偽りの恋人
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*りんside*
夢を見た。
大好きなあの人が隣で笑ってくれて、すごく幸せだった。
でも急に、誰かの感情が入ってきて。
悲しくて切ない感情だった。
何でそんなに悲しいの…?
泣かないで。
その声は、何回も言っていた。
好きだと。
『…………ぅ…』
ゆっくりと瞼を開けると、見慣れない天井が見えた。
そっか、跡部さんを待っている間に…
ふと視線を配ると、ソファーに頭を付けて寝ている跡部さんがいた。
『(え、えと…?)』
状況を理解出来ずに戸惑っていると、片方の手が握られていることに気付き更に驚いた。
ど、どうして、一体何が…?
少しでも動いて跡部さんが起きてしまうのも嫌だし…
自分の中だけでパニックになっていると、肩にブランケットが掛けられていることに気付いた。
温かい…
指先も、
『…あ、れ……』
ポロポロと涙が溢れてきたことに、自分が一番驚いた。
だって、繋いだ手から
伝わってくる。
あれは夢じゃないんだ、
気持ちがすぐ傍にあったから、こんなにも切なくて。
跡「………りん?」
すぐ傍に跡部さんの顔があって、目を丸くして私を見ていた。
『ごめんなさい…』
本当は、
『ごめんなさい、私…』
跡「…りん、」
ありがとうって、言いたいのに。
跡「ごめんな」
どうして、そんな顔ばっかりさせてしまうんだろう。
何も言えなくて、ただ繋がれた手を強く握ることしか、出来なかった。
家に帰って一番最初に出迎えてくれたのは、カルピンだった。
ほぁらと鳴く体を持ち上げギュッとしたら、何故だかほっとした。
今日は遅くなるだろうと思っていたから、心配かけないように予め時間を伝えて出て来た。
だから皆寝てるのだろう。
『カルピン、一緒にお風呂入る?』
頷くように鳴いたカルピンの頭をひと撫でして、なるべく音を立てないようにお風呂場に向かった。
…のだけれど、まだ明かりがついていたのでびっくりした。
『お、お兄ちゃん…?』
リョ「おかえり」
ザーとシャワーの音に負けないように声を掛けると、ドア越しに聞き慣れた声がした。
リョ「桃先輩とさっきまでテニスしてて…ごめん、すぐ出るから」
『あ、そうなんだ。ううん、ゆっくりでいいよっ』
パッと手を離した隙にカルピンが腕の中から抜け出し、早く入りたいのかドアを引っ掻き始める。
『カルピン、お兄ちゃんと入りたいのかな、』
リョ「俺は別にいいけど」
『…私も、一緒に入っていい?』
特に意味もなくぽつりと呟けば、ゴンッとシャワーの落ちる音がした。
リョ「……無理」
カルピンには別にいいけどって言ったのに…
思わずしゅんと頭が下がった。
リョ「…何かあったの?」
『ぇ、』
リョ「りんが甘える時は何かあった証拠」
わ、私甘えてた…?
ボッと顔が赤くなって、慌てて去ろうとすると「りん、」と引き止められる。
リョ「勝手に布団に入ってくるのやめてよね、朝びっくりするから」
『!き、気を付けます…っ』
リョ「まぁ、事前に言ってくれるなら別に…」
追い討ちを掛けるような言葉を聞いて、ショックの大きかった私は全力で階段を駆け上がっていった。
だから…肝心な言葉を聞き逃してしまったのだ。
ぼーとしながらもいつもより長いお風呂に入った後、私は自室のベットに顔を伏せていた。
今日は色々ありすぎて…頭がぐちゃぐちゃだ。
小さい頃から一緒に寝ていたうーちゃん(ぬいぐるみ)と一緒に布団に入り、兎に角寝ようと目を瞑ってみた。
けど、
………全然寝れない。
疲れてるはずなのに、色々頭に浮かんで考えてしまう。
ブンブン首を横に振り、うーちゃんをギュッと抱き締めた。
『……お兄ちゃん、寝ちゃったかな……?』
お兄ちゃんがお風呂から上がって随分経つから、流石にもう寝ちゃったよね。
それに、さっき潜り込むのはやめてって言われたんだった。
………ゆ、床とかも駄目なのかな?
