さん」
『此方に敵増援が向かってきてる』
信也はまた舌打ちする。スザクだけでなく三番隊の残存部隊が守るメディア地区側から力押しで進攻し、藤堂率いる主力部隊を租界内部包み込む様にして追い込んで退路を寸断するつもりらしい。
(主力部隊が徐々に租界内部に追い込まれている)
このままでは主力部隊は周りを網で囲まれた魚群の様に包囲されて絡め捕られてしまう。網を破るか、網に囲まれる前に外にでなければならないが、現状では網に囲まれるまでの時間を稼ぐ事ぐらいしかできないのだが、それをしても出口地点にいるランスロットとスザクが邪魔だ。
『真田総裁、俺と卜部隊長でランスロットを押さえる。その間に――』
「ダメだ。そろそろこの本陣への攻撃が再開されるはずだ」
『だが、もしもの備えより今の危機を』
「馬鹿が!! ここを落とされたら完全に退路を失う!! そんな事はできない!!」
内藤の意見を却下し、座標を入力してランスロットをどうにかするべく指示を出す。
「無頼隊は指示した座標に布陣! 陣形は鶴翼に近い形になるはずだ! その後は一斉射! ランスロットとその近辺に弾幕を張れ!」
だが時間稼ぎにもならなかった。ランスロットはブレイズルミナスで銃撃を防ぎつつハーケンを放ち、ハーケンのワイヤーを使い無頼達を薙ぎ倒した。見えないならそれらしい辺りを一掃すればよいと判断したらしい。
無頼達は簡単に薙ぎ払われてしまった。
「クソッ!!」
陣形が崩れると、そこから先はもはや一方的で個別に無頼が撃破されていく。
『おいっ!! どうするんだよ、真田!! このままだと一方的に』
「そんな事はわかっている!!」
相手に怒鳴り返したが、顔から血の気が引いているのが自分でもわかった。
「超電磁式榴散弾重砲、撃てぇーー!!」
当然なのだが、今度は動きを制約されていない状態なのでランスロットに余裕で回避された。
(どうする? 無頼がランスロットに敵うはずがない。ここは陣形を崩してでも隼人と卜部を出すか? 二人なら勝てないまでも時間稼ぎぐらいなら…………ダメだ。俺の読みが正しければそろそろ)
「敵に小隊が回り込んできました。この本陣を狙っている様です」
「やはりそう来たか、隼人、自分の機体に乗り換えて迎撃に迎え」
『了解』
「卜部さん」
『承知した』
なるべく毅然とした態度で指示を出しながらも、段々と悪くなっていく自分の顔色と険しい表情を取り繕う余裕さえも無くなってきた。
(どうする? 予備の戦力なんて無い。G-1を突っ込ませるか? ランスロット相手にこんな足が遅いデカ物で突艦? あり得ない)
現状を打破しようと冷静に考えれば考えるだけ、絶望が深まる。
(では、サザーランドではどうだ? ヴァリスを連射しながら突っ込んで行けば、チョウフで戦闘しているのだから引き付けるぐらい可能か? ………いや、左腕が動かない事なんてすぐに見抜かれる。ただ無駄に玉砕するだけだ)
抑、考える前から「黒の騎士団はブリタニアに負け、反乱は失敗に終わる。そして、この撤退は相手がヘマをやらかすか、奇跡でも起きない限り無理だ」と言う結論が出ていた。――と言うよりも、この戦場で真っ先にその事実に気付いたのは信也自身なのだ。
『真田君』
「ッ!?」
通信を繋いできた藤堂から名前を呼ばれた驚きで、思わず肩が跳ねた。
『ランスロットを退け、主力部隊が租界外まで退却する術はあるのか?』
「そ、それは……」
答えは言うまでもなく無いのだ。しかしながら、指揮官という立場上そんな事は口が裂けても言えない。必死に頭を働かせて“気休めの最もらしい事”を述べようとしたが、流石にこんな状態ではそんなペテンすら瞬時に出てこなかった。
「ほ、本陣周りの敵部隊を一掃した後、G―1とナイトメア部隊をランスロットへ向けて突撃させて退路を確保する」
『ナニッ!?』
藤堂が目を見開き驚いている。成功する可能性が低い策であり、ただ犠牲が増えるだけとなる可能性の方が極めて高い事をすぐに察したのだろう。
わかっている。そんな事は言っている本人である信也自身が一番わかっている。だが、他に手がないのだ。
