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「寒い」
と青年が無表情で呟く。
「寒いね」
とその隣を歩く女性は小さく笑いかけながら答えた。
冬の透き通った朝焼けの中を、二人の男女が短く言葉を交わしながら歩く。
二人ともマフラーを巻き、女性は手袋をして厚手の白いダッフルコートを身につけている。
青年は手袋こそしていないが、黒いダウンジャケットに赤いマフラーに口元を埋め、頬が寒さで赤く染まっていた。
夜通し雀荘にいた二人は、静かになった繁華街の中を歩いていると、空腹を刺激する醤油と香味の香ばしい匂いが鼻腔をついた。
視線の先には、こんな早朝までやっている居酒屋があった。外の看板には大きな習字の書体でもつ鍋と書かれている。
「……ねえ、赤木さん」
「ん?」
「私、赤木さんと同じ事考えてるかも」
「奇遇だね、俺もだ」
そう言葉を交わすと、二人は居酒屋の暖簾をくぐり、店内へと入った。
お好きな席へどうぞとの事なので、取り敢えず奥の席に座り、二人は上着やマフラー、手袋を脱ぐと壁に掛けてあったハンガーに掛け、落ち着いたところでメニューを見た。
どうやらこの店の看板メニューはもつ鍋のようだ。先程の良い香りはこれだったのだろうと合点がいく。
「赤木さん、もつ鍋食べましょうよ」
「いいよ。飲み物は?」
「んー、ウーロンハイ。赤木さんは?」
「熱燗にしようかな」
「熱燗にウーロンハイ、もつ鍋ね。すみません、注文いいですか?」
名前が店員を呼び、注文をすると熱燗とウーロンハイがすぐに届いた。
「じゃ、乾杯しましょ」
「うん、乾杯」
「かんぱ〜い」
グラスとお猪口を合わせ、二人はアルコールを喉に通す。
「はぁ〜〜〜、やっぱ一儲けした後のお酒は美味しい!」
名前がグラスを机の上に置いて、アルコールが体に回る喜びを表情で現す。
「ククク、アンタ今日調子良かったもんな」
「いやあ、本当にラッキーだった!赤木さんも、強い人と対局当たって楽しそうだったね」
「ああ、今回は結構楽しめたよ」
そう言うと赤木は机の端に置いてあった灰皿を手繰り寄せ、煙草に火をつける。フゥーッと吐いた煙が上へと昇っていく。
二人の関係は少し変わったもので、名前が雀荘で派手に負けている所を、偶然赤木が見かけて代わってやったのが始まりだった。
それから二人は別に連むわけでもなく、雀荘でたまたま出会っては近況を話し、こうして帰りに飲んだりする仲となったのだ。
「それにしても、今日も赤木さんの和了は凄かったなぁ。立直、一発、海底自摸、七対子、ドラ4って……エグすぎ」
「そういうアンタも、清一色ドラ3で逆転したじゃない」
二人はお通しを口にしながら、今日の麻雀での出来事を話す。
「あれは運が良かったというか、なんと言うか」
そう言いつつも名前は満更でも無さそうな表情を浮かべる。
「運も実力のうちさ」
そんな事を話していると、メインディッシュのもつ鍋がやってきた。
鶏ガラの香りに、ニラともつ、それからキャベツ、薄く刻んだニンニクが散らされている鍋はこの冬の寒さを視界から一気に吹き飛ばしてくれる。
「「いただきます」」
二人は手を合わせると、小皿に好きなようにもつ鍋の中身を盛っていく。
「あ、赤木さんキャベツよけてる〜。ちゃんと野菜食べないとダメだよ」
「……」
そう言われて赤木は無表情だが、渋々キャベツを小皿によそった。
猫舌の赤木は箸で持ったもつとキャベツをふー、ふー、と冷ますと口へ運ぶ。
口の中に鶏ガラと野菜の出汁が染み込んだもつの味がいっぱいに広がり、それを飲み下すと腹の中から温まるのを感じる。
──ああ、冬だな……。
目の前の名前もスープを飲んでそれを感じているのか、目が合う。
「ふふっ、もつ鍋を食べてると冬って感じがするよね」
「ああ、そうだな」
二人はポツポツと最近の麻雀や賭け事の話、フラッと寄ったあそこの店の何が美味しかっただとか、あそこの雀荘はやめた方がいいとか、そういった事を話す。
いい感じに酔いも回ってきて、普段は口数の少ない赤木も段々喋るようになっていた。
「でさぁ〜、そこの雀荘の爺さんにコテンパンにやられちゃってさぁ〜、50万負けちゃったけど、でも今回の勝ちで取り返せて良かったーって思って」
「ハハッ、アンタそりゃあ派手に負けたなぁ」
