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T-7

 「もう学校へ行きたくない」
ここまで学校嫌いになるとは思わなかった。久しぶりに見たクラスメイトの顔は以前よりも冷酷に見え、勿論お喋りできるような友達は誰一人いない。12HRに自分はいらないのだと、美月は考えるようになった。

 夏休み明けすぐ、体育大会の練習が始まった。が、練習どころか、準備運動に組まれているグラウンド2周ですら、ついていけなくなった。一人取り残された彼女は皆を待たせ、恥をかくことになったのだ。容赦なく刺さる日光に「お前のせいだ」と、罪のない自然現象に向かって文句を言いたくなる。
 助けようとする人は、誰一人いない。

 「2番に入る指示出してよ」
担任からのお叱りが入る。クラス全員が振り向き、美月をじっと見つめる。合唱のソプラノパートリーダーなど、本当はやりたくなかったのだが、推薦でやらされる羽目になっていた。「私たちも美月ちゃんのことを支えてあげるから」一学期にそんなことを言われたが、今になってそれは全くの嘘だったということに気が付く。そもそもその発言をした女は全員話を聞かないどころか、歌うことすらしないのだから。
 クラスの空気が一瞬で凍った。

 * * * 

 「もうさ、ほんとに自分だけが劣ってるようにしか感じなくって嫌なんだよ」
「そんな気にし過ぎないほうがいいって。ミスなんて誰でもやってるし、やっちゃったら繰り返さないようにすればいいんだからさ」
 もはや莉奈との下校が、お悩み相談コーナーのような有様になっていた。この日は5時間授業、部活無しだったので下校時間が早く、まだ太陽が青空のだいぶ上のほうで輝いている。
「あれ、なんかもう頑張りたいけど、支えがないもん」
 そう言った瞬間、遠くで轟音が聞こえた。美月は音を聞き分けると、空を見上げて音の正体を探す。歩くのをやめて、必死に対象を目で追った。
「莉奈ちゃん!T-7!T-7がでっかくみえる!!」
そう叫んでも、飛行機に興味のない莉奈にはわかるはずがないが、その見事な飛び方は伝わったようだ。紅色と純白が組み合わさった機体が、自分たちの真上でUターンして、所属基地がある南へ戻っていく。
 それが飛び去って行った後も、美月は空を見ていた。
「あのね。私、あれの所属基地に電話したことがあるの。元々の目的は達成できなかったけどね。そん時、基地の人に教えてもらったことがあってさ」
「うん」
「あれってね、『航空学生』の過程を修了した、パイロットになるための勉強をしてる人たちが乗ってるんだって。だから、私もあの人たちみたいに頑張ろうと思う」
 一瞬の沈黙の後、莉奈が口を開いた。
「……そうだね!美月ってこういうの好きなのはわかるけど、だからこそ心の支えにできるのがいいと思うよ!」
 
 道端で話し込む2人は、陽が当たるのも気にせず、笑いあっていた。


  黒川美月で「T-7」
 
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