このままランスロットにより中継地点の陣を落とされれば主力部隊と本陣は分断される。そうなれば主力部隊が無事に租界外縁部まで後退できたとしても「待ち構えているランスロット」と「追い縋る敵主力部隊」によって挟撃される形となり戦術的に最悪な布陣となる。その上、退路を絶たれた事を知った兵達が動揺して指揮采配に従わなくなると言う心理的な問題も同時に発生する。そんな状態で戦闘すれば秩序だっての退却はおろかまともな交戦すら不可能だ。間違いなく敵に一蹴されるだろう。かと言ってこんな状態で本陣の部隊を突っ込ませた所で本陣の戦力では勝算は極めて低く、敗北した場合は状況はより悪化する。また、仮にランスロットを排除する事ができたとしても、今度はがら空きの本陣を落とされ、あるいは退路を断たれる可能性があり、逃げ場すらなくなる。
主力部隊を散会させて散々に退却させる。と言う手もなくはないが、それをした場合は戦線を維持する事ができなくなるので秩序だっての退却が不可能だ。そうなれば間違いなく各個撃破されてしまう。
つまり何をどう足掻こうが既に“詰み”の状態なのである。抑、ゼロがいなくなった段階でもう詰んだ状態だったのだ。どう足掻こうが善戦は出来ても勝利はなかったのだが、遂に無駄な足掻きすらできなくなった。
『…………もういい』
「え?」
『状況は理解した』
藤堂は此方の反応からおおよその状況を察したのだろう、彼の声音は何処かサバサバしていた。そんな彼に対して返す言葉はなかった。
『君はよくやってくれた。君達は神楽耶様を護衛して戦場より離脱しろ』
「ナッ!? しかし、それでは!」
『ある程度の時間は稼ぐ。が、神楽耶様の件は君に任せる』
「ちょっと待て!!」
此方の言葉を聞かずに藤堂は一方的に通信を切って此方からの通信も全て遮断された。
『僕は君の事をいけ好かないガキだと思ってるけど、今回の事に関しては君には何の非もないと思うよ』
『私はそうは思わないがな。真田の言う通りゼロに賭けてみればこの様だ。あんな男、信じるのではなかったな』
朝比奈と千葉はそれだけ言うと、彼等も一方的に通信を切った。
『我等は我等の判断で役目を全うすべく戦う。貴殿は主君である神楽耶様を守る任務を全うされよ。短い間でしたが、世話になりましたな。貴殿の武運を祈っておりますぞ』
仙波も丁寧に別れの挨拶を済ませると通信を切った。
『もういい……十分だ、真田君。無茶をさせて済まなかった』
『俺達にもしもの事があったらカレンを頼む』
『アイツ、一人になってしまうかも知れないからな。井上が生きていればきっと『カレンを大切にしろ。泣かしたら許さない」って言うだろうな。宜しく頼む』
そう言って扇、南、杉山まで通信を切ってしまった。
「…………」
信也は血が出る程に固く唇を噛みしめる。こうなってしまった以上は指揮官として命じなければならない。その命令が遅くなれば遅くなるほど状況が悪化する。それも十分にわかっている。だが、味方を見捨てる命令を発する事ができなかった。
「真田!! 早く撤退の命令を!!」
ディートハルトに喚かれるがそれでも言葉が出てこなかった。
「信也ッ!!」
近くまで来て耳元で怒鳴り付ける様にして名を呼んだファイナーに促されて、神楽耶に視線を送ると、彼女は挙げた手を振り下ろして号令しようとしていた。
「わかっている!!」
信也は苛立ちをぶつける様に怒鳴り付け、神楽耶の号令を遮る様に命令を下す。
「我々は撤退する!!! 主力部隊は藤堂将軍の指揮の下で交戦した後に個別に逃走せよ。いいな! 命は粗末にするな! 絶対にだ!!」
そう通達した後にデータを送信した。内容は現状で使用できると思われる「租界からゲットーへの抜け道」つまり退路だ。役に立つかどうかはわからない、ただの気休めの様な物だが無いよりマシだと考えて一応送信した。
「クソッ!!」
自分なら間違いなくあのタイミングでヴァリスを当てる事ができた。あの段階で仕留める事ができたはずだった。
「チッ! ユーフェミアに救われたな、枢木スザクッ!!」
血を吐くようにそう喚くと信也率いる後備の部隊は撤退を開始した。
『んな事したら此方も敵が見えないだろうが!!』
「黙れ! 射撃は俺が指示する!!」
ぎゃあぎゃあうるさい玉城を黙らせて、ディートハルトの方を向く。
「主力部隊が租界外縁部に到達するには後どれくらいかかる」
