「それが私が八歳の時だったな。あれから毎日地獄のような日々が続いたよ」

己の力で生きる為の必要な術を、スクアーロは全てニナにたたき込んだ。

「ヴァルが私がヴァリアーに入ると知ったとき、猛反対したんだ。だけど最終的にはそれしかないと納得して、色々と教えてくれた」

「ニナの兄貴って……」

「過保護だろう？　私が辟易するくらいに。……まぁ、それはさておき、スクアーロのことが知りたいんだな？」

スペルビ・スクアーロ。もっともヴァリアーのボスに近かった男。

前ボスであり剣の帝王と謳われていたテュールに死闘の末に勝利した男。

「……やべぇな」

「スクアーロは剣のスタイルを決めず、あらゆる剣術家に勝負を挑み今の剣術を完成させたんだ」

　　　　　～

「おまえは、器用だがそれだけだな」

剣の稽古中の事だった。あまりにも技の吸収の早さにスクアーロは色々な種類の剣をニナに使わせた。

初めて持つにも関わらず難なく使うことが出来たニナにスクアーロは器用だと言った。

「それは褒めていないな」

「別に剣の道を極めろとは言ってねぇ。俺達は何かしらの道を極めている。だがおまえは」

「私は……？」

そこでスクアーロは一旦言葉を切った。

その後、言葉の続きを言う事なく稽古は続いた。

だがそれからは剣の稽古だけではなく様々な格闘技、様々な武器を使っての稽古をするようになった。

　　　　　　～

「スクアーロの剣技は様々な流派を屠り自分の物にした男だ。だから私から言えることは、自分の流派にこだわりすぎるな、だ」

「……流派かぁ」

そう言ったきり山本が喋ることはなかった。

しばらく経ってから二人で稽古をし、約束の時刻は迫っていく。

ざぁざぁと勢いよく降る雨にチェルベッロはこの日を狙って今日を雷戦にしたのかと悟る。

ニナはレインコートを羽織り山本は傘を差して学校へと歩く。

「私は遠くで観戦しているから、タケシはそのままツナヨシ達と合流してくれ」

「ニナは一緒に行かないのか？」

「向こうにはヴァルがいるからな。あまり事を荒立てたくないんだ」

そういうと山本は納得したように苦笑する。

今回の戦闘フィールドである屋上に、ヴァルに見つからずどうやって観戦しようか。

「……そうだ。タケシに一つ聞きたいことがあるんだが」

「おう、なんだ？」

「タケシは、一体何の為に戦うんだ？　スクアーロに勝ちたいからか？」

一瞬、山本はポカンとした表情になる。質問の意味が伝わったのか、ニッコリと笑い、

「まぁ、アイツに勝ちたいってのもあるけどな。だけど、ツナが戦うって言ってるんだ。友達として見過ごすわけにはいかないだろ？」

「……友達の為、か。私は分からないな」

「そうか？　俺はニナはもう友達だと思ってるけどな。ツナもそう思ってるんじゃね？」

（そうなのだろうか）

友達、という概念がニナには分からない。

なのにどうして山本や綱吉はニナを友達というのか。

「……やっぱ一緒に行こうぜ。流石にニナの兄貴も手出しはしないだろ」

そういって山本はニナの手を引っ張る。

突然の事で抵抗できず、ニナは山本の進む方向についていくしかなかった。