2部 忍術学園での生活

私は今、図書委員会のお手伝いをしている。天女に関する書物が見たいと、お願いしたら成り行きで本の整理をすることになった。なんでも、上級生が図書室をぐちゃぐちゃにしてしまったらしく、まだその整理をしているのだそう。一年生二人と二年生ひとりでは、なかなか終わらないのだそうだ。と恥ずかしがり屋と有名の松千代先生から伺った。

「紗季さん、本の整理お疲れ様です。それで、天女に関する情報は見つかりましたか?」と声をかけたのは能勢久作くんだ。

 図書室の本棚には様々な種類の本が収められており、探すのが一苦労だった。しかし、天女に関する情報が蔵書されている可能性が高いと考え、専門の書籍や歴史関連のものを中心に探していくことにした。

「これは……」と、私は一つの本を手に取った。

 手に取ったのは、天女の羽衣伝説。

 湖で水浴びをしていた天女が人間の男性と出会い、羽衣を返すことで村を救うといった特に変わりのないお話だ。天女に関するお話はこれだけかと正直がっかりだが、ダメもとで探してたのだと気持ちを入れ替える。

「久作君、天女に関するものはないみたい。にしても、本が抜けているねえ」

「はい、兵術や火薬に関する本ばかりがなくなっていて……」
「兵術? 火薬? それは学園長先生にはお伝えしたのかな」

 久作君は横に首を振った。
 どの本がなくなったのかを確認したいと私が言うと、きり丸君、怪士丸君がそれぞれ貸出票のリストを持ってきてくれた。なんだかものすごく嫌な予感がする。

 明らかに戦術に関するものや、外国の高価な本がなくなっている。貸出者のほとんどが上級生だ。

「……価値のある本ばかり消えているね、念のため先生方に報告しといたほうがいいかもしれない」

 久作君は「わかりました」と言い、本の仕分けが終わったからと、報告に行ってしまった。

「きり丸君、怪士丸君お茶にしましょうか。お茶菓子を食堂で用意して待ってるね。久作君にも伝えといてね」

「はーい」
「わかりました……」

 私が立ち上がり、お茶とお茶菓子の準備をするために席を外した。

 食堂の穏やかな雰囲気の中、お茶の時間を過ごしながら、久作君も席に戻ってきた。久作君は急いで報告を終えると、ホッとした笑顔を浮かべた。

「報告してきました。先生方もすぐに調査に入ってくれるそうです。でも、こんなことが学園内で起きているなんて……」

久作君の言葉に、きり丸君と怪士丸君も興味津々な表情を見せた。

「読めない本ばかりなのに、借りる人がいたんすね」

 きり丸君と怪士丸君は一年生。
 それもそうだ、上級生は火器や毒に関する本などを借りて行くが、一年生はまだ借りることも少ないだろうし。そんな下級生の二人の言葉に久作君は返事をした。

「私は皆みたいに実物を見たわけではないけれど、売れば相当なお金になるはず。この日ノ本でお目にかかれる人はいるかどうか……最初から売る目的で持って行ったのかもしれないね」

「お・か・ねー! そんなに高いんですかぁ!?」
「……きり丸落ち着いて……」

 目を銭の形にして、興奮しているきり丸君を「まぁまぁ」と怪士丸君が落ち着かせている。

 私は、お茶のお代わりをすすめると、きり丸君は「ありがとうございまーす」と言って湯呑みのお茶を飲みほした。

「それにしても、図書委員会は大変ね。三人で大変でしょう?」
「いいえと言ったら、嘘になるんですけど、図書委員会は五年生と六年生のお二人の先輩がいるので、普段は心強いです」

きり丸君は自信満々そうに言った。

「図書委員会の委員長を務めていらっしゃる、中在家長次先輩と言います」
「どんな人ですか?」
「寡黙な方で、大きな声は滅多にお聞きしません」
「……言葉が足らなさすぎて、少し怖いですが優しい方です」

