2日目:褒められると嬉しいのですが、素直に喜べません(プロセラ海)
「え、っと」
いつものように目覚めた海は、伸びをしてすぐ異変に気が付いた。いつも筋肉でしか膨らんでいなかった部分が大きく膨らんでいる。
自身の身に起きたことを認識する前に、海はベッドから降り洗面所のほうに向かった。
鏡に映る海の姿は、いつもよりもずっと女らしい。髪は少し伸びていて、肩につかないぐらいの長さになっている。なにより身長がいつもより20センチほど低い。
ぺたぺたと全身を触る。信じたくはないが、やはり体は女性のものになってしまったようだ。
「は~……マジか」
喋った声もいつもより高い。体だけでなく、声も女性になっていた。
海は部屋着のまま、この現象の原因を作ったであろう人間の元へ向かった。
部屋を出てすぐの隣の部屋、合い鍵を使って扉を開ける。しかし、そこに部屋の主の姿はなかった。
「あれ、まだ寝てると思ったんだけどな」
浴室やトイレにもその姿は無い。どうやら隼は既に起きて共有ルームに向かったようだ。
はぁ、と一つ息を吐いて海は隼の部屋を後にする。そして自身が部屋着のままであることを忘れ共有ルームに向かった。
海が共有ルームに足を踏み入れると、そこには珍しく海以外のプロセラメンバーが揃っていた。
「…………え」
人間は本当に驚くと声が出なくなるのだと、海は冷静に今の状況を分析した。陽、夜、郁はそれぞれ文字通り固まっていて、涙は不思議そうに首を傾げている。
ただ一人、隼だけはとても嬉しそうに微笑んでいた。
「おはよう、かぁい」
「……隼、お前俺に何したんだ」
ようやく隼以外の四人は、共有ルームに入ってきた女性を文月海だと認識したらしく、それぞれが驚きの声をあげた。
「は、え、マジで海なの?」
「海さんどうしちゃったんですか」
陽と郁が海に近づく。いつも同じくらいの目線だが、今は二人の顔を見上げるようになっていた。
「起きたらこうなってたんだよ。なぁ、どうしてか教えてくれますか、魔王様?」
「ふふふ。よく僕だって分かったね?」
「いや、こういう時はお前のせいだろ」
優雅に紅茶を飲む隼は、陽のツッコミをものともしない。ティーカップを置いて、にっこりと笑うその笑みは海には悪魔のように見えた。
「難しいことじゃないよ。ただ、海が女の子になった姿が見たいなぁって思って」
今日ほど海は隼のことを殴りたいと思ったことは無い。衝動的に出そうになる拳を抑えて、海はまた一つため息をついた。
「で、いつ戻るんだ?」
「そうだねぇ……大体半日かな。そんなには持たないよ」
「半日か。オフでよかった」
とりあえずは受け入れるしかない。そう思って海が頷くと、陽が信じられないといった顔で海を見た。
「海、簡単に受け入れ過ぎじゃね……?」
「仕方ないだろ。ま、半日経ったら戻るしな」
「ほんとお前は……」
と言いながら、陽は海の顔から体の方へと視線を移す。
女性になった海の姿は、一言で表現すれば海と同じ月を担当するSeleasのメンバー姫川瑞希に似ていた。髪型や体形は彼女とそっくりだ。
違う点をあげるとすれば髪の色と目の色、それは海の色だ。声も、いつもより高くはあるものの海の面影を残していた。
一番変化のある大きな胸に視線を止め、陽は頭に浮かんだ疑問を海に投げた。
「なぁ、Tシャツの下ってどうなってんの……?」
「へ?」
「いや、下着とかさ。一応今は女じゃん」
「え、いや、何も着てないけど」
海の答えに陽はまた固まり、隣に居た郁は顔を赤くした。元は海だと分かっていても、女性が言っているように捉えてしまうのは仕方のないことだろう。
少し離れたところにいた夜が海の元へ駆け寄る。そして自分が着ていたカーディガンを海の肩にかけた。
「海さん! とりあえずこれ羽織ってください! ちゃんと前も止めて!」
「お、おう」
夜のカーディガンを海はしっかりと着る。男の状態では小さく感じるだろうそれは、今の自分には少し大きく感じた。
夜はほっと息を吐き、陽に睨みを利かせる。
「陽。女性に対してデリカシーなさすぎ」
「いや、夜。こいつ海だぞ?」
「でも今は女性なんだから、大事に扱わないとダメでしょ」
そう言って海の肩を抱く夜は、とても紳士的だ。女性扱いされることに困惑しながら海は隼の方を見た。
ぱちり、隼と目が合う。が、やはり隼は微笑むだけだ。
そんな隼の代わりに今まで遠巻きに海を見ていた涙が、海の所へ近づいてきた。
「海」
「涙。どうした?」
「すごく可愛い」
真っすぐな目で涙は海を見つめる。からかっているようには見えなかった。
「え、っと……ありがとう?」
「海って女の子になったら可愛いんだね」
女好きを公言するOS組とは違い、普段から色恋沙汰の話をしない涙が女性姿の海を褒めている。海は頭を抱えたくなったが、涙に触発されたのか他の三人も次々と口を開いた。
「あの、俺も海さん可愛いと思います!」
「俺も俺も。つか、普通にタイプだわ」
「海さん、美人さんですよね」
四人からの褒め殺しに海がおろおろしていると、優雅にティータイムを過ごしていた隼がその重い腰を上げた。
隼は海の背後に回り、後ろから抱きつく。ふわり、海の鼻に紅茶の香りが届いた。
「海が可愛いのは分かるけど、海は僕のものだからね」
そう言って隼は海の頬に口づけを落とす。
