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十月三十一日、世間はハロウィンに浮き足立ち、街には仮装した子供達がカボチャのキャンディーボックスを持ってご近所からお菓子を貰っていた。
そんな中、ささやかに一人暮らしを送るこの小さなアパートで、名前は大量に作ってしまったクッキーを見て、困り果てていた。
「……作りすぎた」
そう独りごつ。さて、どうしたものかと悩んでいると、本日がハロウィンである事を思い出した名前は、ご近所にでも配ろうかと思案した時、インターホンが鳴り響いた。
「はーい」
ドアを開けると、そこには一人の少年が立っていた。背丈は自分より2、3センチ低い彼は、真っ白な髪に学ランを身に着け、学生鞄を持っていた。
「あら、しげる君!」
「こんにちは、名前さん。今お邪魔してもいい?」
「うん、大丈夫よ!寧ろ大助かりというか……」
名前は後ろのクッキーを思い浮かべながら言うと、しげると呼ばれた少年はふーん、と部屋を覗き込んだ。
「いい匂いするね」
「クッキー作りすぎちゃって。良かったら食べる?」
「うん、食べたい。それじゃあ、お邪魔します」
しげるは靴を脱いで綺麗に揃えると、名前の部屋に上がる。彼はご近所の赤木家の息子の一人だ。ひょんな事から仲良くなり、時々こうして家に遊びに来る。
「今コーヒーいれるね、ミルクいる?」
「うん、ほしいな」
しげるは学生鞄を置くと座布団の上に座った。ふとつけっぱなしになっているテレビを見て、画面に映る街中で仮装している人々を眺めていた。
テレビの右上のテロップには「ハロウィン大盛況!」と表示されてきる。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、いただきます」
机の上に置かれたコーヒー牛乳とクッキーをしげるは食べていく。「美味しいよ、名前さんの作ったクッキー」と言われれば、頬が綻んでしまう。
そんな様子を名前は見守りつつ、テレビに目を向けるとハロウィン特集がやっていた。
「ハロウィンだね〜、ふふっ、みんな仮装して楽しそう」
カボチャの被り物やお化け、狼男やミイラ、魔女に吸血鬼、フランケンシュタインなどの仮装をした人々が街中を歩き、それぞれ楽しんでいる映像を見ながら名前は言う。
「名前さんは仮装しないの?」
「いやぁ、私はいいかな。こうやってお菓子作る方が性に合ってるし」
「ふーん、仮装した事は?」
「去年はしたけど……そんな大した仮装じゃないよ?赤ずきんの仮装して、お菓子を子供達に配っただけだし」
ホットコーヒーを一口飲んで、名前はスマホを取り出す。
「去年のハロウィンの写真は……あった、これこれ」
そう言ってしげるに去年のハロウィンで友人達と共に撮影した写真を見せる。名前は赤ずきんの格好をして、左端でピースをしていた。
その写真をしげるはじっと見つめると、顔を上げて名前を見て言う。
「……名前さん、この服持ってる?」
「うん、まだあるよ」
「これ着てよ、今」
「え、えぇ〜……急だなぁ」
ハロウィンっぽい場や空気ではないこの部屋で赤ずきんの仮装をするのは何だか場違いな気がして、名前は少々抵抗意識を見せる。
すると、しげるが少し俯き、そっか…と呟くとしおらしい態度になった。どうしたものかと名前が小首を傾げると、彼はぽつぽつと話し始める。
「……親父も兄貴もあんまり家に帰ってこないからさ、ハロウィンみたいなのってした事なくて」
「うぅっ……!」
13歳の子供にそんな事を言われてしまうと、大人の名前は良心が痛む。
「ねえ、頼むよ……名前さん」
黒い大きなつぶらな瞳で見つめられ、そんなふうにお願いされてしまえば、名前はあっという間に陥落した。
「うん、いいよ。でも今日だけだからね?」
「やった、ありがとう」
「ちょっと着替えてくるから待っててね」
