1章 「大和」
じりじりと陽が照りつける中、柏手を鳴らし、深々と最敬礼をする。
ここは市の中心部にあるとある神社。宮司から聞くところによると、日本武尊にゆかりのある場所らしく、市名の由来になった伝説も残っているらしい。歩夢自身、神道に興味があるためこの場所を選んだが地元ということもあって、これだけではつまらない、と感じていた。
「日本武尊の他の逸話について調べちゃだめなのかなぁ」
計算にしろ実験にしろ、複雑なものを求める彼は、御神体のルーツやら、何故か境内に置いてある全国的にも貴重な神武天皇像やらが気になって仕方がなかった。追求しようとしても段々他のことへ視点がずれていく。ふざけるな!と自分の行き過ぎた好奇心にストップをかけようとしたが、それとは反対に、どんどん関係ないことへ興味が移っていく。担任が「調べるのは市内に関係あることだけ」だと言ったのに。草薙剣 の行方などといったら、もはや源平合戦、あるいは熱田神宮や皇居の話になってしまうだろう。
一旦頭を整理させようと、ご神木を含め緑の木々が沢山生えた神社の西側へ向かう。あれからはっと我に返ったときは、日本武尊の石像の前で突っ立っている状態だった。見上げたとき飛び込んできた石像の顔には大層驚いた。あんなに考え込んでいたのは自分でも引く。
「御神木凄く太くて大きいな。確か楠だっけ?」
歩夢が巨大なそれを見上げて言った瞬間。後ろからグニャグニャと聞き慣れない音がして、振り返るとその空間にはマンホールの蓋と同じくらいの穴が開いていた。え?と驚きの声を上げる暇なく、何かが勢いよく出てきて、歩夢の背面に直撃する。
「いってぇ!!」
地面に倒れる前に手をつき、白い学校制服が汚れるのは免れたものの、背中には、まだ重量が残っている。
「えっ、あっ、そこに当たっちゃってごめん!」
後ろから少女の声がする。何かおかしいなと思いそちらを見てみると……。
本当にただの女子中学生にしか見えないではないか。
「いいけど、まず背中から降りてくんない?」
指図すると割と素直に降りてくれた。立ち上がって彼女をじっと見つめる。サラサラとしたボブカットの黒髪に、紫色の瞳。背丈は自分よりもかなり低く、顔立ちも少しばかり幼い。中学生と思いこめるのは、身に纏った白い夏用セーラー服のせいだろう。
少し警戒しながら質問する。
「そもそも君は何者なの。」
すると、セーラー服の少女は照れながら答える。
「あー、えっとね。私は菅野 まやっていうの。訳あって未来から来ました」
未来人だという衝撃的な返答に唖然とする。大きな時間移動、ましてや過去に行くことができるタイムマシンなど開発不可能だとテレビで言っていた……ということはさておき、本当に未来人ということを確認するにはいくつかの質問をしなければならない。
「西暦何年の世界から来たの?」
「それは言えない」
初っ端からその回答する人っている?いや、こちらの質問の仕方が悪かったのか?もしかしたら法で禁止されているのか。
「えー……。じゃあ、身寄りは」
「ないです」
言い終わる前に即答された。言われてみれば、違う時代の人なら「現在」に帰る場所が無いのも当然のことだろう。実際、異空間から出てきたのを見てしまったからにはもう信じるほかあるまい。
「んー。じゃあうちに来る?目の前で見ちゃったんだからこれは信じるしかないし。妹がうるさいけど……大丈夫?」
少しの間を挟んで。ヴァイオレットの眼差しが訴える。
「……じゃあ、ありがたく上がらせてもらうね」
まやは、安堵した声で言った。
ここは市の中心部にあるとある神社。宮司から聞くところによると、日本武尊にゆかりのある場所らしく、市名の由来になった伝説も残っているらしい。歩夢自身、神道に興味があるためこの場所を選んだが地元ということもあって、これだけではつまらない、と感じていた。
「日本武尊の他の逸話について調べちゃだめなのかなぁ」
計算にしろ実験にしろ、複雑なものを求める彼は、御神体のルーツやら、何故か境内に置いてある全国的にも貴重な神武天皇像やらが気になって仕方がなかった。追求しようとしても段々他のことへ視点がずれていく。ふざけるな!と自分の行き過ぎた好奇心にストップをかけようとしたが、それとは反対に、どんどん関係ないことへ興味が移っていく。担任が「調べるのは市内に関係あることだけ」だと言ったのに。
一旦頭を整理させようと、ご神木を含め緑の木々が沢山生えた神社の西側へ向かう。あれからはっと我に返ったときは、日本武尊の石像の前で突っ立っている状態だった。見上げたとき飛び込んできた石像の顔には大層驚いた。あんなに考え込んでいたのは自分でも引く。
「御神木凄く太くて大きいな。確か楠だっけ?」
歩夢が巨大なそれを見上げて言った瞬間。後ろからグニャグニャと聞き慣れない音がして、振り返るとその空間にはマンホールの蓋と同じくらいの穴が開いていた。え?と驚きの声を上げる暇なく、何かが勢いよく出てきて、歩夢の背面に直撃する。
「いってぇ!!」
地面に倒れる前に手をつき、白い学校制服が汚れるのは免れたものの、背中には、まだ重量が残っている。
「えっ、あっ、そこに当たっちゃってごめん!」
後ろから少女の声がする。何かおかしいなと思いそちらを見てみると……。
本当にただの女子中学生にしか見えないではないか。
「いいけど、まず背中から降りてくんない?」
指図すると割と素直に降りてくれた。立ち上がって彼女をじっと見つめる。サラサラとしたボブカットの黒髪に、紫色の瞳。背丈は自分よりもかなり低く、顔立ちも少しばかり幼い。中学生と思いこめるのは、身に纏った白い夏用セーラー服のせいだろう。
少し警戒しながら質問する。
「そもそも君は何者なの。」
すると、セーラー服の少女は照れながら答える。
「あー、えっとね。私は
未来人だという衝撃的な返答に唖然とする。大きな時間移動、ましてや過去に行くことができるタイムマシンなど開発不可能だとテレビで言っていた……ということはさておき、本当に未来人ということを確認するにはいくつかの質問をしなければならない。
「西暦何年の世界から来たの?」
「それは言えない」
初っ端からその回答する人っている?いや、こちらの質問の仕方が悪かったのか?もしかしたら法で禁止されているのか。
「えー……。じゃあ、身寄りは」
「ないです」
言い終わる前に即答された。言われてみれば、違う時代の人なら「現在」に帰る場所が無いのも当然のことだろう。実際、異空間から出てきたのを見てしまったからにはもう信じるほかあるまい。
「んー。じゃあうちに来る?目の前で見ちゃったんだからこれは信じるしかないし。妹がうるさいけど……大丈夫?」
少しの間を挟んで。ヴァイオレットの眼差しが訴える。
「……じゃあ、ありがたく上がらせてもらうね」
まやは、安堵した声で言った。
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