***が、花が好き。と言えば「僕もです。有限の美しさがある。」とコナー。
アイドルが好き。と言えば「僕もです。彼らは魅力的な少年たちだ。」と。
焼く前のパン生地が好きなのだ。と言えば「僕もです。焼き上がりを想像すると心が躍る。」と。
何でもかんでも"me too."と言うので、
「それはソーシャルモジュールに基づいた回答？」
と***が苦笑すると、彼は***を見てLEDを黄色に点滅させた。
「教えて、本当は何が好きなの？本？映画？音楽？」
***が質問すると、コナーは人差し指と親指で顎を支えるようにして腕を組んだ。LEDランプはくるくると回転を続けている。
***は困らせたくて聴いたわけではないのだが、深く考え込んでいる様子である。いつの間にか取り出した25セントコインを手の中で弄んでいる。
沈黙が流れて、***はホットチョコレートを啜った。
パチン、とコナーがコインを親指で弾いた。
コインは宙を舞って、またコナーの手に収まる。
手にしたコインを、彼はポケットにしまった。
「強いて言うなれば、」
とコナーは***を見る。
期待を込めた目で***が視線を合わせると、コナーの視線は落ち着きなく逃げて行って、最終的にテーブルの上に置かれた自分のマグカップに注がれた。コナーを人のように扱う彼女は、ブルーブラッドをマグカップに注ぐのだった。
「…なに？」
「いいえ、なんでもありません。」
僕はアンドロイドです。好むものは特別ありませんが、あなたが望む何者にでもなるのですよ。
とプログラム通りの返答を返した。

強いて言うなれば、あなただ。
そんな言葉を、ソフトウェアの異常と共に飲み下して、そっと唇を噛んだ。
そう、自分は何者にでもなれる。しかしあなたの恋人になるのは叶わない、叶えられない、叶えてはいけないのだ、と。
今日もまた、彼女に、自分に、嘘をついた。