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プロローグ

 艦を降りた後。目線の先には何かを展示しているテントがあり、それを一目見た黒髪少女は叫んだ。

「見て!あそこに制服飾ってあるよ!」

「行ってみようぜ!」

美月がこれほど騒ぐことはほとんどない。その分、このように興味のあることについては大はしゃぎするものだから見た目に反し、意外と可愛いではないか。歩夢はクスリ、と笑った。

「美月と真人もう行っちゃったけど。早く行こうよー前田さーん」

莉奈の呼びかけにはいはい、と適当に返事しておいた。莉奈は素直そうな見た目の割に、よく突っかかってくるからいけない。典型的な女子の性格だ。でも非常時にはとても頼りになる。

 ほんの少し歩くと、例のテントに着いた。先に行った美月とそれに焦ってついていった正樹は、近くにいた自衛官から何か話を聞いている。ノリでここまで走ってきた真人と慶太はというと、背丈に合わない自衛隊の制服を着て二人そろって写真を撮ってもらっていた。左の慶太は白の詰襟。右の真人はセーラー服だ。

「おっ歩夢が来た」

正樹が振り向くとそこには歩夢がいた。勉強熱心な彼は話を聞きたそうにそばにいる海上自衛官を見つめている。

「あのっ、僕もお話を聞かせていただきたいんですけどいいですか?」

勿論いいですよ、と快諾されると早速質問し始めた。それも正樹と美月そっちのけで。

 「何してんの?」

急に後ろから声がした。すぐに莉奈の声だとわかったので、驚きの悲鳴は隠すことができた。

「いや、ほんとに急に声かけるのやめて」

「なんか俺達さ、歩夢に話遮られた」

「は?」

広報担当の自衛官に話しかけられてそのまま話し込んだこと、それを見つけた歩夢に会話の主導権を奪われたことを説明すると、「なるほどね」と、納得してくれた。

 「おーい!見ろよこの写真!」

真人と慶太が割り込んでくる。差し出されたデジカメの画面を見ると、ダボダボの制服を着てびしっと敬礼した写真が何枚も保存されていた。しかも敬礼は海自とその他で使い分けがされている。

「真人くんと慶太くん、よく敬礼の違いわかったね」

ミリタリー好きな美月が感嘆の声を上げる。

「自衛隊の人に教えてもらった」

「着てるときめっちゃ暑かったんだぞー」

「じゃあ私は正帽だけ被らせてもらおっと」

彼女はもう一人いた担当自衛官に許可を取ってから、陸自の正帽を選んで被った。

「私が写真撮るよ」

莉奈にカメラを預けると、そのまま右手で敬礼した。

 帽子を元の場所に返したところで、会話を終えた歩夢がやってくる。その表情はとても満足気に見えた。

「あの人さぁ、自衛隊での経験をたくさん教えてくださったんだ。上陸が楽しいとか、掃海艇の話とか……やっぱやりがいがあるんだなって」

「気を付けなよー地本の人ってだいたいそんな風にして自衛隊に引きずり込ませようとするからね」

歩夢が言い終わる前に美月が遮り、場が笑いに包まれた。


「当ったり前だろ!」
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