天女戦記

 次の日、他の先生にもなにか手伝うことはないかと聞いて回ったが、曖昧な返事ばかり。きっと、天女のこともあり、外部から来た女性を警戒しているのは間違いない。
 
 それなら天女のことでも調べてみるか。

「ごちそうさまでした」
「あら、若い事務員さん」

 若い? 嬉しいわ。いや喜んでいる場合じゃないね。

「学園長先生から聞いているわ、依頼できてくれたお手伝いさんだって」

 声をかけてきたのは、食堂で働いてた中年の女性だった。
 学園長先生はそう通してあるのか……、なるほど。

「はい、忍術学園についてまだ知らないことばかりですが、どうぞよろしくお願いします」
「あらあら礼儀正しい子ね。私は食堂のおばちゃんよ、なにかわからないことがあったら遠慮せずに聞いてちょうだいね」

 おばちゃんが名前なのだろうか、忍たまの子たちもそうよんでたし、私もおばちゃん呼びをするべきかな……。

「わかりました、ところでいまからお出かけですか」
「そうなのよ。これから市場に食材を買いに行くんだけど、今日の献立はどうしようかと思ってねぇ……。最近は上級生がいないからお肉を食べることが少なくなって……」

 おばちゃんの悩みを耳にして、何か力になれないかと思った。
 猪なら、私も獲れるかもしれない。
 やってみたことは、ある。獣の絞め方もわかる、大丈夫だろう。
 問題は山の地形に詳しくないので猪のいるポイントがわからないので、獲れる確証がないということだ。

 このことを、食堂のおばちゃんに伝えた。

「そうねぇ、じゃあ一緒に来てくれる? 私は町に行くけど、あなたは山で猪をお願いできるかしら。もし獲れなかったとしても、他の食材もあるし大丈夫だからね」

「わかりました。それでは夜までには戻りますね」

**

 外出届を書き、忍び服から汚れてもいい小袴に着替えた。
 そうしておばちゃんと私はそれぞれ別の場所へと向かうことにした。
 おばちゃんが町の八百屋さんに行き食材を仕入れている間、私は忍術学園の裏山で動物を探す ことにした。
 今のところ他の動物には出会っていないけれど……。もしかしたらもうこの山にはいないのかな、でも一応探してみようかな……。
 しばらく歩いていると茂みの中からガサガサと音がした。

「あっ、すみませーん!」

 まさかの子供だ。こんなところで何をしているんだろう。迷子かな? それとも忍術学園の生徒?

「あのー、事務員さんですか?」

 その子供は私に対して敬語で話しかけてきた。

「えっ? あ、うんそうだよー」

 事務員と言われ慣れてないものだから、声が裏返ってしまった。
「僕一年は組の皆本金吾です。今日は体育委員会で裏々山に来ていたんですけど色々あって……」

「はじめまして、上杉紗季です。色々ってどんなこと? 」
「実は、次屋先輩がどこかへ走り去ってしまって、時友先輩と探しているんですけど見つからなくて」
「僕も体育委員会で、二年は組の時友四郎兵衛です」

「そうだったの。なら一緒に探しましょうか」

「本当ですか? あ、ありがとうございます」

 金吾君は満面の笑みを浮かべる。
 獲物はあとからでも見つかるだろう。おばちゃんも獲れたら、とおっしゃっていたしその言葉に甘えさせていただこう。
 それよりも生徒の安全が第一優先だ。変な輩に絡まれていないといいけど……。



 三人で次屋三之助君を探しに行けばすぐに見つかるかと思ったけれど、なかなか見つからないものだ。

「あっ! いた!」

 金吾君が指をさした。なにやらこちらへ走ってくる。しかも野生のイノシシを引き連れて。

「次屋先輩! やっと見つけた! もう勝手に行動しないで下さい!」

 金吾くんは安心した表情で、次屋くんに話しかけた。

「す、すまない……」

「金吾、危ない!!」
 四郎兵衛くんが叫ぶ。

 方向を変え、イノシシは金吾君の方に向かって突進してきた。私はすぐに金吾君の腕を掴み、抱き寄せながら受け身を取り、イノシシの猛進を間一髪のところで避ける。

 あっぶなぁ、急に方向を変えてくるなんて……。

「大丈夫そう?」
「は、はい……」

 金吾くんに怪我がないのを確認してからイノシシの方に向き直るや、にやりと笑ってみせる。
 獲物が自分から来てくれなんて、好都合だ。
 イノシシは牙を鳴らし威嚇している。どうやら怒らせちゃったみたい。