「なるほど、寡黙で優しいんですね。そういう人が委員長を務めていると、なおさら頼もしいね」

と私が言うと、微笑みながら、久作君はゆっくりと頷いた。

「もう一人、の先輩は不破雷蔵先輩といって、優秀な先輩です」
「なおかつ、お優しくいつも下級生を助けてくれるのです!」
「……でも、迷い癖があったりと優柔不断な方でもあります」

久作君、怪士丸君、きり丸君がそれぞれ先輩について教えてくれる。
きり丸君と怪士丸君の話からすると、中在家長次と不破雷蔵は
優しく寡黙な先輩である事が伺える。

「紗季さん、忍術学園の外に出られないっていうのは本当ですか」

怪士丸君が声をかけてくる。

「うん、学園長先生からの説明の通りだよ。しばらくは出れないと思う」

「それは、困りました。松千代先生は恥ずかしがり屋なのでいくら委員会のことでも、外出は難しいと思います」

「まぁ、予算がないんですけど」と久作君が付けたした。
「俺も、アルバイトできなくて困ってるんすよね~……」

なるほど、外出ができなくなることによって金銭的にも困る生徒がいるのか。忍術学園で生活をするにしてもお金は必要だからなー。
 
 私はお金を出すことはできる。
けれど、この子たちのためになるかどうか……。

何かいい方法がないかと考えると、忍術学園で不足している資材を自分たちで作って、それを売ればいいのだと思いつく。

「図書委員会で膠にかわを使うことはあるかな」

膠にかわは接着剤みたいなもので、墨を作るにも使われる。以前、猪を狩ったままそのまま干していたのを思い出いだした。

「墨汁で主に使いますね」
「なら、今から作ろうよ」
「え! 膠をですか!?」

「うん、実は先日猪を狩ってね。どうしようか迷っていたからちょうどよかったよ。さぁ、どうする?」

久作君と怪士丸君は私の提案に戸惑いながらも、興奮が隠せない表情を浮かべていた。

「すごく面白そうです!」

と言って、怪士丸君も笑顔を見せた。一方のきり丸君は、なんだか不機嫌そうだ。

「こうやって、何時間も煮込むんだまだ昼前だから煮込むのは今日中に終わるだろう」
「なんで、こんなこと俺たちがしなくちゃならないんですか」

なるほど、確かきり丸君はお金に目がないと乱太郎君が言っていたな。ちょっと、やる気が出そうな言葉でもかけてあげようか。

「きり丸君、こんな大きな猪だよ? できた膠は家財にもよく使われるし、墨だってよく売れると思うんだけどな~、作ってくれたら私が売りにいく」

「本当ですかー!?」ときり丸君は私の言葉に飛びつき、いそいそと火おこしの準備を始めた。怪士丸君もきり丸君を手伝って木をくべている。その様子を見て久作君は申し訳なさそうに私の近くに寄ってきた。

「あの、紗季さんが折角、狩ってきたのに僕たち図書委員会が使ってもいいんでしょうか?」

「ん? あぁ、他の委員会にも墨や膠をおすそ分けすればいいと思うよ。それ以外は三人のお小遣いにでもしなさいな。主に作るの三人なんだし」

本当はイノシシの血抜きを手伝ってくれた体育委員会にあげたいところだけれど、いらないと言われてしまったからなぁ。

適材適所、必要な委員会で使ってもらってもらった方が私としては嬉しい。

「そういえば、三人とも無理やり引っ張ってきてしまったけれど、今日の授業は自習だったのになんだか申し訳ないね」

久作君が言葉を返す前に、きり丸君がテンション高く言った。

「大丈夫です! 逆に感謝してます!」

怪士丸君も微笑んで「それに、こういう経験って大事だよね。授業よりも実践的で面白いし」と言った。

「それなら良かった。じゃあ、みんなで力を合わせて素敵な墨や膠を作り上げよう!」と私は笑顔で言い、一同は手分けして仕事を進めることにした。

「骨と皮と水を鍋に入れて、そのまま火にかけて沸騰させる。灰汁が出なくなったら火を弱くして時間をかけて煮込むよ。終わったら、煮込んだお湯を布で濾して適当な容器に入れたら完成だよ」

