2部 忍術学園での生活

次の日、朝起きると学園長先生から呼び出された。昨日のことだろうと、まだ眠い目をこすりながら歩き出す。そして、私を起こしに来た山本シナ先生もお疲れ気味か、声に張りがないように感じられた。
学園長の庵にいくと、各クラスの忍たまのクラス代表がいた。その中には、見知った忍たまもいる。

 全員が揃ったところで、学園長が話し始める。

「皆も知っておるかもしれないが、一年生が攫われる可能性がある。それを行ったのは忍たまの四年生ということじゃ。そのため、下級生だけの外出を禁ずる! しばしの間、休日も学園で過ごしてもらう。すご家族へ連絡済みじゃ、以上!」

 もともと、わかっていたせいか生徒から反論は出ない。しかし、休日に家に帰れなくなるというのは中々、幼い子供には苦しいのではないかと思う。

 おそらく、忍たまを攫おうとしたのが上級生で、普段の下級生を知っているのだから、忍術学園で守りたいという学園長の考えも理解はできる。

 ご家族へはどう説明したのだろうか、いや土井先生がおなかを擦っていらっしゃる……。シナ先生もお疲れに見えたから、教師陣が奮闘したのだろう。ご愁傷さまですとしか言いようがない。

「学園長先生!」
「おぬしは……庄左エ門か。なんじゃ?」

 庄左エ門は眉を寄せ、疑念の光を宿した瞳を学園長に向けた。彼は静かに立ち上がり、口を開いた。

「外出を禁止するということは、委員会活動を禁止するということで間違いないでしょうか」
「その通りじゃ」

 まさか、委員会活動ができなくなると思っていなかったのか「えーっ!」と驚きの声が上がる。

「じゃが、外出の際には先生方が付いていれば、許可しよう。えー、詳しい説明はその都度教師と相談するように」

 丸投げした学園長の言葉に、教師陣がげんなりとした顔になっている気がした。人のことは言えないが、学園長は人使いが相当荒そうだ。

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 話が終わると、生徒だけ人払いされて、残ったのは教師陣だった。私の自己紹介ってところかな。

「以前話した通り、この方こそが越後の大名であらせられる、上杉紗季様じゃ。此度の件で同盟を組みなさった」

「上杉紗季と申す。この同盟を結ぶ際に大名の一筆が必要なため大川殿より要請を受けた。すでに、わが家の忍び衆は天女の居住の発見と偵察を行っている。正体を隠してしまい、すまんかった」

大名っぽい言葉遣いで、この場を取り仕切る。
 一部の先生はこれでもかってくらい、目を見開いている。

 そりゃ、こんなところに突然いたら困るよね……。

「我々で、学園内外の安全を守りましょう。どうぞよろしくお願い致します」

 教師陣に向き直り、頭を軽く下げる。

「大名様自らが同盟を結びに来られるとは光栄でございます。我々も心から歓迎いたします」

「山田先生が、そうおっしゃっていただきありがたい。しかし、普段事務員として生活している際は、私の地位に関係なく接していただきたいです。なにしろ私は、大名なので暗殺対象も多いのです」

先生方は、私が多くを語らずとも理解した様子で「生徒にも伏せときましょう」と約束してくれた。

続いて、私は教師陣に同盟における役割や協力の形について詳しく説明を行った。また、学園内外の情報を共有し、忍び衆との連携を強化する必要性も話し合われた。

 シナ先生が少し表情を引き締めながら質問を投げかけてきた。

「上杉様、攫われた一年生が忍たまの四年生によるものということは、その四年生の動機や目的については何か情報をお持ちでしょうか?」

私は少し考え込みながら答えた。

「残念ながら、まだ具体的な情報は手に入っていません。しかし、忍び衆が不審な動きを察知しており、追及中です。彼らの行動パターンや目的が判明次第、迅速にお知らせいたします。それより、私が気にするのは生徒の状態ですね」

「生徒の状態ですか?」

シナ先生は不思議そうに私の方を向く。

「はい。私自身、様々な生徒と関わって思いましたが、精神的な面で追い込まれている生徒も多いように感じました。先生方には、そのような経験ございませんか?」

「たしかに、授業中にぼーっとしていることが増えたような……」
「委員会が回らず、実技の方にも影響が出ている生徒がいますな」

先生方からは口々に、最近の生徒たちの様子が語られた。

「これは、私が懸念していることなのですが、休日の外出や自宅に帰ることもままならないとなると、下級生の忍たまはどう思うでしょうか? 気疲れしてしまうことが私には不安です」

シナ先生が私の懸念に共感しながら、しばらく黙って考え込んだ。そして、深いため息をつきながら口を開いた。

「確かに、子供たちにとってはこれまでの生活が一変してしまったことでしょう。休日や自宅での時間が制限されれば、ストレスや不安も大きくなりますね」

 私は頷きながら、深刻な表情で続けた。

「このままでは生徒たちの心身の健康にも悪影響が出るかもしれません。学園内外の安全を守るのはもちろん重要ですが、同時に生徒たちのメンタルケアも怠らないようにしなければなりません」

そのためには先生方が支えていくべきだと話すとシナ先生は、理解されたようだった。

 その後、打ち合わせは引き続き続けられ、同盟の具体的な運用方法や連絡手段、非常時の対応策について話し合われた。学園長も率直な意見を述べ、私たちの同盟が学園と生徒たちにとって良い結果をもたらすことを期待している様子だった。

 打ち合わせが終わり、教師陣は各自のクラスや委員会に戻っていった。私は再び学園長に向かって頭を下げた。私は学園長と二人きりになったことを確認して、学園長に向き直る。

「学園長、庄左エ門君と彦四郎君に聞きましたよ。先ほどのお使いは私を信用できるかを確かめる嘘のお使いだったと」

「どういうことですか?」と聞けば、学園長は笑いながら「すまんかった」と返される。このなんでも、唐突にやる性格になんだか自分の父に似ていると感じた。あんな自由人は、一人で十分だと心の中で毒づく。

「それと、学園長先生に相談があってまいりました。上級生に関する情報を忍び衆に伝える許可をいただきたいのです。タソガレドキと同盟を組んでいるのであちらに情報が漏れる恐れがありますが……」

 今回は、藤内君の機転で四年生を傷つけず退散させることができた。だが、上級生だとわからずに忍び衆が攻撃してしまう可能性がある。保護すべき対象を殺してしまえば今回の同盟の意味を為さなくなる。

「うむ、許可しよう。タソガレドキの心配は無用じゃ」
「恐れ入ります」

 
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