 猪の頭蓋骨めがけて、手裏剣を2本放つ。手裏剣のひとつは猪の前足をかすめ、猪はバランスを崩した。
 隙を逃さず、猪の鼻目掛けて踵を思い切りおろす。すると、猪は横に倒れピクリとも動かなくなった。無事に気絶したことを確認し私はすかさず、私は胸から忍び刀を取り、鞘から引き抜く。


 猪には申し訳ないが、心臓をめがけて深く刀を押し込み、絶命させた。
 あまり苦しませず、止め刺しができたと思い一息つく。イノシシの体からはいまだに赤い鮮血が土の上に流れる。

「大丈夫ですか」

金吾くんと四郎兵衛くんが心配そうな面持ちで尋ねる。

「大丈夫だよ、二人とも怪我がなくて良かった」

 そういい、微笑みかけた。
 四郎兵衛くんは安堵して胸を撫で下ろすが、金吾くんはまだ不安げな表情だった。

 なにがそんなに不安なんだろう……。
 そう思い、自分の姿を見るとその理由が分かった。服には猪の血が飛び散っったみたいでまるで私が血を流してるみたいだ。
 自身のおなかをトントンと軽く叩き、出血はしていないことを伝えると金吾君の顔に笑みが戻った。

 イノシシの血抜きをしなければと、四郎兵衛くんから紐をもらい、次屋くんに手伝ってもらいながら猪の手足を縛り木に吊す。金吾くんが近くの川を見つけてきてくれ、案内してくれ、猪を洗う。その後、刀に着いた血を振り払い鞘に戻した。猪は木を切ってぶら下げたまま学園まで運ぶことにした。

 学園では猪は貴重なたんぱく源だそうだ。なら、この肉をおばちゃんに渡せばきっと喜んでくれるはず。イノシシは重たいけれど、三人と一緒に持ち運べない重さでもない。

「あの……、上杉さん。僕たちを助けてくれてありがとうございました」

 次屋三之助君が申し訳なさそうに言う。三之助くんの脇にはロープがまかれていてそれを四郎兵衛くんが持っている。まぁ、それが三之助の個性だろう。

「いや、お礼はいいよ。当然のことをしたまでだし。じつは食堂のおばちゃんに狩りを頼まれてたところだったから、むしろみんなが手伝ってくれて助かったよ」
「それはそうと女性ながら、まるで七松先輩のような蹴りと、滝夜叉丸先輩のような的確な投擲技術……すごいです!」
「えっ? そ、そうかなぁ。照れるなー」

 金吾くんはやや興奮美味で話し始める。

 なんでも、七松先輩というのが人間離れした体力と身体能力がずば抜けているらしい。また、罠や山の地形にもとても詳しいらしい。三人曰く委員会活動中のマラソンは七松先輩について行くだけでも必死らしい。

 一方の滝夜叉丸先輩は、次屋くんは自慢話が長いのであまり好きではないという。けど勉学の成績もよく、戦輪での武道大会優勝経験もあるので、尊敬はしているという。

「立派な先輩がいるのね、一度会ってみたいものだわ」

どんな先輩か、ほんとは、手裏剣をふたつを投げたのに、一つはどこかへ紛失してしまったことを話していたら、あっという間に学園に着いた。

 「あ! 紗季さん、お帰りなさーい……って、どうしたんですかそれ!?」

 猪を持ち帰ったら小松田君に驚かれてしまったので、兎も角事情を説明する。
 はやく血の付いた着物を脱ぎたい。他の人にもどんな反応されるだろうか。早く解体して着替えないと。
 猪を食堂の勝手口まで運んでもらったところで、三人とは別れた。