「いや、爺さん本当に強かったんだって!S区の雀荘ミスターっていう小島って爺さん!赤木さん今度行って対局してみてよ!その時は私もリベンジするからさ!」
「懲りないな、アンタ」
「その時はコンビ打ちでよろしく」
──勝手に決めてやがる……。
もつ鍋の中は大分少なくなってきていた。さて、〆はどうするかと二人は思案する。
「〆はラーメンだね」
「〆はうどんだな」
二人は顔を見合わせた。
「ラーメン」
「うどん」
「ラーメン!」
「いや、うどんだ」
どちらも引かぬ二人。すると、名前は卓に置いてあった割り箸を割ると、バッグからボールペンを取り出して何かを書き込んだ。
それを赤木に見せると、名前は不敵に笑う。
「賭けをしましょう、赤木さん」
割り箸にはラーメン、うどんと書かれており、それを見た赤木は察した。
「なるほど、いいだろう」
名前に割り箸を返すと、彼女は割り箸の文字を書いた方を手に握り、両手でシャッフルすると片手に持ち替え、赤木に差し出す。
「さあ、引いてください」
赤木はじっと割り箸を見ると、その手を伸ばす。右の割り箸が取られ、ゆっくりと名前の手の中から引き抜いた。
「……ククク、うどんだ」
「うぅ…!悔しい…!!」
こうして〆はうどんになった。赤木は終始ご機嫌そうに喉の奥でクククと笑っていた。
〆のうどんを食べ、店を出るとすっかり日は昇り、繁華街を明るく照らしている。
寒くなった街の中を、温まった二人は歩く。
「赤木さん、これからどうするの?」
「今回の金種銭にして、博奕旅に行こうと思う」
「あら、暫く会えなくなるなぁ」
「ククク、寂しい?」
「いや、全然」
「だろうね」
すると、名前は歩みを止めると赤木を真っ直ぐ見つめた。
「赤木さんが生きててくれるなら、何処に居ても寂しくないって事」
そう言うと、赤木は少し目を見開くと、その切れ長の瞳を少し細めて、優しく笑う。
「フフ、そう?」
「そうなの」
二人は歩き出す。そして駅まで辿り着くと、赤木は左へ、名前は右へ歩みを進める前に、言葉を交わした。
「次はいつ会えるかな」
「ククク、何処かの雀荘でまた会えると思うよ」
「だね!それじゃあ赤木さん、またいつか!」
「ああ、またいつか」
二人は別れ、歩みを進める。
またいつか、何処かで出会えると信じて。
と青年が無表情で呟く。
「寒いね」
とその隣を歩く女性は小さく笑いかけながら答えた。
冬の透き通った朝焼けの中を、二人の男女が短く言葉を交わしながら歩く。
二人ともマフラーを巻き、女性は手袋をして厚手の白いダッフルコートを身につけている。
青年は手袋こそしていないが、黒いダウンジャケットに赤いマフラーに口元を埋め、頬が寒さで赤く染まっていた。
夜通し雀荘にいた二人は、静かになった繁華街の中を歩いていると、空腹を刺激する醤油と香味の香ばしい匂いが鼻腔をついた。
視線の先には、こんな早朝までやっている居酒屋があった。外の看板には大きな習字の書体でもつ鍋と書かれている。
「……ねえ、赤木さん」
「ん?」
「私、赤木さんと同じ事考えてるかも」
「奇遇だね、俺もだ」
そう言葉を交わすと、二人は居酒屋の暖簾をくぐり、店内へと入った。
お好きな席へどうぞとの事なので、取り敢えず奥の席に座り、二人は上着やマフラー、手袋を脱ぐと壁に掛けてあったハンガーに掛け、落ち着いたところでメニューを見た。
どうやらこの店の看板メニューはもつ鍋のようだ。先程の良い香りはこれだったのだろうと合点がいく。
「赤木さん、もつ鍋食べましょうよ」
「いいよ。飲み物は?」
「んー、ウーロンハイ。赤木さんは?」
「熱燗にしようかな」
「熱燗にウーロンハイ、もつ鍋ね。すみません、注文いいですか?」
名前が店員を呼び、注文をすると熱燗とウーロンハイがすぐに届いた。
「じゃ、乾杯しましょ」
「うん、乾杯」
「かんぱ〜い」
グラスとお猪口を合わせ、二人はアルコールを喉に通す。
「はぁ〜〜〜、やっぱ一儲けした後のお酒は美味しい!」
名前がグラスを机の上に置いて、アルコールが体に回る喜びを表情で現す。
「ククク、アンタ今日調子良かったもんな」
「いやあ、本当にラッキーだった!赤木さんも、強い人と対局当たって楽しそうだったね」
「ああ、今回は結構楽しめたよ」
そう言うと赤木は机の端に置いてあった灰皿を手繰り寄せ、煙草に火をつける。フゥーッと吐いた煙が上へと昇っていく。