大きな鍋の中で、イノシシの骨と皮がじわじわと煮えていく様子が、静寂な中に心地よい音を響かせていた。だけど、臭いはお世辞にもいいとは言えない。髪の毛に臭いもついてしまうだろう。

 獣臭がすごい……我慢だ。

 炎が鍋の下に灯り、その周りに舞い上がる湯気が目をくすぐりながら、きり丸君が慎重に火加減を調整している。怪士丸君は丁寧に木をくべ、久作君も少しずつ手慣れてきた様子で灰汁とりを手伝っている。

「そろそろ、火を弱くしようか。ここからは灰汁を取る必要がないから交代して休んでいようか」

お互いに休息を取り合ったり、図書当番をしている。私もちょくちょく様子を見に来ていた。

日が降りてきて、そろそろいいだろうと三人に手伝ってもらうよう、呼び出す。

「次は濾し作業だ。鍋から湯気が立ち上るうちに、用意しておいた布で濾していこう。濾すときは慎重にね」と指示を出し、私と久作君で布を広げ、きり丸君と怪士丸君に手伝ってもらいながら濾し作業を進めることにした。

濾す作業を何回か行い、沈殿物がないことを確認すると壺の中に入れふたを閉める。

「あとは、冷ますだけなんだけど……池にでも壺を置いておきましょうか。明日には固まっているでしょう」

「さあ、お風呂にでも入っておいで」と伝え、今日の作業は終わった。

 あ、煤を集めるの忘れてた。
 何かを燃やせばいいんだけど折角だし、食堂で出た煤をもらおうかな。

「あら、紗季ちゃん、今日は何の用?」

 食堂に行くと、夕食の後片付けをしていたという食堂はあらかた綺麗になっていて、おばちゃんはお湯を沸かしていた。
 墨を作るために、煤が必要であることを話すと、

「掃除をしてもらえるみたいで助かる」と返事をいただいた。

「どんどんもって行ってちょうだい!」
「ありがとうございます、それじゃ煤を掻き出していきますね」

 口布と頭巾をかぶり大きな竈かまどの中に手を伸ばす。窯の中はまだじんわりと温かく、煤を掻き出すと、鼻がむずむずとしてきた。

 手じゃ中々、取れないや。

 そう思っているところにおばちゃんが木べらのような煤を掻き出せる道具を貸してくれ、奥から手前に煤を動かしていた。

 ひとまず、これくらいでいいだろうと作業を終えると、おばちゃんはお茶を用意してくれていた。井戸で顔を洗い綺麗にするとお茶を一口啜った。

「いただきます」
「はいどうぞ、紗季ちゃん。あらやだ、紗季様かしら?」

 そういえば、自分が大名だと明かしたとき食堂のおばちゃんも庵にいたと思う。それで、私のことを様と呼ぶのかと納得した。

「いえ、私はここの事務員なので様付けは必要ありません。気軽に呼んでください」

「あらそう?」

 というと、おばちゃんの肩がさっきよりも下がった気がした。

 食堂のおばちゃん、私と一緒にいて緊張してたんだね。こういうとき、地位があると煩わしいんだよなぁ。

 おばちゃんの気遣いに感謝しながら、お茶を楽しむことにした。
 やっぱり、誰かに入れてもらうお茶は美味しいなぁ。

 おばちゃんはニコニコと優しい笑顔で、お茶菓子も出してくれた。

「おばちゃん、ありがとうございました。そろそろ、夜も遅いので」

「どういたしまして。また何か必要なときは言ってね、お茶でも飲みながらまたおしゃべりしましょう」

「はい、またお邪魔させていただきますね」

 おばちゃんの招待に頷きながら、お辞儀をして煤を持ち、食堂を後にした。

 煤を持つと折角手を洗ったのにまた手は黒くなってしまう。煤は自分の部屋の縁の下に置くと、装束を軽く叩きながら、ふと上を見上げた。

 外はもう暗くなっていて、星がキラキラと輝いていた。ぼーっとしていると、と風が冷たくて体が震える。「寒い、早くお風呂に入ってしまおう」と着替えをもって風呂場に向かう。