 食堂の勝手口から顔を覗かせると、おばちゃんがお帰りなさいと出迎えてくれた。

「どうだった?」
「無事に獲れましたよ、ちゃんと血抜きもしましたから。あとは解体していくだけです」
「そう! ありがとう。これで今日の夕飯は猪鍋にできるわね!」

 おばちゃんは鼻歌を歌いながら、私の解体したものを台所へ運び鍋に入れていく。
 
 ふぅ、ひとまず解体はこれで終わりかな。
 毛皮は……、まぁ何かしら使うと思うしここに干させてもらおう。
 勝手口の地面に座り水を飲んでいると、おばちゃんから声を掛けられる。

「紗季ちゃん、泥だらけで疲れたでしょう先に着替えてきたらどうかしら?」

 たしかに、この泥だらけ血まみれの状態じゃ食堂の中にも入れりゃしない。
 お言葉に甘えて身なりを綺麗ににすることにし、着物を脱ぐため部屋へ向かう。部屋に着いたらすぐに新しいものに着替えた。
 しかし、新しい衣類にしても髪に血生臭いにおいがついている。きれいになったという気分にはなれない。

 仕方ない、今の時間ならあんまり忍たまもいないだろうとお風呂を先に借りることにした。

 水を汲み上げ、頭からかける。冷たくて体が震えるが血を流すためだ……。
 髪の毛についた血もすべて洗い落とし、今度は体を洗うことにした。さすがに今度はお湯であらう。

「ふぅ……」

 肩までつかると何とも言えない声が出る。
 ああ、気持ちが良い……。疲れが取れるわ……。
 しばらくつかっていると、ちょっとのぼせそうになる。そろそろ上がろう。
 私は湯船から上がり、脱衣所へと向かった。

 新しい着物に袖を通し、髪を拭きながら食堂へと向かう。
 食堂ではおばちゃんが、猪鍋をよそってくれており、食堂には食事中の忍たまたちがいた。

「紗季ちゃん、ちょうど良かった! もうできるわよ」
「はーい」と返事して、食卓の席に着く。いただきますと猪に感謝し食べ始めた。

 猪鍋は野菜もゴロゴロはいっている。肉を噛むほど塩味がいい塩梅で口の中に広がる。体を良く動かしたからだろうか。
 私は夢中になって食べていた。

 ごちそうさま、と食堂を出ていこうとしたとき。食堂のおばちゃんの「まだかしら?」という声が聞こえてきた。

「紗季ちゃん、猪獲りしてもらって疲れてるところ、申し訳ないんだけど、これを医務室に持って行ってほしいの」

 渡されたのはお盆に乗った四つのうどんだった。

「保健委員会の夜食なんだけど、いつになってもこなくって……お願いできるかしら」
「はい、わかりました。おばちゃん、おやすみなさい」

 私は食事の片づけを済ませ、うどんをもって医務室に向かう。
 廊下を歩いていると、窓から見える満月があたりを照らす。ああ、今日は月がきれいだなぁ……。
 医務室についたら電気がついており、人の気配がする。しかし、話し声はしない。もしかして留守? いや、でも人の気配はあるわ……。
 私は医務室の戸を開けることにした。
 戸を開けると中から、薬の香りが充満していた。

「失礼します、夜分遅くにごめんなさい。事務員の上杉紗季です、食堂のおばちゃんから頼まれて……。うどんをもってきたんですが」
 
 医務室の中は大きな薬品棚が並んでおり、床には包帯や薬に使うのだろうか、草が散らばっている。

「あ、ありがとうございます。そこに置いといてください」

 私は頼まれた通り、医務室の戸の近くにうどんを置く。
 医務室を後にしようとした。しかし、疲れている忍たまをほっておけず、声をかけてしまった。

「あの、お疲れですか?」

 私の声に反応して、忍たまはゆっくりこちらを向く。そして、私と目があった。
 目の下には大きな隈ができており、まるで死人のような顔をしていたからだ。うどんと一緒に持ってきた鉄器にはお湯が入っているので、そのお湯を持っていた手ぬぐいで蒸しタオルを作る。