「うん、分かった」
名前はクローゼットから去年着た赤ずきんの衣装を出すと、それを持って脱衣所で着替える。
「しげる君、着たよ」
おずおずと脱衣所から出てくる名前を、しげるはおぉ…と感嘆の声をあげて見つめた。
「へぇー、ふぅーん」
名前の周りをくるくると、小動物のように回ってしげるは見る。
白いワンピースの裾や袖にはフリルがあしらわれており、黒いコルセットが白いワンピースとコントラストになっている。
そして真っ赤なずきんも可愛らしいデザインとなっていて、前にリボンが着いている。
「フフ、いいね、ハロウィンみたいだ」
「魔女とかお化けの方がハロウィンっぽいと思うけど……」
「ありがとう、名前さん、着てくれて嬉しいよ」
「そ、そう?喜んでくれたのなら良かった。さて、じゃあ私着替えてくるね」
着替えに行こうとしたその時、しげるの手が名前を阻止する。
「今日、俺が帰るまでそのままでいてよ」
「え、えぇー!?さ、流石に恥ずかしいよ……」
「俺しかいないんだからさ、いいでしょ?」
しげるがするりと猫のように近づいてくると、名前の体に抱きついた。
「あ、し、しげる君……!?」
動揺と驚き、そして羞恥で顔を赤くする名前を見て、しげるはクスリと微笑む。
──なるほど、これは狼に食べられちまうな。
名前を見つめながら思い、ペロリと自分の唇を舐める。このまま食ってしまおうと唇を寄せたその時だった。
ピンポン、と無機質なチャイムの音がアパートに響く。名前は動揺しつつも返事をすると、しげるの腕を振りほどいてそのままの格好で玄関へと向かった。
「はい?何でしょうか?」
ドアを開けると、そこには白髪の男性が二人。
一人は少年のしげるを青年にしたような容姿で、作業着と帽子を身につけている。
もう一人はその青年が歳をとったらこうなるであろう容姿で、派手なスーツを着た中年男性が並んで立っていた。
「アカギさん、しげるさん!」
「やあ、名前。仕事終わって暇だったから来たよ」
「よお名前、俺はフラフラしてたらこいつと鉢合わせてついてきたんだがよ……何だその格好」
しげるさんに指摘され、名前は自分の格好を視線を下げて見やると、あたふたと慌て出す。
「ち、違うんですっ!これは、その──」
「名前さん、そんな奴ら放っておいて俺とハロウィンしてよ」
そう声をかけてきたのはしげるで、名前の腕を抱きしめ、甘えるような仕草で言う。
「こ、こら、そんな奴らとか言わないの」
「ほぉー、二人だけでハロウィンねぇ……俺達も混ぜてくれや」
「ククク、お邪魔してもいいかな、名前さん」
「はい、どうぞ。クッキーありますから良かったら召し上がってください。今、コーヒーいれますね」
二人の赤木しげるを招き入れると、名前の腕に抱きついていたしげるは二人をじっと睨みつけた。
白髪の三人は腰を落ち着け、卓上に置いてあるクッキーの入った籠に手を伸ばし、軽い咀嚼音を立てて食べていく。
「チッ、邪魔が入ったな」
そう言って毒づくのはしげる。
「ガキに抜け駆けさせるわけねえだろ」
反論するのはアカギで、その隣で赤木がクツクツと笑う。
「若ぇなあ、お前らは。しかし、そんなにガッつくと嫌われちまうぜ?」
──取られそうになったら一番手段を選ばないクセに。
としげるとアカギは赤木を見て思うのだった。
「はい、アカギさん、しげるさん、どうぞ」
戻ってきた名前は二人の前にマグカップを置いた。コーヒーの柔らかく、濃い香りが部屋に漂う。
「ありがとう、名前」
「おう、いただくぜ」
名前はニッコリ笑うとしげるの隣に座り、またクッキーを頬張る。
しばらく互いにコーヒーを飲みながら雑談をしていると、赤木が尋ねてきた。
「そう言えば名前、その服は何処で買ったんだ?」
「ああ、これは通販で買ったんです。去年の街のハロウィンイベント用に」
「なるほどねぇ……通販ってのはこういうのも売ってるのか、ほぉ〜」
