4日目:君と僕との境界線(春海)

 文月海は、俺と同じ参謀というポジションのキャラクターで活動している。相方である始を除けば、コンビで仕事をすることも多い。
 けれども、俺と海の共通点は少ない。ほとんど無いといってもいい気がする。
 おおらかで明るい海に触れていると、自分の醜い部分が露になってどうしようもなく嫌な気持ちになる。

「……春?」
「あ、ごめん。起こしちゃったかな?」
「ん……」

 眠そうに目をこすり縮こまる海はまるで猫のようだ。髪を撫でるように触れれば、ふふっとくすぐったそうに笑った。

「ふぁ……」
「寝てていいよ」
「ん~大丈夫。結構意識はっきりしてきた」

 目を開いて眩しい笑顔を見せる海に、どうしようもなく劣等感を抱いてしまう。そんな自分を知るのが嫌で何も言わずに唇を重ねた。
 海の薄い唇から吐息が漏れる。普段の爽やかな彼からは想像できない、扇情的な姿は俺しか知らない。そんな優越感がもっと俺を欲深くさせる。
 歯列をなぞり、自由に海の口内を侵すと、海が苦しそうに俺の腕を引っ張った。

「……っはぁ」
「ごめん。ちょっとやりすぎちゃった」

 唇を離し、そう言って苦笑する。海は顔を赤くさせたまま、何度か大きく息を吸って吐いた。

「急だったからびっくりした」

 なんてまた笑う海はやっぱり眩しい。
 あぁ、どうしようもなく滅茶苦茶にしてしまいたい。その唇に噛みついて、体中に痕をつけて、無理矢理にその蕾を暴けば海はどんな顔をするのだろう。その時でもこんな風に眩しく輝いているのだろうか。
 どうしても俺は、君に近づけないままなんだろうか。

「海」
「ん? どうした?」

 純粋な目に俺の顔が映る。そこだけが汚れている気がした。

「好きだよ」

 湧き上がってくる醜い感情を抑えつけ、口から零れた言葉は皮肉にも美しいものだった。
 海は「どうしたんだ」とまた楽しそうに笑って、「俺も好きだぞ」と返した。言葉以上に、海の全てが美しかった。

 いつか、君に俺の全てを見せられる日が来るのだろうか。汚く醜い俺を知っても海は嫌いにならないかな。
 そんな感情を隠すように笑って「ありがとう」と返した。左目から零れた滴に気付かないフリをして。
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