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近所にある集会所に許可を取り、私はその日焚き火で焼き芋がしたくなった。
さつまいもを吟味し、いくつか買うと家から新聞紙、アルミホイル、軍手にバケツを用意して集会所へと向かう。
集会所に到着すると、私はまず近場にある石ころで簡易的なファイアーピットを作る。
そこによく乾燥した落ち葉を集め、持ってきた新聞紙を作ったファイアーピットの窪みに入れて火をつけた。
火がいい感じに回ってきたら、小枝を入れてまた火が回るのを待つ。そしてそこにあらかじめ拾っておいた大きめの枝を入れていけば、火床の温度が上がり安定していく。
それと同時に焚火の炎も安定していくので、大きめの薪が燃えてしまう前に次の薪を足して、足して、ぱちぱちと音を立てて揺らめく焚火を楽しむのもまた一興だ。
さて、焚火を楽しんだら熾火を作ろう。この熾火が焼き芋にはとても大切なのだ。炎がだんだんと小さくなっていき、大きな薪の芯が赤くなったのを確認すれば完成だ。
そこに買ってきた焼き芋を新聞紙に包み、バケツに溜めた水に潜らせて、アルミホイルでしっかり包んで準備完了だ。
「お前……こんなところで何しとんねん」
振り返ると、そこには上下黒のスウェットに身を包んだ金髪サングラスの一人の男性と、彼を取り巻くように黒いスーツに身を包んだ二人の男性が立っていた。
「あ、原田さん、来てくれたんだね。皆さんもお疲れ様です」
黒服の原田さんの部下の人たちに会釈をすると、彼らも返してくれた。原田さんは「もうええ」と言うと彼らはその場から去っていってしまう。
「休みの日にやりたいことがある言うから来てみたら……なんや、秋っぽい事しとるやないかい」
「ふふ、いいでしょ、焼き芋。原田さんもやろうよ」
「ええよ、何か手伝うことあるか?」
「じゃあ、さつまいも焚火の中に入れて、端の方に」
原田さんに軍手とトングを渡すと、彼はそれらを身につけてファイアーピットの前にヤンキー座りになり、焼き芋を熾火の中へと入れていく。
その後ろ姿が普段はヤクザをやっている人には見えなくて、私は思わず小さく微笑んだ。
「これでええの?」
「うん、バッチリ。しばらくそこに置いていけばできるよ」
二人でその辺にある大きな石の上に座り、静かに熾火を見つめる。
「焼き芋こうやって作るのなんて久しぶりやわ」
「私も、小学生以来かな。……ちなみに、このお芋結構いいやつだから、絶対美味しいよ」
「ほんまに?そりゃ楽しみやわ」
以前よりも少し柔らかく笑うようになった彼を見て、私は嬉しいような、少し切ないような気持ちになった。
以前の彼は仕事に追われ、忙殺され、こんな風に休日を過ごすことは滅多になかった。
それが、とある男性の死がきっかけで前よりも休みを増やし、こうして私との時間をなるべく作ってくれるようになった。
私は件の男性の葬儀には参列していないし、そもそも関わりもない。原田さんからその男性の話をよく聞いていただけだ。
その男性の葬儀の後、原田さんの元気がしばらく無かったのも確かだ。私はその時、ただ傍で寄り添うことしかできなかった。
原田さんの逞しい肩に首を傾けて、少し体を預ける。青く高く、少し冷える秋空の下で、私はまた彼に寄り添うことしかできない。
暫く無言で熾火を見つめていると、原田さんがその静寂を破った。
「なあ、名前」
彼の大きくて武骨な手が、私の手を優しく握る。
「いつも、ありがとうな」
「……え、どうしたの?」
少しの沈黙の後、原田さんは言葉を紡ぐ。
「名前がこうして俺に寄り添ってくれるの、ほんまに嬉しいんや。俺は幸せ者やと思うてな……」
「原田さん……」
彼の手を握る力が、優しく込められるのを感じて、そのささやかな仕草が愛おしくて、彼の手に私のもう片方の手を重ねた。
「私も、とっても幸せ……原田さんと一緒にいれるのが……私、すごく嬉しい」
そう答えるや否や、私は彼の大きな腕に抱きしめられ、その温もりを全身で感じ取る。体重を彼に委ねて、私もその広い背中に腕をまわして抱きしめた。
「ふふ、原田さん、大好き」
「俺も……いや、俺はちゃうな」
「え?好きじゃないの……?」
思わぬ言葉に私は憔悴し、困惑の眼差しで原田さんを見る。対して彼は優しくて、愛おしいものを見る眼差しを私に向けていた。
「すまんすまん、好きやけど……好きとちゃうねん」
「むっ、どういうこと?」
少し不服になり、キッと睨むと彼が少し恥ずかしそうに唇を噤む。そして私をまた優しく抱きしめると、耳元で原田さんが囁いた。