そう言うと赤木はふと笑って言った。
「来年は俺達も何か仮装してみようかね」
「「え゛っ……?」」
しげるとアカギはありえない、とでも言いたげに赤木を見て、同じタイミングで声を発する。
「いいですね!しげるさんっ!皆さんの仮装、私も見たいです!」
それに対して名前は目を輝かせて言うと、だろ?と赤木は微笑んだ。
「まあ、今回は気の利いた仮装はねえが……」
赤木は名前の隣に移動すると、頬に手を伸ばしてこちらを向かせると、視線がかち合う。
「ま、狼男ってとこかね」
「し、しげるさん……?」
「ククク、名前さん、そう易々と男を部屋に入れちゃあダメじゃない」
後ろから抱きしめて、耳元でそう囁くのはアカギ。
「男はみんな、狼なんだからさ」
反対の腕に抱きついてきて、首筋に軽くキスをするのはしげるで、名前は身動きが取れなくなってしまう。
「あ……」
「「「それじゃ、いただきます」」」
三人の白い狼が名前に襲いかかろうとしたその時だった──。
「うわぁああああーーっ!?」
ガバッと上体を起こし、名前は目を覚ました。
辺りを見渡すと見慣れた部屋が広がっており、先程まで見ていた夢の事はすっかり忘れてたしまっていた。
「なんか、凄い夢を見た気がする……」
片手で顔を覆い、名前はため息をひとつ。時刻を見ると11時で、寝すぎてしまったと自己嫌悪に陥り、またため息をつく。
この時間に起きてしまっては外に出る気力もなく、家で過ごそうと思い名前は何をしようか思案した。
「お菓子でも作ろうかな、クッキーとかいいかも」
冷蔵庫を開くと、クッキーの材料は揃っている。鼻歌を軽快に歌いながら、名前は材料をキッチンの上に揃えていく。
ふとカレンダーに目をやると、今日がハロウィンだった事を思いだした。
「ハロウィンか、丁度いいかも」
名前はカレンダーを見て微笑むのであった。
その頃、赤木しげる達は思っていた。
一人は学校で、もう一人は勤めている工場で、もう一人は麻雀の代打ちの休憩中に。
今日は、名前の家に行こうと。
小さなアパートに、三匹の狼が近づいている事を、まだ名前は知らない。
そんな中、ささやかに一人暮らしを送るこの小さなアパートで、名前は大量に作ってしまったクッキーを見て、困り果てていた。
「……作りすぎた」
そう独りごつ。さて、どうしたものかと悩んでいると、本日がハロウィンである事を思い出した名前は、ご近所にでも配ろうかと思案した時、インターホンが鳴り響いた。
「はーい」
ドアを開けると、そこには一人の少年が立っていた。背丈は自分より2、3センチ低い彼は、真っ白な髪に学ランを身に着け、学生鞄を持っていた。
「あら、しげる君!」
「こんにちは、名前さん。今お邪魔してもいい?」
「うん、大丈夫よ!寧ろ大助かりというか……」
名前は後ろのクッキーを思い浮かべながら言うと、しげると呼ばれた少年はふーん、と部屋を覗き込んだ。
「いい匂いするね」
「クッキー作りすぎちゃって。良かったら食べる?」
「うん、食べたい。それじゃあ、お邪魔します」
しげるは靴を脱いで綺麗に揃えると、名前の部屋に上がる。彼はご近所の赤木家の息子の一人だ。ひょんな事から仲良くなり、時々こうして家に遊びに来る。
「今コーヒーいれるね、ミルクいる?」
「うん、ほしいな」
しげるは学生鞄を置くと座布団の上に座った。ふとつけっぱなしになっているテレビを見て、画面に映る街中で仮装している人々を眺めていた。
テレビの右上のテロップには「ハロウィン大盛況!」と表示されてきる。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、いただきます」
机の上に置かれたコーヒー牛乳とクッキーをしげるは食べていく。「美味しいよ、名前さんの作ったクッキー」と言われれば、頬が綻んでしまう。
そんな様子を名前は見守りつつ、テレビに目を向けるとハロウィン特集がやっていた。