拒絶されたことが悲しくて、じわりと涙が溜まる。
どうしよう…と悩んでいたら、ふと頭に思い浮かんだ人物がいた。
『(でも…寝てるよね)』
寝てるのに起こすなんて迷惑に決まってる。
でも、前は迷惑じゃないって言ってくれたような。
でもでも、もうすぐ1時だし……
携帯画面に"白石さん"の名前を出して、にらめっこすること数分。
2回、2回鳴らして出なかったらすぐ切ろう!と、ピッとボタンを押してしまった。
プルルルル
『……………』
プルルルル
『……………』
やっぱり出なくて。
せめて起こしてしまう前に素早く切ろうと思った時、
《はい》
『…!!』
びっくりして、ガバッと布団を剥いでその場に正座をした。
『あ、…あの、あのっ白石さんですか?』
《ははっそうですけど?》
白石さんの携帯に掛けたのに何を聞いているんだろう。
自分でも変だと思い、恥ずかしくなった。
『起こしちゃいましたか…?』
《いや、今日謙也ん家で泊まり込みでテスト勉強してんねん。今丁度終わったとこやから》
『あ、そうなんですかっ』
良かったぁと、ほっと胸を撫で下ろす。
《りんちゃんからなんて珍しいな、しかもこない遅い時間に。何かあったん?》
『ぇ、えと、』
予め理由を用意しておくんだったと後悔しても、時すでに遅しで。
沈黙が続き、変に思った白石さんが「りんちゃん?」と尋ねてきた。
『あ、えと…』
《ん?》
『ね、眠れなくてっその、』
ここまで来たら正直に言ってしまおうと、膝に置く拳に力を入れる。
『1人で起きてるのが怖くなって、きゅ、急に、白石さんの声が聞きたくなって…』
何て、何て可笑しな理由なのだろう。
そして何て面倒くさい女だと思われてしまったらどうしよう……
ギュッと目を瞑って返事を待ってみても、なかなか返ってこない。
白石さ…と言いかけたところで、ゴンッと携帯電話が落ちた音が響いた。
《白石、ちょ、大丈夫か!?》
《あ、ああ…スマン。ちょっと動揺してもうて、》
『??』
謙也さんの焦った声と白石さんの声が交互に聞こえて、電話の向こうの状況がわからない私はどうすることも出来ない。
「ちょお待っとって」と言う白石さんは、階段を降りているようだった。
《ごめん、もう大丈夫》
『あの…?』
《外に出たから。こっちの方がりんちゃんも話せるやろ?》
外なんて、暗くて寒いのに…
白石さんの優しさが嬉しくて、緊張で強張っていた体が少し緩んだ気がした。
《りんちゃんこっちの文化祭来るやろ?紅葉から日程とかのメールいくと思うから》
『はい!ありがとうございます。あの、私の学校には…』
《うん、勿論行くで》
「楽しみやなぁ」と笑う白石さんに、私も自然と微笑んでいた。
暫く談笑していると、だんだん瞼が重くなってくる。
《もう寝や?冷えたら大変やし》
『で、でも、』
《りんちゃんが眠るまで、繋いどくから》
な?と優しく言い聞かせる白石さん。
その言葉に甘えて、再び布団の中に入ることにした。
『私……』
《うん》
『…好き……ですから……』
いちばんに、
『白石さんが…………………………………………だい……すき……』
意識を手放す瞬間に言った言葉は、ちゃんと伝わったかな?
謙「白石風邪引くでー俺が下におるから…ってまたフリーズしとるし!」
白「……………」