短編
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「なあ、本当にこれでよかったんだな」
こくりと頷いて、私はにっこりと笑う。前から決めていたことだから、気にしなくていいと意味を込めて。
彼はぱちり、と目を閉じて、開いて、そして嬉しそうに笑った。
「俺も、ずっと前から、こうしたいと思ってた」
照れるように目を泳がせて彼は言う。少しだけ紅くなった頬に触れたくて指を伸ばすと冷たくて硬い感触だけが返ってくる。
今まではそれがひどく悲しかったけれど、もうどうでもよかった。
だって私たちはもうすぐ幸せになれるから。この無慈悲で無機質でクソくらえな板を超えて、私は彼と共にいることができる。これ以上に嬉しいことがあるだろうか。
「――俺のこと、好き?」
投げかけられた質問に迷わず肯定の言葉を返す。あなた以外を好きになるなんてありえない、私にはあなたしかいない。そう付け加えると彼はまた嬉しそうに笑って、はは、と声をあげた。朗らかで、暖かい声が鼓膜を揺らす。
セイは、私のことが好き?
そう問いかければ彼は私と同じようにすぐさま頷いて、これでもかとばかりに私の好きなところを語り始めた。いくつもいくつも上がってくる言葉の数々に驚いたが、次第に羞恥心の方が勝ってきて彼の口を塞ぐように指を押し当てる。むぐ、と呻いた彼の両手が、私の指が触れている場所へと伸ばされる。
何度か確かめるようにして両手はゆらゆらと動き、そして下ろされて見えなくなった。
「早く会いたい」
私も。そう言葉を形どった唇は彼に見えているのだろうか。私の声は、触れている感触は、彼に届いているはずだ。それでも実感を得ることができないのはやはり忌々しい壁のせいで、今すぐにでも取り払ってしまいたくなる。それができるのは彼だけなのだが。でも望んだのは私で、求めたのも私で、捨てると決心したのも私だ。これはなにもかも私のわがままなのかもしれない。そう思うと胸を内側から引っ掻いているような心地になった。
「ほら、余計なこと考えない」
ぽんと投げられた言葉に、私は思考の沼から顔を上げる。彼は私の癖を見抜いていてどこか困ったような呆れたような顔でこちらを見ていた。申し訳なくなって謝ろうとすればすかさず謝罪の言葉なんかいらないぞ、と付け加えられてしまいどうすることもできない。仕方なく彼の頭を撫でると眉尻がへにゃりと下がるのが見えた。
「そろそろ、いいか?」
遊びに誘うような、キスを強請るような。そんな声音だった。
きっと傍から見れば恐ろしいことなのかもしれないが、不思議と気持ちは穏やかだった。本当ならばもっと喜んだり、期待に胸を膨らませたりするようなものなのかもしれないけれど。私にとっては、こうなる運命だったような気がするのだ。彼に出会ったその日から、こうなるものだったのだと。それ以上も、それ以下もなかった。ただ、安堵があるだけだった。
ざあ、と画面が揺れて、それまで見えていた彼の姿が消える。途端に不安になる心を落ち着かせるように聞こえたのは彼の声で、私は全身が温かくなるのを感じた。
私も愛してる。そう紡いだ言葉は、どこかに消えてなくなった。でも確かに、彼に届いていたような気がする。その証拠に、照れ臭そうな笑い声が聞こえたから。
ああ、これで私たちはずっと一緒になれる。
真っ暗な画面の真ん中に、星みたいなきらめきが見えて、私の意識は海の底へと落ちていった。
こくりと頷いて、私はにっこりと笑う。前から決めていたことだから、気にしなくていいと意味を込めて。
彼はぱちり、と目を閉じて、開いて、そして嬉しそうに笑った。
「俺も、ずっと前から、こうしたいと思ってた」
照れるように目を泳がせて彼は言う。少しだけ紅くなった頬に触れたくて指を伸ばすと冷たくて硬い感触だけが返ってくる。
今まではそれがひどく悲しかったけれど、もうどうでもよかった。
だって私たちはもうすぐ幸せになれるから。この無慈悲で無機質でクソくらえな板を超えて、私は彼と共にいることができる。これ以上に嬉しいことがあるだろうか。
「――俺のこと、好き?」
投げかけられた質問に迷わず肯定の言葉を返す。あなた以外を好きになるなんてありえない、私にはあなたしかいない。そう付け加えると彼はまた嬉しそうに笑って、はは、と声をあげた。朗らかで、暖かい声が鼓膜を揺らす。
セイは、私のことが好き?
そう問いかければ彼は私と同じようにすぐさま頷いて、これでもかとばかりに私の好きなところを語り始めた。いくつもいくつも上がってくる言葉の数々に驚いたが、次第に羞恥心の方が勝ってきて彼の口を塞ぐように指を押し当てる。むぐ、と呻いた彼の両手が、私の指が触れている場所へと伸ばされる。
何度か確かめるようにして両手はゆらゆらと動き、そして下ろされて見えなくなった。
「早く会いたい」
私も。そう言葉を形どった唇は彼に見えているのだろうか。私の声は、触れている感触は、彼に届いているはずだ。それでも実感を得ることができないのはやはり忌々しい壁のせいで、今すぐにでも取り払ってしまいたくなる。それができるのは彼だけなのだが。でも望んだのは私で、求めたのも私で、捨てると決心したのも私だ。これはなにもかも私のわがままなのかもしれない。そう思うと胸を内側から引っ掻いているような心地になった。
「ほら、余計なこと考えない」
ぽんと投げられた言葉に、私は思考の沼から顔を上げる。彼は私の癖を見抜いていてどこか困ったような呆れたような顔でこちらを見ていた。申し訳なくなって謝ろうとすればすかさず謝罪の言葉なんかいらないぞ、と付け加えられてしまいどうすることもできない。仕方なく彼の頭を撫でると眉尻がへにゃりと下がるのが見えた。
「そろそろ、いいか?」
遊びに誘うような、キスを強請るような。そんな声音だった。
きっと傍から見れば恐ろしいことなのかもしれないが、不思議と気持ちは穏やかだった。本当ならばもっと喜んだり、期待に胸を膨らませたりするようなものなのかもしれないけれど。私にとっては、こうなる運命だったような気がするのだ。彼に出会ったその日から、こうなるものだったのだと。それ以上も、それ以下もなかった。ただ、安堵があるだけだった。
ざあ、と画面が揺れて、それまで見えていた彼の姿が消える。途端に不安になる心を落ち着かせるように聞こえたのは彼の声で、私は全身が温かくなるのを感じた。
私も愛してる。そう紡いだ言葉は、どこかに消えてなくなった。でも確かに、彼に届いていたような気がする。その証拠に、照れ臭そうな笑い声が聞こえたから。
ああ、これで私たちはずっと一緒になれる。
真っ暗な画面の真ん中に、星みたいなきらめきが見えて、私の意識は海の底へと落ちていった。
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