 こんなになるまでどうして……。
 ため息をつきたくなった。
 大方でも徹夜していたのだろう。

「あ、あの……?」

 いきなり入ってきた私にびっくりしているだろう。忍たまは目を大きくして私を見た。
 急に蒸しタオル作り始めたから、急にごめんね。

 手ぬぐいを目元におくように言う。忍たまは私の顔と手ぬぐいを見比べていた。

「それ、温かいでしょ、目元にあてると疲れが取れるから」
「ありがとうございます……」

 蒸しタオルを忍たまの目にあてる。そして、部屋の畳に横になるよう促す。けれど、まだ作業を続けたいそうだ。では、交代して休んではどうかと伝えると先に一年生の忍たま二人が仮眠をとることになった。
 どうやら、素直でいい子たちのようだ。

 本当に疲れていたんだ……。そうしているうちに眠ってしまったのか、規則正しい呼吸音が聞こえるようになった……。 眠っているのを確認し、起こさないようにそっと手ぬぐいをはずす。
 なんとも、気持ちよさそうな顔で寝ていたのでこちらも顔が緩んでしまいそう。

「あなたたちも、おいで。お名前はなんていうのかな」
「二年い組の川西 左近です」
「三年は組、三反田 数馬です上杉紗季さんのことは孫兵からお聞きしています」
「孫兵くんから?」
「はい、優しい方だとおっしゃってました」

 あら、数馬くんからあまり警戒されてなかったのは孫兵くんのおかげだったのかぁ。
 もう一人の左近くんは、じっと私のことを見ていた。

「あの……すみませんが、数馬先輩」
 次に、左近くんは私ではなく、数馬くんをじとりと見る。

「左近どうした?」
「なんで、数馬先輩はそんなににこにこしているんですか?」
左近くんの言葉に、数馬くんは笑顔で答える。だって、と言葉をつづけた。
私は気になり二人の会話に耳を傾けた。

「こんなに優しい事務員さんなんだよ。優しそうだし……」
「よくないですよ! この人が伊賀崎先輩をたぶらかしたかもしれないんですよ!?」

 左近くんがものすごい勢いで私のほうを向くと、怒りの形相でにらんでくる。
 そんな左近くんを止めるため数馬くんは彼の背中をたたいた。

「左近、いいすぎだよ。天女の鈴蘭さんと違って学園長先生の依頼で来られたんだ。それに三年生で確認したんだ。学園長先生の依頼というのも事実だ」

「それならいいですけど……すみません」

 数馬くんが後輩の左近君をなだめていた。

「いいのよ、学園長先生からも天女さんのことは伺っているし、皆が疑心暗鬼になるのも仕方ないわね」
 
 私はにっこり笑って、数馬くんたちにうどんのお盆を渡した。
 左近くんは照れくさそうに頬を掻く。でも、やっぱりまだ警戒している様子だ。

「左近くん、疑ってくれても構わないよ。でも、私はここにいる皆と協力して学園のために頑張りたいと思っている。だから、何かあれば遠慮せずに話してね。信じてくれるかは君たち次第だし、疑うというのは、忍者に向いているね」

  私は真剣な表情で左近くんに語りかけた。しかし、それでも彼は信じられないようで戸惑っている。
 小さく息をつく。そして、彼に近づいて頭を優しく撫でた。
 すると、ビクッと身体が跳ねた。彼も警戒しているのだ。その様子が、彼には申し訳ないが、なんともかわいらしい。

「それにしても、すごい薬の量ね、今日中に終わりそうには見えないけど……」
「はい、なかなか僕たちじゃ終わらなくて……。ですが保健委員会の委員長であられる善法寺伊作先輩は、薬の調合を覚えていらっしゃって、この量ならすぐに作ってしまわれます」
 
