過去の拍手
name change
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「すっかり秋だね」
隣に居る白髪の青年は、夜色になった秋空を見上げながら呟く。
「そうですね、涼しくて過ごしやすくていいですね」
そんな青年の隣を歩く女性は適当な返事をする。
久しぶりにばったり会った青年──赤木しげるが名前の前に姿を現したのは約半年ぶりの事だった。
「ねえ、名前。今日は俺のところ来ない?」
「え、アカギさんの家?」
「家じゃない、今は旅館に泊まってる。来るの?来ないの?」
そう言いつつも手を差し伸べてくる彼に、内心狡い人だと毒づきながらも、名前は彼の手をとった。
アカギに連れて来られた場所は高級旅館の一室だった。
シンプルな和風造りの部屋の中は畳のいい匂いに包まれていて、漆塗りの卓袱台の上にはこれまた美味しそうな茶菓子が用意されていた。
名前はそわそわしながら部屋の座椅子に腰掛けた。
「お茶飲む?」
「は、はい……では、いただきます」
ソワソワした様子の名前をアカギは小さく笑いながら、楽しそうに見つめると湯のみに緑茶を淹れる。
そして名前の隣に座ると、共に茶を嗜み始めた。一口飲むと、アカギは満足して湯のみを置いて、名前の髪を弄りはじめる。
くるくると指に巻き付けても、スルリと通り抜けていく美しい、艶やかな髪。遊ばれている名前本人はそんなアカギを受け入れつつも、恥ずかしさからか顔を少し下に傾けてアカギを見ないようにしていた。
そんな初々しい反応をいつまでもしてくれる恋人が愛おしいが、下を向いてしまっては見せたいものが見せられない。
「ねえ、名前……こっちに来て」
名前の手を取るとアカギは立ち上がり、彼女の手を取って縁側へと歩き始める。
「な、なんですか……?」
訳も分からぬまま名前はアカギに連れていかれると、目の前に中庭が見てた。
見事な日本庭園造りで、波打った敷き砂利に、緑色に苔むした美しい岩たち。悠々と泳ぐ錦鯉の棲む池に、赤い紅葉が差している。
見上げると、立派ないろは楓が佇んでいた。
「綺麗……」
「これを見せたかったんだ。……名前、一杯どう?」
彼は縁側に座り、お猪口に日本酒の乗った盆を見やる。名前は勿論と答え、アカギの隣に座ると美しい日本庭園を見ながら晩酌をした。
暫くすると月も顔を覗かせて、これまた見事な秋の風景が広がる。
「月が綺麗ですね、アカギさん」
そう言うと、名前は一拍遅れてあっ、と声を上げた。
「ち、ちがっ……!そういう意味ではなくて!あっ、違う!愛してないって事じゃなくて……!」
「ククク、愛してるんだ」
名前は声にならない声をあげて、顔を背ける。日本酒を飲んでいるせいではない、もっと別の熱が、名前の頬を熱くした。
「それなら、ずっと見ていようか」
「……それって」
名前は目を見開き、彼を見つめる。月と同じ髪の色をした彼は、その目を三日月のように細めると、薄く笑う。
「そういう事、ずっと愛してるよ」
そう言われ、顔から火が出そうなほど熱くなった名前は、アカギの肩に頭を預ける。
「……わ、私も……愛してます」
月明かりに溶け合う二人を、静かな秋風が包み込む。
いろは楓だけが、愛し合う二人を見守っていた。
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