「敵の追撃もあります。ここのままのペースでは45分と言ったところでしょう」
「クソッ!!」
藤堂達主力部隊は未だに租界内部にあり、まだまだ取り残されるポイントである。
『真田!!』
「どうかしましたか、杉山さん」
『此方に敵増援が向かってきてる』
信也はまた舌打ちする。スザクだけでなく三番隊の残存部隊が守るメディア地区側から力押しで進攻し、藤堂率いる主力部隊を租界内部包み込む様にして追い込んで退路を寸断するつもりらしい。
(主力部隊が徐々に租界内部に追い込まれている)
このままでは主力部隊は周りを網で囲まれた魚群の様に包囲されて絡め捕られてしまう。網を破るか、網に囲まれる前に外にでなければならないが、現状では網に囲まれるまでの時間を稼ぐ事ぐらいしかできないのだが、それをしても出口地点にいるランスロットとスザクが邪魔だ。
『真田総裁、俺と卜部隊長でランスロットを押さえる。その間に――』
「ダメだ。そろそろこの本陣への攻撃が再開されるはずだ」
『だが、もしもの備えより今の危機を』
「馬鹿が!! ここを落とされたら完全に退路を失う!! そんな事はできない!!」
内藤の意見を却下し、座標を入力してランスロットをどうにかするべく指示を出す。
「無頼隊は指示した座標に布陣! 陣形は鶴翼に近い形になるはずだ! その後は一斉射! ランスロットとその近辺に弾幕を張れ!」
だが時間稼ぎにもならなかった。ランスロットはブレイズルミナスで銃撃を防ぎつつハーケンを放ち、ハーケンのワイヤーを使い無頼達を薙ぎ倒した。見えないならそれらしい辺りを一掃すればよいと判断したらしい。
無頼達は簡単に薙ぎ払われてしまった。
「クソッ!!」
陣形が崩れると、そこから先はもはや一方的で個別に無頼が撃破されていく。
『おいっ!! どうするんだよ、真田!! このままだと一方的に』
「そんな事はわかっている!!」
相手に怒鳴り返したが、顔から血の気が引いているのが自分でもわかった。
「超電磁式榴散弾重砲、撃てぇーー!!」
当然なのだが、今度は動きを制約されていない状態なのでランスロットに余裕で回避された。
(どうする? 無頼がランスロットに敵うはずがない。ここは陣形を崩してでも隼人と卜部を出すか? 二人なら勝てないまでも時間稼ぎぐらいなら…………ダメだ。俺の読みが正しければそろそろ)
「敵に小隊が回り込んできました。この本陣を狙っている様です」
「やはりそう来たか、隼人、自分の機体に乗り換えて迎撃に迎え」
『了解』
「卜部さん」
『承知した』
なるべく毅然とした態度で指示を出しながらも、段々と悪くなっていく自分の顔色と険しい表情を取り繕う余裕さえも無くなってきた。
(どうする? 予備の戦力なんて無い。G-1を突っ込ませるか? ランスロット相手にこんな足が遅いデカ物で突艦? あり得ない)
現状を打破しようと冷静に考えれば考えるだけ、絶望が深まる。
(では、サザーランドではどうだ? ヴァリスを連射しながら突っ込んで行けば、チョウフで戦闘しているのだから引き付けるぐらい可能か? ………いや、左腕が動かない事なんてすぐに見抜かれる。ただ無駄に玉砕するだけだ)
抑、考える前から「黒の騎士団はブリタニアに負け、反乱は失敗に終わる。そして、この撤退は相手がヘマをやらかすか、奇跡でも起きない限り無理だ」と言う結論が出ていた。――と言うよりも、この戦場で真っ先にその事実に気付いたのは信也自身なのだ。
『真田君』
「ッ!?」
通信を繋いできた藤堂から名前を呼ばれた驚きで、思わず肩が跳ねた。
『ランスロットを退け、主力部隊が租界外まで退却する術はあるのか?』
「そ、それは……」
答えは言うまでもなく無いのだ。しかしながら、指揮官という立場上そんな事は口が裂けても言えない。必死に頭を働かせて“気休めの最もらしい事”を述べようとしたが、流石にこんな状態ではそんなペテンすら瞬時に出てこなかった。
「ほ、本陣周りの敵部隊を一掃した後、G―1とナイトメア部隊をランスロットへ向けて突撃させて退路を確保する」
『ナニッ!?』
藤堂が目を見開き驚いている。成功する可能性が低い策であり、ただ犠牲が増えるだけとなる可能性の方が極めて高い事をすぐに察したのだろう。
