3日目:目を合わせたその一瞬、(始海)

 話があるんだ、と俺の部屋を訪ねてきた始の顔はいやに真剣だった。
 何かあったのかと尋ねようとしたが、その異質さに聞くことも出来ず部屋に通した。

「えっと、話って何だ?」

 謎の重い空気にわざと明るめのテンションでそう聞く。が、始はこの世の終わりのような顔をして俺を見た。
 ぱちりと目が合う。警告音のようなものが聞こえた気がした。

「……好きだ」
「え? 今何て、」
「だから、お前のことが好きなんだ海。そういう意味で」

 目の前の男は、Six Gravityのリーダーで、黒の王様と呼ばれ、東の睦月と言われるほどの地位も名声もある、そんな男が、自分に告白をしているという事実に、何故だか笑いだしたくなった。それはたぶん、冗談だと思っていたからだ。
 それなのに、笑いだせばいいはずなのに。俺の口は動かない。口どころか頭も体も何一つ動かない。まるで金縛りにあったようだ。
 ただ、始の悲痛に満ちた真っすぐな目が俺を捉える。

「っ、はじめ」

 ようやく出せた声は、少しかすれていた。

「なん、で」

 違う、そうじゃない。笑えよ、俺。「冗談だろ?」って「どうせドッキリなんだろ?」って笑ってしまえ。
 そうすればきっと始も「そうだよ」って言って笑うに決まってるんだ。冗談で終わらせることが出来る。
 俺は、目の前の男に道を踏み外させるわけにはいかないのに。

「何で、か。……本当に、何でなんだろうな」

 くすっと笑った顔に、先程のような悲痛さはあまり感じられなくて。代わりに愛おしいという感情が漏れ出していた。

「でも、海が好きなんだ」

 始の言葉に、表情に嘘が無いことは一目瞭然だった。
 手が震える。震えを抑えようとした方の手も震えている。

「俺は、男で。お前も男で」
「ああ」
「なのに、好きなのか……?」
「そうだな。もうずっと前から、海のことを好きになっている」

 ああ、どうしよう。始は本気だ。俺はどうすればいいのだろう。
 もう冗談だなんて言えない。笑おうにも口角が上がらない。それどころか目頭が熱くなって息が苦しくなる。
 ダメだ。この気持ちは隠しておかなければいけない。出してしまえば最後、しんどい思いをするのは俺じゃなくて始なのだ。

「俺、は」

 言うな。そのまま笑って誤魔化せ。

「……俺も、始が好きだ」

 パトカーのサイレン音が頭の中で鳴り響く。
 嘘だって言えなくて、冗談だって笑えなくて。ただ泣きそうな顔をしている俺を始がぎゅっと抱きしめた。
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