 風呂場に到着した私は、急いで着替えて湯船に浸かった。体が温まると、一日の疲れがお湯に流されているようで、心地よかった。

 お湯に浸かりながら、ふと忍術学園はすごいなぁと思う。この時代お風呂なんて普通の庶民は毎日入るのが難しいので、毎日入れるのはめったにないのではないかと思う。

 アニメの世界だからってのもあるかもしれないけどね。

「……私も帰りたいなぁ」

 元の時代、世界に帰りたい。平和で戦のない世界に。ついつい、本音が出てしまい自分はまだまだ未熟だと

「ふふ」

 笑いがこぼれる。自分でも何故だかよくわからず、目頭が熱くなってきたので冷たい水を顔にかけ、眠気を覚ます。

「私はここで生まれたのだから、戻れるわけがない」

 そう言い聞かせながら、風呂からあがる。

 あんなに熱い風呂に入って体はスッキリしたにもかかわらず、部屋に着くころには心が重くぎゅっと心臓を軽くつかまれているようでなんだかやるせない気持ちになった。

 私はその重たい気持ちに蓋をするように、眠りについた。



 次の日の朝。午前中は授業だというので、吉田先生に仕事をもらい学園の掃除をしている。

 放課後には授業が終わると、図書委員会の生徒を探しながら、煤の入った箱を持ち教室から出るのを待っていた。が、吉野先生に聞くと今日は一日実技やら座学などの予定がいっぱいらしい。

 それならと、一人で墨を作ってしまった。

 やってしまった……。ついつい、時間があるからと……。

 あとは、固めるだけで終わるだろう。
さて、早めに膠を売りに行って図書委員会の皆にお給料あげないと。

 そう思っていたら私を呼ぶ声が聞こえる。

「きり丸君、授業はもう、終わったのね」

「はい、その感じだと墨作りもう作っちゃったみたいですね」

「ええ、あとは固めるだけなの。固めている間に、町へ膠を売りに行こうと思っているんだけど一緒に行かない?」

「ほんとですかぁ!」

「えぇ、その前に土井先生に外出届を取りに行かないとね」


 やったぁ、と喜ぶきり丸くん。土井先生の部屋まで一緒に行くことになった。
 道中は今日の授業がどうだったとか、実技でこんなことがあったとかを話してくれた。

 そんなことを思いながら歩いているとあっという間に土井先生たちの部屋の前まで来ていたらしい。きり丸は、失礼しますと声をかけながら部屋に入っていったので私もそれに続いた。