「……愛してる」
かぁっと頬に熱が登るのを感じて、私はぐいぐいと原田さんの胸板を押し返した。
「そっ、そういうのっ……!卑怯だからっ……!」
「くく、顔真っ赤で可愛いなぁ」
「うるさいっ!もう……!あっ、焼き芋ころころしないと!」
原田さんはなにがおかしいのか、低く喉で笑っている。それを他所に私は焼き芋が焦げてしまわないように軍手を着けてトングを手に取り、焼き芋を裏返していく。
「焼き芋ころころって言い方も可愛いわ」
「……」
その言い方に関しては完全に無意識だったため、なんだか恥ずかしいのと幼く思われたのではないかと思って、少し悔しい気持ちになった。もう絶対ころころなんて言わない。
私が焼き芋を裏返していると、原田さんも手伝いにきてくれて、隣でアルミホイルに包まれたさつまいもを裏返す。
「あとどれくらいでできるん?」
「んー、あと20分くらいかな」
「楽しみやわ」
それから手を繋ぎながら熾火を見つめ、焼き芋を裏返しては他愛もない会話をする。
そして熾火から焼き芋を出して冷めるまで少し待つと、完成だ。
「ええ匂いやな」
「ね!甘くていい匂い……いただきます」
「ほな、いただきます」
できたてほやほやの焼き芋を一口食べる。口いっぱいにさつまいもとろみと甘みが広がり、体が温まるのを感じた。
「秋やなぁ」
「秋だね〜」
集会所にある桜の木は、すっかり黄色い葉をつけて紅葉真っ只中だ。ささやかなこの秋の麗らかな日を、好きな人と過ごせて本当に幸せだ。
集会所の庭の片付けを終えて、日の短くなった秋の16時はもう暗くなっていた。
「もう、行くんだね」
「明日からまた仕事やからな」
「……焼き芋、黒服さんにも渡しておいてね」
「おお、任せとき」
「……次の休みはいつ?」
原田さんは少し考えると答える。
「年始明けてからやな。その時はまた、名前と居たい」
「私も……原田さんと居たいから、頑張るよ」
「おう、きばりや。せやけど無理はアカンからな」
「原田さんもね」
そう言うと私は原田さんに抱きついた。別れ際の寂しさや切なさを埋めたくて。
「また、年明けにね」
「ああ、絶対会いにくるから」
「約束だよ」
「おう、約束」
お互い笑いあって、しばしの別れを告げる。
「じゃ、またね!」
「おう、またな」
秋の少し寒い風が、木枯らしをそよそよと揺らした。
さつまいもを吟味し、いくつか買うと家から新聞紙、アルミホイル、軍手にバケツを用意して集会所へと向かう。
集会所に到着すると、私はまず近場にある石ころで簡易的なファイアーピットを作る。
そこによく乾燥した落ち葉を集め、持ってきた新聞紙を作ったファイアーピットの窪みに入れて火をつけた。
火がいい感じに回ってきたら、小枝を入れてまた火が回るのを待つ。そしてそこにあらかじめ拾っておいた大きめの枝を入れていけば、火床の温度が上がり安定していく。
それと同時に焚火の炎も安定していくので、大きめの薪が燃えてしまう前に次の薪を足して、足して、ぱちぱちと音を立てて揺らめく焚火を楽しむのもまた一興だ。
さて、焚火を楽しんだら熾火を作ろう。この熾火が焼き芋にはとても大切なのだ。炎がだんだんと小さくなっていき、大きな薪の芯が赤くなったのを確認すれば完成だ。
そこに買ってきた焼き芋を新聞紙に包み、バケツに溜めた水に潜らせて、アルミホイルでしっかり包んで準備完了だ。
「お前……こんなところで何しとんねん」
振り返ると、そこには上下黒のスウェットに身を包んだ金髪サングラスの一人の男性と、彼を取り巻くように黒いスーツに身を包んだ二人の男性が立っていた。
「あ、原田さん、来てくれたんだね。皆さんもお疲れ様です」
黒服の原田さんの部下の人たちに会釈をすると、彼らも返してくれた。原田さんは「もうええ」と言うと彼らはその場から去っていってしまう。
「休みの日にやりたいことがある言うから来てみたら……なんや、秋っぽい事しとるやないかい」
「ふふ、いいでしょ、焼き芋。原田さんもやろうよ」
「ええよ、何か手伝うことあるか?」
「じゃあ、さつまいも焚火の中に入れて、端の方に」
原田さんに軍手とトングを渡すと、彼はそれらを身につけてファイアーピットの前にヤンキー座りになり、焼き芋を熾火の中へと入れていく。
その後ろ姿が普段はヤクザをやっている人には見えなくて、私は思わず小さく微笑んだ。
「これでええの?」
「うん、バッチリ。しばらくそこに置いていけばできるよ」
二人でその辺にある大きな石の上に座り、静かに熾火を見つめる。
「焼き芋こうやって作るのなんて久しぶりやわ」