 数馬くんが自慢げに話す。

 伊作くん、すごい子ね……。

「へぇ、すごいね」
「はい! それに善法寺伊作先輩はとてもお優しい方です」

 左近くんは誇らしげに言う。そして、そのあとはというと……。

「でも、不運な方で!」
「はい、薬をこぼしてしまったり」
「よく穴に落ちてしまうんです」

 などと伊作くんの話題ばかり……。
 というか不運な方って……。
 一方数馬くんのほうはというと、左近くんのおしゃべりに苦笑いしている。伊作くんに対しての不満はないのかと聞いてみた。すると……。

「いえ! 保健委員会に入ってよかったと思います。不運大魔王と呼ばれている、善法寺伊作先輩ですが、それでも僕たちのためにいろいろ気にかけてくださるんですよ」

 数馬くんは嬉しそうに言う。伊作くんの優しさは数馬くんや左近くんが一番分かっているのだ。

「そっか、伊作くんのことは分かったよ、でも不運ってどういうこと?」

 私が首をかしげると数馬くんと左近くんは顔を見合わせる。そして、まず左近くんが口を開いた。

「えっと……善法寺先輩は学園一の不運で有名で……」
「いろいろな事件に首をつっこみますよね、タソガレドキの忍者が現れた時は肝を冷やしました」

 それに続き数馬くんも苦笑いをしながらいう。二人は学園に伊作くんがきてからの出来事を事細かに教えてくれた。

「……早く帰ってきてほしいです」

 数馬くんは、口元は笑ってるが目は悲しそうであった。左近くんも唇を噛みうつむいてしまった。
 話を聞くと、天女と一緒について行ってしまった伊作先輩は医務室の薬草をいくつか持って行ってしまったらしいので、薬の在庫が足りていないんだそう。それで委員会で作っているというわけだ。

 「左近くんと数馬くんは先輩のことが心配なのね」

 数馬くんと左近くんは一緒に首を縦にふり同意する。
 そんな二人の頭を私はそっとなでる。すると二人は安心したように笑顔を見せた。

「そのうち、会えるよ。私が保証する」
 そういってほほ笑むと二人はお互いの顔を見合わせて喜ぶのだった。

「にしても、薬まだつくるのね……」
「はい、伊作先輩が天女と一緒に出て行かれた際に、いくつか薬や薬草やその他もろもろ持っていかれたので、在庫がないんです」

 ほう、薬草も持っていかれてしまったのか……。だから夜遅くまで作っているわけだ。

「それなら手伝ってもいい? 調合の知識はないけど薬草をすりつぶしたり整理することはできると思うの」

 数馬くんと左近くんは驚きの表情を浮かべ、その後で感謝の表情に変わった。

「それは助かります! でも、今日は猪を獲りに行かれたとか……お疲れではありませんか?」
「気にしないで。みんなが早く寝れる方が大事でしょ」

 私は微笑みながら医務室での薬の調合作業に参加することになった。数馬くんと左近くんは手際よく仕事を進め、私も得意な分野で手伝いながら、和気あいあいとした雰囲気で作業が進んでいった。

 途中一年生二人も起きて、医務室での薬の調合作業は順調に進み、数々の薬が仕上げられた。

 私も手助けできて嬉しかったし、保健委員会の子と協力し合っているうちに、なんだか絆が深まったような気がした。
 
「上杉さん、本当に助かりました。おかげで明日の授業も居眠りしなくて済みそうです。ありがとうございます」

「それは、よかった。はやく寝ましょう」

 医務室の戸を閉めて、みんなはそれぞれの寝床に戻っていった。

 学園内はもう静かな夜。明日も新しい一日が始まる前に、私はほっと一息ついた。学園の様々な問題や課題に立ち向かいながらも、こうして仲間たちとの協力や信頼が築ける瞬間があることは、何よりも価値のあることだと感じた。

 その夜、私は医務室の外で月明かりに照らされながら、改めて学園の一員として、静かな夜の学園に身を委ねた。
 布団を敷いて寝る準備をする。それにしても、今日はなかなか疲れた……。
 私は灯りを消すと、すぐに眠りに入ったのだった。

4/12ページ
スキ