「ハロウィンだね〜、ふふっ、みんな仮装して楽しそう」
カボチャの被り物やお化け、狼男やミイラ、魔女に吸血鬼、フランケンシュタインなどの仮装をした人々が街中を歩き、それぞれ楽しんでいる映像を見ながら名前は言う。
「名前さんは仮装しないの?」
「いやぁ、私はいいかな。こうやってお菓子作る方が性に合ってるし」
「ふーん、仮装した事は?」
「去年はしたけど……そんな大した仮装じゃないよ?赤ずきんの仮装して、お菓子を子供達に配っただけだし」
ホットコーヒーを一口飲んで、名前はスマホを取り出す。
「去年のハロウィンの写真は……あった、これこれ」
そう言ってしげるに去年のハロウィンで友人達と共に撮影した写真を見せる。名前は赤ずきんの格好をして、左端でピースをしていた。
その写真をしげるはじっと見つめると、顔を上げて名前を見て言う。
「……名前さん、この服持ってる?」
「うん、まだあるよ」
「これ着てよ、今」
「え、えぇ〜……急だなぁ」
ハロウィンっぽい場や空気ではないこの部屋で赤ずきんの仮装をするのは何だか場違いな気がして、名前は少々抵抗意識を見せる。
すると、しげるが少し俯き、そっか…と呟くとしおらしい態度になった。どうしたものかと名前が小首を傾げると、彼はぽつぽつと話し始める。
「……親父も兄貴もあんまり家に帰ってこないからさ、ハロウィンみたいなのってした事なくて」
「うぅっ……!」
13歳の子供にそんな事を言われてしまうと、大人の名前は良心が痛む。
「ねえ、頼むよ……名前さん」
黒い大きなつぶらな瞳で見つめられ、そんなふうにお願いされてしまえば、名前はあっという間に陥落した。
「うん、いいよ。でも今日だけだからね?」
「やった、ありがとう」
「ちょっと着替えてくるから待っててね」
「うん、分かった」
名前はクローゼットから去年着た赤ずきんの衣装を出すと、それを持って脱衣所で着替える。
「しげる君、着たよ」
おずおずと脱衣所から出てくる名前を、しげるはおぉ…と感嘆の声をあげて見つめた。
「へぇー、ふぅーん」
名前の周りをくるくると、小動物のように回ってしげるは見る。
白いワンピースの裾や袖にはフリルがあしらわれており、黒いコルセットが白いワンピースとコントラストになっている。
そして真っ赤なずきんも可愛らしいデザインとなっていて、前にリボンが着いている。
「フフ、いいね、ハロウィンみたいだ」
「魔女とかお化けの方がハロウィンっぽいと思うけど……」
「ありがとう、名前さん、着てくれて嬉しいよ」
「そ、そう?喜んでくれたのなら良かった。さて、じゃあ私着替えてくるね」
着替えに行こうとしたその時、しげるの手が名前を阻止する。
「今日、俺が帰るまでそのままでいてよ」
「え、えぇー!?さ、流石に恥ずかしいよ……」
「俺しかいないんだからさ、いいでしょ?」
しげるがするりと猫のように近づいてくると、名前の体に抱きついた。
「あ、し、しげる君……!?」
動揺と驚き、そして羞恥で顔を赤くする名前を見て、しげるはクスリと微笑む。
──なるほど、これは狼に食べられちまうな。
名前を見つめながら思い、ペロリと自分の唇を舐める。このまま食ってしまおうと唇を寄せたその時だった。
ピンポン、と無機質なチャイムの音がアパートに響く。名前は動揺しつつも返事をすると、しげるの腕を振りほどいてそのままの格好で玄関へと向かった。
「はい?何でしょうか?」
ドアを開けると、そこには白髪の男性が二人。
一人は少年のしげるを青年にしたような容姿で、作業着と帽子を身につけている。
もう一人はその青年が歳をとったらこうなるであろう容姿で、派手なスーツを着た中年男性が並んで立っていた。
「アカギさん、しげるさん!」
「やあ、名前。仕事終わって暇だったから来たよ」
「よお名前、俺はフラフラしてたらこいつと鉢合わせてついてきたんだがよ……何だその格好」
