毎日目が回るほど忙しくて、休む暇もなくて、失敗ばかりで、心が弱った。
寂しさに負けて、深夜カカシに電話した。
彼氏でもないのに、カカシだって忙しいのに、私の話なんか聞いてくれて、優しい言葉をかけてくれて、嬉しいのに、情けない気持ちでいっぱいになった。
「今から行こうか？」
そんな気遣いにわずかなプライドが抵抗した。
「いい、来ないで。お互い疲れてるんだし。」
じゃあね、と電話を切った後、胸の中に後悔が滲んだ。
来て欲しかったくせに。
限界を超えた涙が床にシミを作った。
しばらく一人で泣いて、泣きつかれた頃、背後でコンコン、と窓を叩く音がした。
振り向けばベランダでカカシがしゃがんでいて、窓の取っ手を指差しながら「開けて」とジェスチャーしている。
なんで来ちゃったの、と唇を噛んでそっぽを向いたけど、もう一度カカシが窓を叩いたから、開けることにした。
顔を見られたくなかったから、涙を拭って、視線を合わせないようにしながら窓を開ける。
するりとその隙間をすり抜けるようにしてカカシは入ってきて、「やっぱりね」とつぶやいた。
「泣いてるんじゃないかと思ったんだ。」
私は今にもしゃくり上げそうで、声を出せなかった。
こらえようと思えば思うほど、涙がとめどなく溢れる。
カカシが近づいてくるから、「だめ」と早口に言った。
「たぶん、もっと泣く」
そう言ったのに、カカシは「ふう」とため息にも似た息を吐いて私を抱きしめる。大きくてしっかりとした腕に包まれて、私の体は一瞬こわばった。
「あ…」
「……」
「だめ、はなして」
「んー…やだ…」
だって見てらんないからさ。とカカシ。
「なあ、」
「……」
「このままキスしちゃったら、怒る？」
「…絶対だめ」
好きに、なっちゃう。だから、やめて。
涙声でそう伝えた。
「いいじゃないの、好きになっちゃえば。」
泣いて泣いて、厚い唇に、カカシは半ば強引に口付けたのに、その触れ方は優しくて、慰めるみたいにちゅ、ちゅ、となんども吸い付く。
ずるい、弱ってる時に、こんなことするなんて。
「今だけは忘れて、仕事のこと。オレのことだけ考えてて。」