「ここが屋上か」

すばらしいほどの快晴。秋風が吹き居心地がいい。

今日は特に天気がいいからかもしれないが、過ごしやすい。

「なるほど、ここはいいな」

「たまーに俺達も昼ご飯を食べに来るんだ」

天気がいい日ならここは人気スポットになるだろう。

（たまになら来てもいいかもしれない）

屋上から街を眺める。全体とまではいかないがある程度街の様子がうかがえる。

一番向こうにある山。活気のある商店街。

いい街だ。改めて来て良かったと思える。

「案内は、これで最後か？」

「う、うん。他にも見たいところはある？」

「いや、ない。今日はありがとう。すごく楽しかった」

そう言ってニナは小さく微笑む。綱吉と獄寺はほんのりと顔を赤らめた。

「い、言っておくが、十代目に何かしたらただじゃおかねぇからな！」

「分かった分かった。何もしないよ」

「俺達、もう帰るね。ほら、リボーン帰るぞ」

「いや、俺はコイツと話があるからな。ツナ達は先に帰ってくれ」

（え？）

「なんだよ話って。ちゃんと夕飯前にはもどってこいよ」

そう言って二人は階段を降りていく。残ったのはリボーンとニナだけだ。

リボーンは二人が完全にここから去ったことを確認すると、ニナと向き合う。

「……話とは、なんだろうか」

「ニナ・クラルヴァイン。こっちじゃあまり知られてないが、優秀な暗殺者だってな」

空気が、一変した。あんなにも和やかだった場所が一気に緊迫した空気へと変わる。

「アイツが騒いでいた。突然ニナが消えた。日本に行ったかもしれないとな」

「……跳ね馬か」

もう少し詳しく書いた書き置きぐらいは残しておくべきだったか、と今になって後悔した。

だがどうしてニナが日本にいるかもしれないと思ったのだろうか。

「ツナのこと随分と調べていたみてーだからな。日本に行ったと思われたんじゃないのか」

まるで心を読んだかのような答えだ。そしてこの殺し屋は読心術が使えることを思い出し、一切の隠し事が出来ないと悟る。

「……肝心な所で詰めが甘いな、私は」

詰めが甘いから、大事なところでいつもミスをする。

かつての上司にそう何度も怒られた。

「言っておくが、私は次期ボンゴレ十代目候補を見に来ただけだ。危害を加える気はない」

「だろうな。その気になれば、ツナを殺せる機会は今までたくさんあったしな」

その言葉から今朝からニナの行動を監視していたことがうかがえる。

「流石だ、アルコバレーノ。最強の殺し屋」

アルコバレーノという言葉を聞いた途端リボーンはにやりと笑った。

「興味が湧いてね。全くの無名だった沢田綱吉がいきなりあの脱獄囚、六道骸を倒したんだ。それも貴方の力添えあってのことか」

「いいや。倒したのも全部ツナの実力は。俺は何もしてねぇぞ」

果たしてそれは本当なのか。真偽の程は分からないがリボーンが来てから綱吉は変わったという情報がある。

「それで、おまえはこれからどうするつもりなんだ？」

「しばらくここに滞在したい。実は今、理由あって逃亡中なんだ。居場所がバレるまで、誰にも言わないで欲しい」

「分かった。ディーノにも黙っておく」

「ありがとう。助かる」

「じゃあな。急がねぇとママンの料理が食べられねぇ」

そう言うとリボーンはいつの間にか消えていた。

まさか転校初日で自らの正体がばれるとは思わなかったが、隠してくれるならそれでいい。

「いい風だ」

先ほどとは打って変わって、和やかな雰囲気が戻った。

気持ちのいい風を浴び、目を細める。

「さて、私はいつまでここにいられるかな？」