偽りの恋人
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会場内にはいくつかバルコニーがあり、その中でも一際目立たないところにりんはいた。
宝石が埋め込まれた手摺に手を付き、外の景色をぼんやりと眺める。
『…跡部さんは、嫌じゃないのかな』
今の気持ちが、ぽつりと零れてしまう。
たくさん綺麗な女性がいて、自分よりずっと大人っぽくて、きっと跡部とも話が合うだろう。
それに比べ自分は一般家庭で、背も低いし同い年の子より幼い顔付きだし…
『…何で私なんだろう、』
跡部はモテるだろうから、他に着いてきてくれる女の子はたくさんいるはずだ。
それなのに、何故自分に声を掛けたのだろう…?
「……ふ」
『?』
「はははっ君本当に言ってるの?」
突然聞こえた声の主は、自身のお腹を押さえながらりんに近付いてくる。
え、え?と混乱するりんは、笑いすぎて涙まで出ている龍間をポカンと見つめるしか出来ない。
『あ、あの?』
龍「ああ…ごめんごめん。ちょっとツボに入っちゃってさ」
指で涙を拭う姿は、先程挨拶をしていた者と同一人物にはとても見えなかった。
龍「君、景吾のパートナーだよね?」
『あ、はい。でも本当にお付き合いしてるわけじゃなく…っ』
龍「うん、知ってる。頼まれたんでしょ?」
何で知ってるのかと疑問に思う前に、「俺勘がいいからさ」とニッコリ笑われる。
龍「景吾、よっぽどあの婚約者が嫌なのか、それとも…」
龍間は顎に手を添えながら、りんを見て口角を上げた。
龍「何で景吾が君に頼んだのか…教えてあげようか?」
『え?』
急に龍間の顔が近付いてきたと思ったら、そっと内緒話をするように耳元に囁かれる。
それを聞いたりんは目を真ん丸にして。
暫くしてから、ぼんっと顔を真っ赤に染めた。
『それは…絶対にないです!///』
「(反応おもしろ、)そう?だって景吾は興味ない子にはとことん素っ気ないし、そうじゃなきゃ普通パートナーなんかにしないよ」
『!き、きっと何か事情があって…っ』
首をぶんぶん横に振って否定するりんに、龍間は再び可笑しそうに笑う。
龍「あともう1つ。鈍感な君は気付いてないだろうけど、さっきから色んな野郎に見られてるよ。その度景吾が怖い顔で「りん!」」
名前を呼ばれて振り向くと、血相を変えた跡部が走り寄ってきて。
眉間に皺を寄せていることから怒っているのだと察し…りんはビクッと肩を揺らした。
跡「勝手にいなくなるんじゃねぇ!おとなしくしてろと言ったはずだ」
『ご、ごごめんなさい、あの、外の空気が吸いたくて…っ』
居づらくて、なんて言ったらきっと困らせてしまうから、咄嗟に誤魔化すりん。
跡部の綺麗にセットされてあった髪は乱れていて、息が上がっているのは走って探してくれていた証拠。
『………ごめんなさい』
その姿に申し訳なくなって、しゅんと頭が下がる。
跡部は短い溜め息を吐き、りんの頭に手を伸ばした時……漸く隣に立つ者に気付いた。
跡「…龍間、いたのか」
龍「初めからいたし。本当彼女しか見てないんだな」
先程言われた言葉と重ねてしまい、りんの顔はカーと赤くなる。
跡部はというと、本当のことなので特に何も感じていなかった。
龍「じゃ、俺はそろそろ行かないとじいさん達に怒られるから。パーティー楽しんで」
2人にひらひらと手を振り、龍間は去って行った。
まるで嵐のようだったとりんは暫くポカンとし、隣に立つ跡部が歩きだしたので慌ててついていった。
跡「龍間と何話してた?」
『ふぇ!?えぇと、』
何って…と、思い出したら再び意識してしまい、言えないりんは顔を赤く染めて俯いた。
その様子を見て跡部が口を開こうとした時、
「今宵のメインイベント、ダンスパーティーの始まりです。皆様どうぞ、音楽に合わせてお楽しみ下さい」
会場内ではダンスが始まろうとしていて、ゆったりとしたピアノ演奏に合わせて男女が手と手を取り合っていた。
