「彼等は実力も経験もない。だから君の力が必要。というのはリボーンの言い分だったな。確かにそれも一理ある。しかしそれだけの理由で君を守護者として選んだわけではない。むしろ反対だったんだ」

反対する理由は分かる。今までヴァリアー側にいたニナをいきなり守護者として選ぶなど、到底考えられない。

「尚更何故？　という顔をしているな。この一ヶ月、リボーンは君の行動を俺に報告してきた。クラスにも馴染んでいて、ツナ達ともよく会話していると聞いた。悪いが、君がヴァリアーにいた時の事を調べさせてもらった。決して姿を現さず影のように任務を遂行する。正に暗殺者の鏡だ」

決して人目に姿をさらすな。おまえという存在を認識させてはいけない。そう言ったのはニナの兄だった。

暗殺者としてそれは正しい教えなのだが、あの兄の言葉にはそれ以上の意味が含まれていただろう。

「短い間だが、学校生活を送ってきた君の姿は到底報告書に書かれていたニナ・クラルヴァインとは実にかけ離れていた。それで分かったよ。君は本当はとても優しい子なのだと」

「……それは誤った認識だ」

「現に、先日ツナとバジルを助けてくれたらしいな。変わって礼を言う。ありがとう」

優しい？　誰が？　私がか？

今まで言われたことのないことを言われて、すごく戸惑った。

自分でも優しいなんて思ったことは一度もない。そもそも、優しさなど暗殺者にとって不要なものだ。

「だから君を選んだ。初代風の守護者は元軍人で、自分にも他人にも厳しかったが自分のやり方でファミリーを守ったそうだ。君は君なりのやり方で、ツナ達と一緒に戦って欲しい」

本当は断るつもりだった。こんな限りなく生きられる確率が低い話など。

だが、家光の頼む姿は真剣そのもので。

「ヴァリアーは、いつ来る」

「あの偽のリングは精巧に作られてある。もって十日だ」

短い。その短期間の間で、スクアーロにいとも簡単に倒されてしまった彼等はどれだけ成長するか。

「……分かった。だが、条件がある。私もこんなところで命を落としたくはない。この十日間でツナヨシ達の実力がヴァリアーと対抗出来ないと判断した場合、この話はなかったことにさせてもらう」

「ああ。それでも構わない」

返すつもりだったリングを、ニナは指にはめる。

半分に割れたリング。もう半分のリングをそろえることが出来るのか。

（ああ、どうして私はこう面倒ごとに首をつっこんでいくのか……）

そして学校に着いた頃にはもうとっくに授業が始まっているであろう時間。

そして守護者としての役割を受けることをディーノに伝えなければいけないこの面倒さ。

（学校は休もう）

「……それでは」

家光に頭を下げ、ニナは廃病院の方向へ行く。

このことをディーノに伝えたら、どんな顔をされるか。

嬉しそうに笑うだろう。結局あの人の手のひらの上で転がされていたということが腹立たしい。

（とりあえず、しばらく訓練していなかったら体がなまっているな。三日で戻さないと）