「私も、小学生以来かな。……ちなみに、このお芋結構いいやつだから、絶対美味しいよ」
「ほんまに?そりゃ楽しみやわ」
以前よりも少し柔らかく笑うようになった彼を見て、私は嬉しいような、少し切ないような気持ちになった。
以前の彼は仕事に追われ、忙殺され、こんな風に休日を過ごすことは滅多になかった。
それが、とある男性の死がきっかけで前よりも休みを増やし、こうして私との時間をなるべく作ってくれるようになった。
私は件の男性の葬儀には参列していないし、そもそも関わりもない。原田さんからその男性の話をよく聞いていただけだ。
その男性の葬儀の後、原田さんの元気がしばらく無かったのも確かだ。私はその時、ただ傍で寄り添うことしかできなかった。
原田さんの逞しい肩に首を傾けて、少し体を預ける。青く高く、少し冷える秋空の下で、私はまた彼に寄り添うことしかできない。
暫く無言で熾火を見つめていると、原田さんがその静寂を破った。
「なあ、名前」
彼の大きくて武骨な手が、私の手を優しく握る。
「いつも、ありがとうな」
「……え、どうしたの?」
少しの沈黙の後、原田さんは言葉を紡ぐ。
「名前がこうして俺に寄り添ってくれるの、ほんまに嬉しいんや。俺は幸せ者やと思うてな……」
「原田さん……」
彼の手を握る力が、優しく込められるのを感じて、そのささやかな仕草が愛おしくて、彼の手に私のもう片方の手を重ねた。
「私も、とっても幸せ……原田さんと一緒にいれるのが……私、すごく嬉しい」
そう答えるや否や、私は彼の大きな腕に抱きしめられ、その温もりを全身で感じ取る。体重を彼に委ねて、私もその広い背中に腕をまわして抱きしめた。
「ふふ、原田さん、大好き」
「俺も……いや、俺はちゃうな」
「え?好きじゃないの……?」
思わぬ言葉に私は憔悴し、困惑の眼差しで原田さんを見る。対して彼は優しくて、愛おしいものを見る眼差しを私に向けていた。
「すまんすまん、好きやけど……好きとちゃうねん」
「むっ、どういうこと?」
少し不服になり、キッと睨むと彼が少し恥ずかしそうに唇を噤む。そして私をまた優しく抱きしめると、耳元で原田さんが囁いた。
「……愛してる」
かぁっと頬に熱が登るのを感じて、私はぐいぐいと原田さんの胸板を押し返した。
「そっ、そういうのっ……!卑怯だからっ……!」
「くく、顔真っ赤で可愛いなぁ」
「うるさいっ!もう……!あっ、焼き芋ころころしないと!」
原田さんはなにがおかしいのか、低く喉で笑っている。それを他所に私は焼き芋が焦げてしまわないように軍手を着けてトングを手に取り、焼き芋を裏返していく。
「焼き芋ころころって言い方も可愛いわ」
「……」
その言い方に関しては完全に無意識だったため、なんだか恥ずかしいのと幼く思われたのではないかと思って、少し悔しい気持ちになった。もう絶対ころころなんて言わない。
私が焼き芋を裏返していると、原田さんも手伝いにきてくれて、隣でアルミホイルに包まれたさつまいもを裏返す。
「あとどれくらいでできるん?」
「んー、あと20分くらいかな」
「楽しみやわ」
それから手を繋ぎながら熾火を見つめ、焼き芋を裏返しては他愛もない会話をする。
そして熾火から焼き芋を出して冷めるまで少し待つと、完成だ。
「ええ匂いやな」
「ね!甘くていい匂い……いただきます」
「ほな、いただきます」
できたてほやほやの焼き芋を一口食べる。口いっぱいにさつまいもとろみと甘みが広がり、体が温まるのを感じた。
「秋やなぁ」
「秋だね〜」
集会所にある桜の木は、すっかり黄色い葉をつけて紅葉真っ只中だ。ささやかなこの秋の麗らかな日を、好きな人と過ごせて本当に幸せだ。
集会所の庭の片付けを終えて、日の短くなった秋の16時はもう暗くなっていた。
「もう、行くんだね」
「明日からまた仕事やからな」
「……焼き芋、黒服さんにも渡しておいてね」
「おお、任せとき」
「……次の休みはいつ?」
原田さんは少し考えると答える。
「年始明けてからやな。その時はまた、名前と居たい」
「私も……原田さんと居たいから、頑張るよ」
「おう、きばりや。せやけど無理はアカンからな」
「原田さんもね」
そう言うと私は原田さんに抱きついた。別れ際の寂しさや切なさを埋めたくて。
「また、年明けにね」
「ああ、絶対会いにくるから」
「約束だよ」
「おう、約束」
お互い笑いあって、しばしの別れを告げる。
「じゃ、またね!」
「おう、またな」
秋の少し寒い風が、木枯らしをそよそよと揺らした。
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