すぐに訪れた静寂に海が思ったことはただ一つ、早く元に戻りたいということだけだった。
いつものように目覚めた海は、伸びをしてすぐ異変に気が付いた。いつも筋肉でしか膨らんでいなかった部分が大きく膨らんでいる。
自身の身に起きたことを認識する前に、海はベッドから降り洗面所のほうに向かった。
鏡に映る海の姿は、いつもよりもずっと女らしい。髪は少し伸びていて、肩につかないぐらいの長さになっている。なにより身長がいつもより20センチほど低い。
ぺたぺたと全身を触る。信じたくはないが、やはり体は女性のものになってしまったようだ。
「は~……マジか」
喋った声もいつもより高い。体だけでなく、声も女性になっていた。
海は部屋着のまま、この現象の原因を作ったであろう人間の元へ向かった。
部屋を出てすぐの隣の部屋、合い鍵を使って扉を開ける。しかし、そこに部屋の主の姿はなかった。
「あれ、まだ寝てると思ったんだけどな」
浴室やトイレにもその姿は無い。どうやら隼は既に起きて共有ルームに向かったようだ。
はぁ、と一つ息を吐いて海は隼の部屋を後にする。そして自身が部屋着のままであることを忘れ共有ルームに向かった。
海が共有ルームに足を踏み入れると、そこには珍しく海以外のプロセラメンバーが揃っていた。
「…………え」
人間は本当に驚くと声が出なくなるのだと、海は冷静に今の状況を分析した。陽、夜、郁はそれぞれ文字通り固まっていて、涙は不思議そうに首を傾げている。
ただ一人、隼だけはとても嬉しそうに微笑んでいた。
「おはよう、かぁい」
「……隼、お前俺に何したんだ」
ようやく隼以外の四人は、共有ルームに入ってきた女性を文月海だと認識したらしく、それぞれが驚きの声をあげた。
「は、え、マジで海なの?」
「海さんどうしちゃったんですか」
陽と郁が海に近づく。いつも同じくらいの目線だが、今は二人の顔を見上げるようになっていた。
「起きたらこうなってたんだよ。なぁ、どうしてか教えてくれますか、魔王様?」
「ふふふ。よく僕だって分かったね?」
「いや、こういう時はお前のせいだろ」
優雅に紅茶を飲む隼は、陽のツッコミをものともしない。ティーカップを置いて、にっこりと笑うその笑みは海には悪魔のように見えた。
「難しいことじゃないよ。ただ、海が女の子になった姿が見たいなぁって思って」
今日ほど海は隼のことを殴りたいと思ったことは無い。衝動的に出そうになる拳を抑えて、海はまた一つため息をついた。
「で、いつ戻るんだ?」
「そうだねぇ……大体半日かな。そんなには持たないよ」
「半日か。オフでよかった」
とりあえずは受け入れるしかない。そう思って海が頷くと、陽が信じられないといった顔で海を見た。
「海、簡単に受け入れ過ぎじゃね……?」
「仕方ないだろ。ま、半日経ったら戻るしな」
「ほんとお前は……」
と言いながら、陽は海の顔から体の方へと視線を移す。
女性になった海の姿は、一言で表現すれば海と同じ月を担当するSeleasのメンバー姫川瑞希に似ていた。髪型や体形は彼女とそっくりだ。
違う点をあげるとすれば髪の色と目の色、それは海の色だ。声も、いつもより高くはあるものの海の面影を残していた。
一番変化のある大きな胸に視線を止め、陽は頭に浮かんだ疑問を海に投げた。
「なぁ、Tシャツの下ってどうなってんの……?」
「へ?」
「いや、下着とかさ。一応今は女じゃん」
「え、いや、何も着てないけど」
海の答えに陽はまた固まり、隣に居た郁は顔を赤くした。元は海だと分かっていても、女性が言っているように捉えてしまうのは仕方のないことだろう。
少し離れたところにいた夜が海の元へ駆け寄る。そして自分が着ていたカーディガンを海の肩にかけた。
「海さん! とりあえずこれ羽織ってください! ちゃんと前も止めて!」
「お、おう」
夜のカーディガンを海はしっかりと着る。男の状態では小さく感じるだろうそれは、今の自分には少し大きく感じた。
夜はほっと息を吐き、陽に睨みを利かせる。
「陽。女性に対してデリカシーなさすぎ」
「いや、夜。こいつ海だぞ?」
「でも今は女性なんだから、大事に扱わないとダメでしょ」
そう言って海の肩を抱く夜は、とても紳士的だ。女性扱いされることに困惑しながら海は隼の方を見た。
ぱちり、隼と目が合う。が、やはり隼は微笑むだけだ。
そんな隼の代わりに今まで遠巻きに海を見ていた涙が、海の所へ近づいてきた。
「海」
「涙。どうした?」
「すごく可愛い」
真っすぐな目で涙は海を見つめる。からかっているようには見えなかった。
「え、っと……ありがとう?」
「海って女の子になったら可愛いんだね」
女好きを公言するOS組とは違い、普段から色恋沙汰の話をしない涙が女性姿の海を褒めている。海は頭を抱えたくなったが、涙に触発されたのか他の三人も次々と口を開いた。
「あの、俺も海さん可愛いと思います!」
「俺も俺も。つか、普通にタイプだわ」
「海さん、美人さんですよね」
四人からの褒め殺しに海がおろおろしていると、優雅にティータイムを過ごしていた隼がその重い腰を上げた。
隼は海の背後に回り、後ろから抱きつく。ふわり、海の鼻に紅茶の香りが届いた。
「海が可愛いのは分かるけど、海は僕のものだからね」
そう言って隼は海の頬に口づけを落とす。
すぐに訪れた静寂に海が思ったことはただ一つ、早く元に戻りたいということだけだった。