しげるさんに指摘され、名前は自分の格好を視線を下げて見やると、あたふたと慌て出す。
「ち、違うんですっ!これは、その──」
「名前さん、そんな奴ら放っておいて俺とハロウィンしてよ」
そう声をかけてきたのはしげるで、名前の腕を抱きしめ、甘えるような仕草で言う。
「こ、こら、そんな奴らとか言わないの」
「ほぉー、二人だけでハロウィンねぇ……俺達も混ぜてくれや」
「ククク、お邪魔してもいいかな、名前さん」
「はい、どうぞ。クッキーありますから良かったら召し上がってください。今、コーヒーいれますね」
二人の赤木しげるを招き入れると、名前の腕に抱きついていたしげるは二人をじっと睨みつけた。
白髪の三人は腰を落ち着け、卓上に置いてあるクッキーの入った籠に手を伸ばし、軽い咀嚼音を立てて食べていく。
「チッ、邪魔が入ったな」
そう言って毒づくのはしげる。
「ガキに抜け駆けさせるわけねえだろ」
反論するのはアカギで、その隣で赤木がクツクツと笑う。
「若ぇなあ、お前らは。しかし、そんなにガッつくと嫌われちまうぜ?」
──取られそうになったら一番手段を選ばないクセに。
としげるとアカギは赤木を見て思うのだった。
「はい、アカギさん、しげるさん、どうぞ」
戻ってきた名前は二人の前にマグカップを置いた。コーヒーの柔らかく、濃い香りが部屋に漂う。
「ありがとう、名前」
「おう、いただくぜ」
名前はニッコリ笑うとしげるの隣に座り、またクッキーを頬張る。
しばらく互いにコーヒーを飲みながら雑談をしていると、赤木が尋ねてきた。
「そう言えば名前、その服は何処で買ったんだ?」
「ああ、これは通販で買ったんです。去年の街のハロウィンイベント用に」
「なるほどねぇ……通販ってのはこういうのも売ってるのか、ほぉ〜」
そう言うと赤木はふと笑って言った。
「来年は俺達も何か仮装してみようかね」
「「え゛っ……?」」
しげるとアカギはありえない、とでも言いたげに赤木を見て、同じタイミングで声を発する。
「いいですね!しげるさんっ!皆さんの仮装、私も見たいです!」
それに対して名前は目を輝かせて言うと、だろ?と赤木は微笑んだ。
「まあ、今回は気の利いた仮装はねえが……」
赤木は名前の隣に移動すると、頬に手を伸ばしてこちらを向かせると、視線がかち合う。
「ま、狼男ってとこかね」
「し、しげるさん……?」
「ククク、名前さん、そう易々と男を部屋に入れちゃあダメじゃない」
後ろから抱きしめて、耳元でそう囁くのはアカギ。
「男はみんな、狼なんだからさ」
反対の腕に抱きついてきて、首筋に軽くキスをするのはしげるで、名前は身動きが取れなくなってしまう。
「あ……」
「「「それじゃ、いただきます」」」
三人の白い狼が名前に襲いかかろうとしたその時だった──。
「うわぁああああーーっ!?」
ガバッと上体を起こし、名前は目を覚ました。
辺りを見渡すと見慣れた部屋が広がっており、先程まで見ていた夢の事はすっかり忘れてたしまっていた。
「なんか、凄い夢を見た気がする……」
片手で顔を覆い、名前はため息をひとつ。時刻を見ると11時で、寝すぎてしまったと自己嫌悪に陥り、またため息をつく。
この時間に起きてしまっては外に出る気力もなく、家で過ごそうと思い名前は何をしようか思案した。
「お菓子でも作ろうかな、クッキーとかいいかも」
冷蔵庫を開くと、クッキーの材料は揃っている。鼻歌を軽快に歌いながら、名前は材料をキッチンの上に揃えていく。
ふとカレンダーに目をやると、今日がハロウィンだった事を思いだした。
「ハロウィンか、丁度いいかも」
名前はカレンダーを見て微笑むのであった。
その頃、赤木しげる達は思っていた。
一人は学校で、もう一人は勤めている工場で、もう一人は麻雀の代打ちの休憩中に。
今日は、名前の家に行こうと。
小さなアパートに、三匹の狼が近づいている事を、まだ名前は知らない。