 部屋には、土井先生と山田先生がいてちょうどお茶を飲んでいるところだった。

 きり丸は二人に外出届をもらいに来ましたと声をかける。

 土井先生は、私ときり丸が一緒にいるのに疑問を持ったのか声をかけてきた。
 私はそれに丁寧に答える。

 今日は図書委員と一緒に作った膠を売りに行くのだと説明すると、私もついていっていいかと聞いてきたのでもちろんですよと答えた。

 すると今度は土井先生が私にも外出届を出してくれるというのでありがたくお願いした。

 そして、三人で町まで行くことになったのだ。

 町に着くと、私ときり丸と手分けして膠売りをすることにした。

「じゃあ、きり丸君。私はあっちで膠を売ってくるから。手分けして売ろうか。土井先生はきり丸君についていただけますか?」

 きり丸君と土井先生はすぐに了承した。

「わかりました、行くぞきり丸」

 快く答え、土井先生はきり丸君の隣についた。

 土井先生がいるならきり丸君は安全だろう。そう思い、私も周りの人に声をかけながら膠を売り始めた。

 売っていた膠は質の高いものだと、いい値段で客は買ってくれた。

「きり丸君、どうだった?」
「はい!いい値段で売れましたよ!」

 きり丸君は「がっぽがっぽ」と笑いながら小銭を見つめている。

「そう、よかったわ」

 話を聞くと、そこそこいい値段で売れたようだ。

 そして、三人で学園に戻ることにした。その道中は今日の授業の話や実技の話など色々してくれた。

 話していると、突然きり丸君が走り出した。

 何事かと思い、追いかけようとしたら「いつものことです」と土井先生に止められた。

「あいつは、小銭を拾う癖がありまして……多分小銭が落ちる音でも聞こえたんでしょう」

 全然、聞こえなかったけど……。
 きり丸君は犬かなにかなのだろうか……。

 きり丸君が小走りで帰ってきた。手には小銭一枚が握られている。それを大切そうに懐にしまい、また走り出してしまった。

「ふふ、きり丸君は面白いんですね」

「えぇ、まぁ……」

 と土井先生は苦笑しながら言った。きり丸君が小銭を拾うのは日常茶飯事らしい。

「あの、土井先生……。きり丸君ってどういう子なんですか?」

 私は思い切って聞いてみた。
 すると、土井先生は少し考えた後ゆっくりと話し始めた。


「あいつは……戦災孤児なんです」

 それは予想もしていなかった言葉だった。いや、この時代なら多い方かもしれないが、まさか忍術学園でそのような過去を抱えている生徒がいる、なんて思いもしなかったのだ。

「両親を戦で亡くして、一人生き残ったそうです」

 そんな辛い過去を背負っているのかと思うと胸が締め付けられた。そしてそれと同時にきり丸が何故あんなにもお金に執着している理由がわかった気がした。

町から出て、森の小道に出るとようやくきり丸君に追いついた。木の上に登ろうとしている。

「きり丸、木の上に小銭なんてないだろう」

 やれやれと土井先生は、きり丸君に呼びかける。

「いや、土井先生蜂蜜です! 高く売れますよー」

 蜂蜜と聞いて土井先生が驚いている隙にきり丸は素早く木に登り始めた。

「こらっ! 何をしてるっ」

 土井先生は慌てて、きり丸と声をかけた。
 その声に一瞬その場の空気が止まった。が、その時すぐ上の葉の上に蜂が通ったのだ。

「うわっ!」と、きり丸君が鉢に驚き木の上でバランスを崩した。

 とっさのことに私は呆然としてしまった。

 ドサッという音と鈍い声が聞こえたかと思うときり丸君の体が落ちた。

「いてて……」
「きり丸怪我はないか!?」
「大丈夫ですよ」
「まったくお前は、なんだってそそっかしいんだ」

 少し怒り気味に土井先生が言った。すぐに立ち上がった、きり丸君を見るに大きな怪我はなさそうでとりあえずほっとした。

「きり丸君は、蜂蜜が欲しいの?」
「はい!」と、きり丸君は元気よく返事をした。

「わかったわ……。それじゃまず煙を起こしましょうか」
「わかりました~」

 きり丸君が火付けをしているときに、土井先生に話しかけられた。

「あの、どうして煙をつけるんですか?」

「山火事が起こったと勘違いして巣から出てきてくれるんです。半刻も待たずに蜂蜜が取れるでしょう。ただ、退治できるわけではないので取ったらこの場をすぐに離れましょう。土井先生、蜂がいなくなったら木に登って取ってきていただけませんか?」

「わかりました」

 私は懐から出した扇子で蜂の巣に煙を送り続ける。蜂たちがざわめき始め、巣からぞろぞろと羽音をたてながら出てくる。

 もうそろそろ取れそうだな。

 土井先生にとっていたいただいた、蜂の巣をきり丸君と布でくるむ。

 本当は、壺とかがあればいいんだけど……。蜜がぽたぽたと垂れてしまいそうで、もったいないなぁ。と思いながら帰路を急いだ。

10/10ページ
いいね