二人の関係は少し変わったもので、名前が雀荘で派手に負けている所を、偶然赤木が見かけて代わってやったのが始まりだった。
それから二人は別に連むわけでもなく、雀荘でたまたま出会っては近況を話し、こうして帰りに飲んだりする仲となったのだ。
「それにしても、今日も赤木さんの和了は凄かったなぁ。立直、一発、海底自摸、七対子、ドラ4って……エグすぎ」
「そういうアンタも、清一色ドラ3で逆転したじゃない」
二人はお通しを口にしながら、今日の麻雀での出来事を話す。
「あれは運が良かったというか、なんと言うか」
そう言いつつも名前は満更でも無さそうな表情を浮かべる。
「運も実力のうちさ」
そんな事を話していると、メインディッシュのもつ鍋がやってきた。
鶏ガラの香りに、ニラともつ、それからキャベツ、薄く刻んだニンニクが散らされている鍋はこの冬の寒さを視界から一気に吹き飛ばしてくれる。
「「いただきます」」
二人は手を合わせると、小皿に好きなようにもつ鍋の中身を盛っていく。
「あ、赤木さんキャベツよけてる〜。ちゃんと野菜食べないとダメだよ」
「……」
そう言われて赤木は無表情だが、渋々キャベツを小皿によそった。
猫舌の赤木は箸で持ったもつとキャベツをふー、ふー、と冷ますと口へ運ぶ。
口の中に鶏ガラと野菜の出汁が染み込んだもつの味がいっぱいに広がり、それを飲み下すと腹の中から温まるのを感じる。
──ああ、冬だな……。
目の前の名前もスープを飲んでそれを感じているのか、目が合う。
「ふふっ、もつ鍋を食べてると冬って感じがするよね」
「ああ、そうだな」
二人はポツポツと最近の麻雀や賭け事の話、フラッと寄ったあそこの店の何が美味しかっただとか、あそこの雀荘はやめた方がいいとか、そういった事を話す。
いい感じに酔いも回ってきて、普段は口数の少ない赤木も段々喋るようになっていた。
「でさぁ〜、そこの雀荘の爺さんにコテンパンにやられちゃってさぁ〜、50万負けちゃったけど、でも今回の勝ちで取り返せて良かったーって思って」
「ハハッ、アンタそりゃあ派手に負けたなぁ」
「いや、爺さん本当に強かったんだって!S区の雀荘ミスターっていう小島って爺さん!赤木さん今度行って対局してみてよ!その時は私もリベンジするからさ!」
「懲りないな、アンタ」
「その時はコンビ打ちでよろしく」
──勝手に決めてやがる……。
もつ鍋の中は大分少なくなってきていた。さて、〆はどうするかと二人は思案する。
「〆はラーメンだね」
「〆はうどんだな」
二人は顔を見合わせた。
「ラーメン」
「うどん」
「ラーメン!」
「いや、うどんだ」
どちらも引かぬ二人。すると、名前は卓に置いてあった割り箸を割ると、バッグからボールペンを取り出して何かを書き込んだ。
それを赤木に見せると、名前は不敵に笑う。
「賭けをしましょう、赤木さん」
割り箸にはラーメン、うどんと書かれており、それを見た赤木は察した。
「なるほど、いいだろう」
名前に割り箸を返すと、彼女は割り箸の文字を書いた方を手に握り、両手でシャッフルすると片手に持ち替え、赤木に差し出す。
「さあ、引いてください」
赤木はじっと割り箸を見ると、その手を伸ばす。右の割り箸が取られ、ゆっくりと名前の手の中から引き抜いた。
「……ククク、うどんだ」
「うぅ…!悔しい…!!」
こうして〆はうどんになった。赤木は終始ご機嫌そうに喉の奥でクククと笑っていた。
〆のうどんを食べ、店を出るとすっかり日は昇り、繁華街を明るく照らしている。
寒くなった街の中を、温まった二人は歩く。
「赤木さん、これからどうするの?」
「今回の金種銭にして、博奕旅に行こうと思う」
「あら、暫く会えなくなるなぁ」
「ククク、寂しい?」
「いや、全然」
「だろうね」
すると、名前は歩みを止めると赤木を真っ直ぐ見つめた。
「赤木さんが生きててくれるなら、何処に居ても寂しくないって事」
そう言うと、赤木は少し目を見開くと、その切れ長の瞳を少し細めて、優しく笑う。
「フフ、そう?」
「そうなの」
二人は歩き出す。そして駅まで辿り着くと、赤木は左へ、名前は右へ歩みを進める前に、言葉を交わした。
「次はいつ会えるかな」
「ククク、何処かの雀荘でまた会えると思うよ」
「だね!それじゃあ赤木さん、またいつか!」
「ああ、またいつか」
二人は別れ、歩みを進める。
またいつか、何処かで出会えると信じて。