跡部とりんは入り口でその光景を見つめていたが、やがて跡部からすっと手を差し出した。
困惑するりんにふっと口元を緩めて問う。
跡「…踊るか?」
氷帝の皆に協力してもらい、一生懸命練習したダンス。
練習中何回も皆の足を踏んでしまい、不安だらけではあるが……
『よろしく、…お願いします』
ペコリと頭を下げて、差し出された手にそっと触れた。
広い会場だが、その分人口密度も高い。
それなのによくぶつからないなぁなんて頭の隅で思いながら、
りんは演奏に合わせて体を動かしていた。
『……………』
きっとそれは…跡部がリードしてくれているからで。
思ったより密着する体。背の低いりんだが、見上げればすぐ近くにある顔。
りんは先程から緊張の為、ずっと跡部のシャツを見ていて、顔を上げれずにいた。
今こんなに緊張しているのに、もし、もし相手が白石だったならば……
自分は倒れてしまう気がする。
『(……はぅ!)』
一瞬気を緩めてしまった時、跡部の足をむぎゅりと踏んでしまった。
りんはサーと顔を青くして、怒らせてしまっただろうか…と不安になりそっと面を上げた。
すぐに目が合いりんは慌てて謝ろうとするが、瞳を細めて見つめられ。
そんな跡部に、何も言えなかった。
"景吾はね、君のことが…
好きなんだよ"
龍間は勘違いしているんだ。
それなのに、どうして。
そんな顔をするのだろう。
「…もういい加減にして頂戴!」
1人の女性が甲高い声を上げた為、ピアノの音が止まりしん…と静まり返った。
驚いて動きを止めたりんも声がした方を見ると、顔を赤くした女性がわなわなと震えていた。
「こんな屈辱初めてです。よくも私に恥をかかせてくれましたわね?」
ビシッとこちらに向かって指を差し、腰に手を当てながら歩いて来る女性。
りんと跡部を交互に見渡すと、眉を吊り上げた。
「婚約が決まったものの、ずーっとデートのお誘いもなくて。今宵のパーティーで一緒に出席してくれると思いましたのに…別の方がパートナーだなんて!しかもこんな……
小学生のような方!!」
跡部の婚約者だと言う女性は一気に捲し立てるように話す。
りんは言われたことが余程衝撃的だったのか、小学生…小学生…とエコーのように頭の中で繰り返していた。
跡「…婚約は断ったはずだ」
「あら、あんな電話一本で?随分素っ気ない態度ね」
『(しょ、小学生……)』
跡部と(元)婚約者の眉間の皺がどんどん寄せられていく中、りんはずーんと暗いオーラを放っていた。
「大体テニステニスって、所詮高校までのお遊びでしょ?
あんな汗臭いスポーツに本気になる方が理解出来ないわね」
ね?と、2人の掛け合いを唖然と聞いていた人達に尋ねる。
跡部の後ろで落ち込んでいたりんは、ピクッと反応した。
「振られるくらいならこっちからお断りするわ。
大体あなた初めから嫌でしたの。妙に威張って上から目線で。
跡部財閥が何よ、家に支えられてるだけでしょ。
その上あんなものに執着しているなんて」
後ろからその表情を伺うことは出来ないが、跡部は何も言わなかった。
代わりに、ギュッと拳に力が入ったのが見えた。
『……違う』
真っ直ぐに前を向くりんを、その場にいる全員が見つめる。
『違います。跡部さんは…そんな人じゃない』
足が震えて怖いけれど。
そんなことよりも、ずっと。
『テニスに対して、跡部さんはお遊びなんて思ってないです。陰で誰よりも練習して、努力してて…すごい人です』
色々なものを抱えて、自分を抑えていることも、
でも本当は、淋しがりやなことも…
この人より、知ってる自信があるから。
『跡部さんは、テニス部皆のお手本だから、きっと誰よりも強くいなきゃって思ってて…
でも皆、そんな跡部さんだから尊敬して、優しくて努力家な跡部さんだから、信じてるんです。…だから、』
だから、
『跡部さんのこと、そんな風に言わないで…っ』