わかっている。そんな事は言っている本人である信也自身が一番わかっている。だが、他に手がないのだ。
このままランスロットにより中継地点の陣を落とされれば主力部隊と本陣は分断される。そうなれば主力部隊が無事に租界外縁部まで後退できたとしても「待ち構えているランスロット」と「追い縋る敵主力部隊」によって挟撃される形となり戦術的に最悪な布陣となる。その上、退路を絶たれた事を知った兵達が動揺して指揮采配に従わなくなると言う心理的な問題も同時に発生する。そんな状態で戦闘すれば秩序だっての退却はおろかまともな交戦すら不可能だ。間違いなく敵に一蹴されるだろう。かと言ってこんな状態で本陣の部隊を突っ込ませた所で本陣の戦力では勝算は極めて低く、敗北した場合は状況はより悪化する。また、仮にランスロットを排除する事ができたとしても、今度はがら空きの本陣を落とされ、あるいは退路を断たれる可能性があり、逃げ場すらなくなる。
主力部隊を散会させて散々に退却させる。と言う手もなくはないが、それをした場合は戦線を維持する事ができなくなるので秩序だっての退却が不可能だ。そうなれば間違いなく各個撃破されてしまう。
つまり何をどう足掻こうが既に“詰み”の状態なのである。抑、ゼロがいなくなった段階でもう詰んだ状態だったのだ。どう足掻こうが善戦は出来ても勝利はなかったのだが、遂に無駄な足掻きすらできなくなった。
『…………もういい』
「え?」
『状況は理解した』
藤堂は此方の反応からおおよその状況を察したのだろう、彼の声音は何処かサバサバしていた。そんな彼に対して返す言葉はなかった。
『君はよくやってくれた。君達は神楽耶様を護衛して戦場より離脱しろ』
「ナッ!? しかし、それでは!」
『ある程度の時間は稼ぐ。が、神楽耶様の件は君に任せる』
「ちょっと待て!!」
此方の言葉を聞かずに藤堂は一方的に通信を切って此方からの通信も全て遮断された。
『僕は君の事をいけ好かないガキだと思ってるけど、今回の事に関しては君には何の非もないと思うよ』
『私はそうは思わないがな。真田の言う通りゼロに賭けてみればこの様だ。あんな男、信じるのではなかったな』
朝比奈と千葉はそれだけ言うと、彼等も一方的に通信を切った。
『我等は我等の判断で役目を全うすべく戦う。貴殿は主君である神楽耶様を守る任務を全うされよ。短い間でしたが、世話になりましたな。貴殿の武運を祈っておりますぞ』
仙波も丁寧に別れの挨拶を済ませると通信を切った。
『もういい……十分だ、真田君。無茶をさせて済まなかった』
『俺達にもしもの事があったらカレンを頼む』
『アイツ、一人になってしまうかも知れないからな。井上が生きていればきっと『カレンを大切にしろ。泣かしたら許さない」って言うだろうな。宜しく頼む』
そう言って扇、南、杉山まで通信を切ってしまった。
「…………」
信也は血が出る程に固く唇を噛みしめる。こうなってしまった以上は指揮官として命じなければならない。その命令が遅くなれば遅くなるほど状況が悪化する。それも十分にわかっている。だが、味方を見捨てる命令を発する事ができなかった。
「真田!! 早く撤退の命令を!!」
ディートハルトに喚かれるがそれでも言葉が出てこなかった。
「信也ッ!!」
近くまで来て耳元で怒鳴り付ける様にして名を呼んだファイナーに促されて、神楽耶に視線を送ると、彼女は挙げた手を振り下ろして号令しようとしていた。
「わかっている!!」
信也は苛立ちをぶつける様に怒鳴り付け、神楽耶の号令を遮る様に命令を下す。
「我々は撤退する!!! 主力部隊は藤堂将軍の指揮の下で交戦した後に個別に逃走せよ。いいな! 命は粗末にするな! 絶対にだ!!」
そう通達した後にデータを送信した。内容は現状で使用できると思われる「租界からゲットーへの抜け道」つまり退路だ。役に立つかどうかはわからない、ただの気休めの様な物だが無いよりマシだと考えて一応送信した。
「クソッ!!」
自分なら間違いなくあのタイミングでヴァリスを当てる事ができた。あの段階で仕留める事ができたはずだった。
「チッ! ユーフェミアに救われたな、枢木スザクッ!!」
血を吐くようにそう喚くと信也率いる後備の部隊は撤退を開始した。